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PHASE41 人類史の常識

「さて……と。

 ある程度回復したし、今日のお仕事行きますか」

「え……まさかこれからプレイヤーと戦うんですか?」

「当たり前だろ。

 日没から二時間近く経ってるんだ。

 おそらくすでに何十人と死んでる」


 淡々と語る先輩の口ぶりに僕たちは背筋が凍った。


「す、すみません……

 僕と戦ってなければこんなロスは」

「気にすんな。

 殴り合わなきゃ落としどころが見つけられなかったのは俺のほうなんだから。

 それに、お前の荒唐無稽な理想郷ユートピア嫌いじゃねえよ。

 俺のやってるのは結局イタチごっこだからな。

 目の前の命を救っているといえば聞こえはいいが、根本的な解決策が浮かんでいないだけだからな」


 自嘲気味な笑みを浮かべる先輩。

 それを見かねた様にアメリが立ち上がって言う。


「百足のようなブラックリストエネミーの存在は確かにプレイヤーの狩りの抑止力にはなれている。

 あなたの仕事はちゃんとこの世界の人のためになっているわ」

「嬉しいこと言ってくれるね。

 なんか俺、アンタのこと気に入っちまいそうだよ。

 命を助けられた恩義もあるしな」


 そう言ってアメリに迫る先輩だが、僕は身を挺して止めた。


「ククク……冗談だよ。

 アメリ、俺はお前を見逃してやるが百足がお前を見逃すわけじゃない。

 修哉の近くにいるならバレないよう、心がけを忘れるな」


 コクリ、とうなづくアメリを見て、先輩は満足そうに彼女の頭を撫でて立ち去って行った。





 先輩と真希奈がいなくなってから間もなく、僕たちも体育倉庫を出た。

 外はすっかり夜で真っ黒な空に微かな星が散りばめられていた。


「さて、私もプレイヤーキルしに行こうかな。

『タイラント・テンタクラ』も手に入れちゃったし、これの使い勝手も慣れておかないと」

「アメリ。僕も連れていってくれるか?

 プレイヤーを見つけるコツを知りたいんだ」


 僕がそうお願いすると、アメリは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「ん……正直、あんまり連れて行きたくないわ。

 だって、シュウヤは戦うんじゃなくて説得するつもりなんでしょう」

「ああ、そのつもりなんだけど」

「説得に応じてくれて、握手のために手を差し出されたらどうする?」

「そりゃあ……握手し返すけど」

「【毒手】とかいう触るだけで相手を毒状態にするスキルが存在するのに?」


 暗い目で僕を覗き込むアメリ。

 圧されて僕は言葉を詰まらせる。


「それは……」

「私たちは死なないけど、シュウヤたちは一歩間違えたら死ぬ。

 優しいから簡単に騙されそうだもの。

 そもそものんびりお話する余裕なんてないわ」

「だけど、話さないことには説得はできないだろう」

「命をかけてやることじゃないって言ってるの!」


 声を荒げるアメリに有村がそっと背中に手を置く。


「みんながアメリちゃんみたいならいいんだけどね。

 でも、そうじゃないでしょう。

 カードを集めるために抵抗できない女性や子供を殺しまくってる人もいるんでしょ。

 私はもし、そんな人が改心しても一切信じられない。

 悔やんで出家しようがチャリティイベント開こうが絶対に許さないよ。

 きっと、私以上に過激な思想を持っている人たちだっているんじゃないかな。

 命を奪うってことは「知らなかった」で済ませられる問題じゃない」


 有村の言葉は正論だった。

 おそらくこの世界の一般的な人間の持つ正しい感想ではないだろうか。

 友達や家族を奪われた人たちの無念や怒りを晴らすのが因果応報がなされることであれば、僕にやろうとしていることはそれを踏みにじる行為ともいえる。


「二人は、僕のやることに協力できない?」


 アメリと有村を交互に見る。

 有村が先にうなづいて口を開いた。


「協力以前に、そんな危険なことさせたくない。

 もし、修哉くんが騙されて殺されたら、私はこの世界にやってくるプレイヤーたちを皆殺しにするよ。

 何度蘇っても何度も殺す。

 だから、わざわざ危険に身をさらさないで」

「有村……」


 普通の女子高生だった有村が殺意をもって敵を倒すやり方を身につけつつある。

 それだけでもこのゲームの悪影響を感じずにはいられない。


「私もタマキと同意見。

 見敵必殺で狩りに行くならまだしも、説得なんかのために手加減しながら戦う仲間なんて邪魔すぎて連れて行けない」


 アメリらしい、けど揺るがない答えだ。


「よーく分かったよ。

 余計なこと考えさせてすまなかった」


 僕は頭を下げ、有村の手を掴んだ。


「僕は有村を送っていく。

 アメリは終わったら僕の家に帰ってくるといい。

 制圧ポイント、再設置しないとだろ」

「ああ……そうね。

 なるべく早く戻るようにするわ」


 そう言ってアメリはプレイヤーを捜しに行った。



 有村の家に送っている途中、ほとんど無言だった有村がゆっくりと口を開いた。


「頭ごなしに否定してゴメンね」

「え……ああ、いや、有村の言ってることは全部正しいよ。

 もし、今の状況が世間に知れ渡るようなことになれば、あっちの世界の連中を許せないと思っている人間がほとんどだろう」


 ふと、この世界で行われてきた戦争について振り返る。

 どれだけ悲惨で理不尽に多くの命が奪われようと終わらなかった戦争はない。

 日本の戦国時代、英仏の百年戦争、二度の世界大戦、米国とソ連の冷戦……


 どれだけ秩序が崩壊しようとも、イデオロギーが対立しあおうとも、膨大な死者を数えようとも、無慈悲で残虐なことが行われようとも、戦争には必ず終わりがあった。

 強力な支配者の台頭だったり、権力者の一声だったり、世論の厭戦ムードの高まりを受けてだったり、別の解決しなくてはならない問題に取り掛かるためだったり。

 戦争を始めるのが人間であればその幕引きも人間によってなすことができる。


 そう……できたから人類は滅びることなく歴史を紡ぎ続けられた。


 だが、この戦いに人類史の常識は適用できるのか?

 そもそもこれは戦いとして成立しているのだろうか?

 恐竜が巨大隕石によってなす術なく滅ぼされてしまったように、人類にとっての滅亡の始まりだとしたら……



 考え事をしながら歩いていると、有村がギュッと僕の服の裾を掴んだ。

 振り返ると彼女はホラー映画を見ている時のように顔を強張らせていた。


「もしかして、感度良好オール・クリアを?」

「夜道歩くなら警戒して当然でしょ。

 それより……かなり近い。

 1キロも離れてないと思う」

「すっかり鉄火場に慣れちまって……

 こっちに向かって来そうか?」

「多分大丈夫……だけど、何か————おかしいじゃん!?」


 有村が弾かれるように走り出した、ので僕も追いかける。


「オイオイ! 人には危険なことするなって言っておきながら何するつもり!?」


 僕がそう問いかけると、有村は唾を飛ばしながら、


「しょーがないでしょっ!!

 女の人が子どもかばおうとしてるんだから!!」


 と、怒鳴りつけてきた。

これにて第三章完!


次話から第四章に入ります。







感想、ブクマ、評価、レビュー……読者の皆さんの反応が私にとってのメメントカードです。

力をください!

より多くの人に読んでもらいたいです!


ページ下の☆ ☆ ☆ ☆ ☆を輝かせてください!

よろしくお願いします(迫真)

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