PHASE33 密航
有村視点です
学校の敷地内の人通りの少ない場所に使われていない体育倉庫がある。
以前に女子生徒が乱暴されたとか、いじめっ子がリンチで殺されたとか、禍々しいうわさが漂っていて誰も近寄ろうとしない。
そんなところ、できる限り近づきたくないのだけれど人目のつかない場所ってここくらいしか思いつかなかったから。
修哉くんがアメリちゃんに預けたスーツケースを渡してくれた時、
『午後4時までに人目のつかないところにこれを持って行ってくれ』
と、指示してきたのだ。
但し、『感度良好』を使わなくては聞こえないくらいの小さな声で。
それがヤバいことだというのは分かった。
だから念入りに放課後、人がいなくなってからここに持ってきたのだけど…………
「怖いなあ…………だ、大丈夫。
今の私にはカードがあるんだから」
ハラハラしながらスーツケースを持って件の体育館倉庫に入る。
中には誰もいない。
感度良好を使っても何の反応もない。
「アハッ……お化けなんているわけないよね。
あー、バカみた――――」
ガタガタガタガタガタガタガタっ!!
「キャアアアアアアっ!!」
スーツケースが突然動き出した!!
体育倉庫で死んだ生徒の呪い!?
私は腰を抜かしてしまい、
「いやあああああああっ!!
修哉くーーーん!!
助けてええええええ!!」
と、泣き叫んだ。
するとスーツケースがバキッと音を立てて割れて、
「タマキっ!! 大丈夫っ!?」
中からアメリが飛び出して…………ええええええええっ!?
「アメリ!? え、でもどうして!?」
アメリも周囲をキョロキョロ見渡して、不安そうな顔で私を見つめる。
「どうして……って私のセリフなんですけど!?
ちょうど20時間後に来いって紙に書いたメッセージは見せられてたから来たけど…………なんで!? 制圧ポイントがこんなところに移動してるの!?」
制圧ポイント!?
たしかそれって…………
「ああー、わかった!!
修也くん、私のスーツケースを制圧ポイントにしたんじゃない!?
箱のように囲まれた空間って意味じゃ、スーツケースもそうだもん!!」
「で、でも制圧ポイントには私の所有権のあるフラッグが必要で――――ああっ!
クローゼットに設置してあったフラッグを移し替えたのね!!
かしこい!!」
しかも、アメリが出てくるために中身をほぼカラにしてるけど一着だけ、高校の制服が入っている。
準備万端じゃない。
「と、とりあえず着替えちゃって!
事情はよく分からないけれど修哉くんがわざわざこんなことをするって何かわけありっぽいし!」
「う、うん! 分かった!」
勢いよくコスチュームを脱いで下着姿になるアメリ。
つけているブラもパンツもゴムっぽい素材でカラダにピッタリ張り付いていて…………
「…………ねえ、アメリ。
あなたブラのカップ何サイズ?」
「ハアっ!? な、なにを聞いて…………じゃないよね。
普通のブラなら……え、Fの65だけど」
「え、え、エフ~~~~っ!?
反則じゃん!? そんなんすっごい反則じゃん!?」
「なんのルール!?
からかうのはいいから、何のために聞いたの!?」
「いや、普通に興味」
「バッカじゃないの!? バカじゃないの!? バカでしょ!?」
てへ、と舌を出して笑ってみる。
いや、だって修哉くんじゃないけど、ここまできれいで大きいおっぱい見たら同性だって興味出るよ…………
「まったくもう…………
たしかにタマキの貸してくれる服はどれも胸が苦しいけど」
「おい、やんのか?
喧嘩なら買ってあげるよ?
拳で語り合おうよ」
「ご、ごめんなさい…………だけど、胸が小さいのはいいことよ。
動きやすそうだし、男子もあんまり見てこないし」
「よーし、勝負だ!
泣くまで殴るのやめないかんね!」
私はアメリの背中に組み付いて頭をポカポカとげんこつをおみまいする。
「私は美脚で通ってるの!
廊下歩いてても街歩いててもみんな視線下げて歩くんだから!」
「そ、それはタマキがぱっと見怖そうだから…………アハハハハハ!!
ワキは! ワキは! やめてえええええ!!」
ケンカというよりじゃれ合いのように私はアメリと触れ合う。
言い草の節々にムカつきながらも仮にも殺されたと聞いていたアメリが元気そうでホッとした。
「はーーっ、はーーっ…………で、シュウヤはどこに?」
「うん。放課後、犯人に会ってくると言ってだけど」
その時、なんとなく起動させた『感度良好』で強化された聴覚に物々しい音が飛び込んできた。
金属と金属がぶつかり合うような音とコンクリートが割れる音…………
まだ、日中だし聞こえてくるのは日よけのない屋上!?
昼間だからゲームのプレイヤーじゃない。
だけど、こんな激しい音――――これはたぶん!
「アメリちゃん! 修哉くんが戦ってる!
多分、とんでもなく相手が強い!
こないだの連中の時よりも音が凄い!」
私がそういうとアメリちゃんは青ざめて震えだした。
痛みはなかったらしいけどアメリちゃんにとっては殺された相手がすぐ近くで戦っているんだ。
怖くても仕方ないんだろう。
そういうの修哉くんが気遣わないとも思えない。
だとすれば……そんな想いをさせてもアメリちゃんの力が必要ってこと。
それくらい危険なことに首を突っ込んでるってことか。
私がこのことを伝えようかどうか迷っていると、彼女は私の肩をたたいた。
「そこまで案内して。お願い」
その手は震えていた。
けれども唇をかみしめるようにしてまっすぐ私を見つめるアメリちゃんはキレイだった。
「私は死んでもやり直せるのよ。
ふたりが私のことを大事にしてくれてるのは分かってるけど、無茶しなきゃいけない時に無茶できずに取り返しのつかないことになってしまったら私は死ぬほど後悔するわ!」
私を説得しているのか、自分を鼓舞しているのか、その両方だろう。
グッと私は彼女の手をつかみ、走り出す。
「行こう! ふたりで修哉くんを助けるんだ!」
「うん!!」