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PHASE36 意地の見せ所

再び有村視点です。

 私はマンガの登場人物には困難を乗り越えて成長してほしいと思うタイプだ。

 恋愛漫画でもバトル漫画でも。

 ご都合主義も最初から最強ってのも気に食わない。

 痛い苦しいもう嫌だってのを乗り越えてのカタルシスが大好き————なんだけど……


「い、ったあ〜〜〜っ……」


 自分がやるなら最初から最強がいい。

 痛いのも苦しいのもごめんだ。


「ん? 現実逃避のために漫画のことでも考えてる……って感じじゃないか。

 アンタは漫画とか読まなさそうだし」


 読むよ! たまにだけど……



 マッキーの言ってたとおりだった。

 修哉くん以上かは分からないけど、メチャクチャ強い。

 加減してなのに私は一撃でこの有り様だし、アメリちゃんも歯が立たない。


「クソっ…………」


 悔しそうに口の中の血を吐き捨てるアメリちゃんに迫るマッキー。


「兄さんから聞いてるけどアブソーバー切ってるって本当だったのかよ。

 最悪。できれば眠るように死んでくれないかなぁ」


 私はともかくアメリちゃんには容赦しないだろう。

 間違いなく殺される。

 いくら蘇れるっていっても死ぬ時の記憶なんて蓄積していったら絶対にヤバいことになる。

 私は記憶を消してもらえたからまだ良いけど、それでも気持ちいいものじゃない。


 最後の切札は私が持ってる『暗界蠢くタイラント十六の暴虐テンタクラ』……

 でも、こんな拓けた場所で使ってもマッキーには避けられちゃうだろうし……


(タマキ、聞こえる?)


 小さな声が耳に入った。

 私はアメリちゃんを見る。

 目があった。

 小さくうなづいて応える。


(なんとかしてマキナを建物の中に連れ込むから、そしたら触手を展開して。

 あと、私が死ぬことがあっても躊躇わないでね。

 本当に死ぬわけじゃないんだから)


 ……なに、それ?


 こっちの心配、完全ムシ?

 ありえないし、イカれてるよ。

 献身とか、捧げられた方の身になってほしい。


「ふざけんなぁ!!」


 私は声を上げて立ち上がった。

 マッキーもアメリちゃんもビクリと肩を震わせて私を見る。


「どいつもこいつも好き勝手なことばっかり!

 誰か一人くらい私と同じ感覚で話せる常識人はいないの!?

 忍者にゲーマーにくノ一に!

 アンタたちみんな尖りすぎなんだよ!」


 何故か怒りに震えていた。

 怖いとか不安とか全部かっ飛んでく爽快感にも似た興奮が湧き上がってくる。

 今のハイ状態ならできるかもしれない。


「マッキー……悪いけどぶっ倒していくよ。

 さっき爆発音が校舎の上から聞こえた。

 多分、耳のいいアンタも気付いてるよね」


 マッキーの表情が険しくなる。

 多分、あの爆発は想定外のこと。

 つまり拓殖先輩の手の内じゃない。

 修哉くんが善戦してるってことだと思う。

 でも、きっと無茶苦茶やってる。

 こっちの心配なんてお構いなしに。

 だったら、私も勝手にやるぞ!


「かかって来いよ! マッキー!

 じゃないとお兄さん助けにいけないよ!」


 私は煽ってみる。

 すると効果はてきめんだったようで彼女は笑い出した。


「兄さんがしゅーちゃんに遅れを取る?

 そんなわけ……ネェに決まってんだろうがっ!」


 またたった一歩で私の眼前に突っ込んできた。

 だけど、


「くたば————ブッ!?」


 マッキーのパンチより先に私の肘打ちが顔面を捉えた。

 鈍い感触がひじからゾワゾワと這い上がってくる。


「チッ! 焦り過ぎたし……だったら」


 マッキーは一歩引いて呼吸を整えてからパンチやキックを繰り出してきた。

 けれど私はそれを紙一重のところで避け続ける。

 そして、連続攻撃が途切れる瞬間、向こうのパンチの引き手に合わせて一歩前に。


「でやああああああっ!」


 拳をマッキーの鼻っ面に叩き込んだ。


「ングウっ!」


 鼻を潰されて痛がるマッキーだけど……コッチだって、


「きゃあああああああっ!!

 いっったああああい!!」


 手があり得ないくらい痛い!!

 出産の痛みレベル!?

 産んだことないけど!!


 私はマッキーの攻撃を見切るために【感度良好オール・クリア】を発動しながら戦っている。

 視覚や聴覚といった五感が強化されるこの能力。

 便利そうだけど諸刃に剣で強化された聴覚で人混みの中の会話なんて聞いたら音に酔うし、ライブなんて行ったら多分死ぬ。

 強化された視覚ならバッティングセンターのボールだってスローモーションで見えるけど無茶苦茶集中力が削られる。


 だから格闘戦では限定的に視覚だけを強化して戦っていたけど、マッキーの攻撃は見えていても避けられない。

 動き出したらもう手遅れなほど速い。

 そんな彼女の上をいくにはどうするべきか?


 五感を全部強化して、それに付随する第六感をも研ぎ澄ませる。


 昔の少年マンガ並のムチャクチャ理論だけどうまく行った。

 現に今、マッキーがどんな攻撃に出てくるか手に取るように分かる。

 だからカウンターでキックを合わせるのも簡単……なんだけど!


「ああああああっ!!

 あ、足が死んじゃうううううううっ!!」


 痛覚も強化されてるんだもん!

 笑うほど痛い!

 自分で攻撃しといてこのザマなんだから足の指をタンスの角でぶつけたりなんかしたら間違いなく死んじゃう!

 マッキーの痛い攻撃なんてくらったらひとたまりもない!


「……あ、有村。まさか……」


 気づかれたあっ!?

 やばいやばいやばい!


 私は咄嗟に彼女の膝関節にキックをぶち込んだ。

 すると、


「ぎゃあああっ!!」

「足ぃいいいいい!! 死んじゃった!!

 足死んじゃった!!」


 焦って自爆した!!


 私はその場で悶絶している。

 多分、打撲ほどの怪我もしていないけど。

 痛みで動けなくなった私は慌てて感度良好オール・クリアを切る。

 すると痛みはなくなったが寝起きと同じくらいの虚脱感に襲われた。


「あ、有村ぁ……まさかそこまでクソ根性見せるとは思わなかったし……

 尊敬に値するし……」


 慌てて放った勢いまかせのキックは思いの外威力があったみたいで脚を引き摺るマッキー。

 私はもうろくに動けない。

 次にマッキーが攻撃してきたら避けることすらできない。


 だけど、



『這い寄り出よ、【暗界蠢く(タイラント)十六の暴虐テンタクラ】』


 アメリちゃんがやってくれる。


 マッキーにカウンターキックをお見舞いした時、痛みで悶えながらもカードをアメリちゃんに向かって投げておいた。

 痛みに大げさに悶える芝居……じゃなくてマジで痛かったけど!

 アレはマッキーの注意をこっちに向けるもの!


 ブワっ! と食虫植物が捕食態勢に入ったようにアメリちゃんの腰回りに触手が生えた。

 マッキーがそれを見て焦るけど、もう遅い!


「やああああああっ!!!」


 アメリちゃんが触手をマッキーに向かって放つ。

 その動きは疾く、変幻自在。

 しかも立ち止まって触手を伸ばすのではなく、マッキーに迫りながら上下前後左右の至るところから立体的に攻撃する。

 ハッキリ分かった。

 あのカードはピンク髪の女には使いこなせてなかったんだ。

 振り回して近寄れないようにする守りの武器なんかじゃなく、圧倒的な手数と攻撃範囲で制圧していく超攻撃的なスキルカードだったんだ!

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