PHASE37 言葉を届けるために
有村視点です。
「くっ……そおおおおお!!」
マッキーは隠し持っていた手裏剣をアメリちゃんに向かって投げるけど、その全部を弾き落とされる。
脚を負傷し、速度は落ちているマッキーがいつまでも避け続けられるわけがない。
最初、脇腹を触手が掠めた。
マッキーがしまった、といった顔をして横に身体が傾く。
直後、十数本の触手がマッキーの小さな身体を喰み、締め、嬲り尽くしていく。
「マッキー!?」
「やば……止まってええええええっ!!」
アメリが叫ぶと触手の動きが緩慢になり、やがて動きを止めた。
「ハアッ……な、なんて扱いにくいスキル。
危うく殺しちゃうところだった」
息を切らせながらアメリちゃんが呟く。
触手が消えて、その中から全身傷だらけになったマッキーが吐き出されるように地面に落ちた。
「て……手加減のつもり?
ふざけんなし……」
ボロボロで血を流しまくってるマッキーが恨めしそうにアメリちゃんを睨む。
「私は……この世界の人間を絶対に殺さない。
そうルールを定めているの。
シュウヤやタマキや……あなただって必死で生きている世界だから、私たちがゲーム感覚で荒らしていい場所じゃないと思ったから」
「……口ではなんとでも言えるし」
頑なにアメリちゃんを拒絶するマッキーの態度に、いい加減ムカついてきた。
「口だけじゃないじゃん!
アメリちゃんはちゃんと態度で示してるじゃん!」
「オマエもわけわかんないんだよ、有村ぁ!!
なんで完全パンピーのオマエがあんな無茶な真似できるんだよ!」
その問いについては考えるまでもない。
「そんなの大切な人を助けるためだからに決まってるじゃん」
私の答えにマッキーは目を細めた。
「マッキーも知ってるとおり、私一回死んでるんだよ。
修哉くんとアメリちゃんが助けてくれなきゃ今ここにいない。
私はね、ふたりの助けたいって思いに生かされたの。
だったら、同じ想いを返してあげたいと思うのが当たり前じゃない?」
まー、一時は闇落ち寸前だったけど……それはダンマリで。
「詳しいことは分からないけど、マッキーたちは世界の存亡みたいな大きなことを見ながら戦ってるんだと思う。
アメリちゃんはそれよりちょっと小さいけど見える範囲の人を護りたい。
私は……大切な人を助けたい。
それぞれ立場も目標も違うけど、向いてる方向自体はそんなに変わらないよね。
私たちが争い合う必要ないはずだよ」
思いの丈をマッキーにぶつける。
たったそれだけのことをするためにとんでもなく疲れて痛い戦いをしなきゃいけなかった。
どうかしているかもしれないけど、全力でぶつかり合わないと言葉を届けることすらできないことってあるんだなあ。
「……それを決めるのは私じゃない」
グググ、と身体を起こすマッキーにアメリちゃんは警戒する。
けど、次にマッキーのとった行動は体の至るところにつけた武器を外すことだった。
「でも、私の見える範囲では……大目に見てあげんよ。
どうせ、兄さんがしゅーちゃんをボコボコにしちゃうんだ。
下手したら殺しちゃうかも」
「それが分からないんだけど!
先輩って修哉くんと仲良しだったじゃん。
なのにどうして————」
「DEVRと友好的な関係を築いている人間は全員抹殺しろ。
数日前に上からあったお触れだよ」
「DEVR……プレイヤーのこと?」
「そう。たまちゃん気付いているでしょ。
あんな大規模な虐殺事件があっても報道は一切動かない。
それどころか現場の鎮圧に当たった自衛隊に対して、市民に暴行した疑いかけてバッシングしてる。
明らかにヤツらと手を組んでこの国を滅ぼそうとしてるヤツがいて、それがどんどん拡大していってる」
「拡大ってどういうこと?」
「ただの一般市民がDEVRに協力したりカードを使ったりし始めてるってこと」
マッキーは私とアメリを交互に指差す。
「わ、私はこの国を滅ぼそうとかこれっぽっちも!」
「疑わしきは罰する。
いちいち事情聴取しているヒマねえし。
クソムカつくことにコイツらが持ち込んだカードってのは兵器として便利過ぎるんだし。
油断した次の瞬間に首が切り落とされてもおかしくないし」
「だから……修哉くんとアメリちゃんが接触している証拠を消すために、アメリちゃんを撃ったの?」
私が尋ねるとマッキーは痛みに呻きつつ首を縦に振った。
「もし、見つけたのが兄さんじゃなかったら今頃しゅーちゃんはこの世にいない。
真夜中に爆弾でも放り込まれて死んでたよ」
ゾッとした。
私が遊び疲れて眠りこけてた夜にそんなことがあり得たということに。
アメリちゃんは恐る恐るマッキーに質問する。
「じゃあ、お兄さんはシュウヤを殺す気はないってこと?」
「……それはどうかな。
兄さんの心中なんて私もわかんないし。
でも、仲間に引き入れられないなら容赦しないと思う。
私情を挟んだ兄さんの気持ちを踏みにじるようなもんだからね。
アレで傷つきやすいから」
クスクスと笑うマッキー。
だけど、傷が痛むらしく顔をしかめる。
状況は分かった。
次にやるべきことはひとつだ。
「マッキー。
修哉くんのところに行こう」
そう言って私は肩を貸す。
驚いたような声で、
「は、はあ!?
なんで私を!
私はオマエらの敵だろ」
「そう敵、敵!
まだ戦闘は続いてる!
修哉くんのアレなら戦闘開始の状態にまで回復できるんだから傷治してもらおうよ!」
私の言葉にマッキーはドン引きしてるし、アメリちゃんもキョドりはじめた。
けど構うか。
「おもっ! アメリちゃんも肩貸して!」
「ええ……ああ、ハイハイ……
でも、そう上手くいくものかなあ。
この戦闘はシュウヤが関わったものじゃないし……」
「うーん、大丈夫じゃない?
言ってみればこれってチーム戦じゃん。
修哉くんチームvs拓殖兄妹って感じで。
だったらまだメインステージが残ってるし戦闘中、ということにする!」
私がそう言うとマッキーが噴き出した。
「くふっ。有村、あんたバカだねえ」
「高校中退の不良ちゃんにバカ呼ばわりされちゃった」
「あはは、たしかに。
私もバカだ」
笑ってるマッキーを見て、もうさっきまでみたいなケンカをすることは無いんだろうなって気がした。
「……そういや、アンタさっき私のこと重いって言ったね」
ゴツん、と胸を小突かれた。
「ちょっと痛いんだけど」
「戦闘継続中なんだし。
やり返していいよ」
あ、そうか。
じゃあ早速。
「ていっ」
私はマッキーの胸を小突いた………………
ポヨン。
「ンッ……お返し」
ゴツん。
「いたた…………このっ!」
ポヨン。
「アン! くすぐったいよ」
ゴツ……
「…………ちなみにマッキーブラのサイズおいくら?」
「Gの60だけど……でも最近ブラが小さくなってきてるし」
もにゅんもにゅんと自分の立派な胸を揉みほぐすマッキー……ジーか……
「私も修哉くんに記憶消してもらいたくなってきた…………」