PHASE30 突然
満腹になった後、そのまま店を出ずに作戦会議に移った。
「アイツら、復讐しにくるのかなあ?」
「多分、大丈夫だと思うわ。
アイツら所詮はMRとDXの取り巻きグループだし。
DXも恐怖を刻み付けられたでしょうし、MRは現実でもかなり大変なことになってるんじゃないかなあ……
初期に動画配信者が『アブソーバー無しで日光浴びてみる』みたいな動画上げてたけど、それ以降消息分からなくなってるし」
あの悲鳴の上げようからして相当な苦痛だったのだろう。
実際の人体なら極度の激痛によって意識が遮断されるが、おそらくこのゲームの中ではステータス異常としての失神が発動していなければ延々と激痛を味わうことになる。
「アメリ。明日は我が身かもしれないんだ。
君の覚悟は分かったから、アブソーバーは効かせておいた方がいい」
僕の提案に有村もうなづく。
「ご心配ありがとう。
でも、アブソーバーがない方が微妙に感覚が冴えるのよ。
今は痛みにメンタルが負けてるけど、使いこなせたら絶対アブソーバー無しの方が強くなれる」
そう発言するアメリには微かに狂気が見え隠れする。
「話を戻すわ。
多分、連中がゲームにカムバックしてくる可能性は低い。
だけど、恨みに思って別のプレイヤーに復讐を依頼する可能性はあるかもしれない。
ふたりもカードを使ってキチンと強化しておいた方がいいわ」
そう言ってアメリは昨夜の戦闘で手に入れた五枚のカードを机の上に置く。
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⭐︎スキルカード レアリティSSR⭐︎
『暗界蠢く十六の暴虐』
「堕落した神の世界では禁じられしものが蠢く。
三十六柱の一柱」
●効果:16本の『噛みつきし眷属』を操ることができる。最大15分間。
●クールタイム:発動時間の2倍。
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「これがあの桃色の髪の女が使っていたカードか」
「そう。威力は昨日見たとおりよ。
使い慣れてなくてアレだったからもし使いこなせれば凄いことになると思う」
接近戦ではこの僕でさえ歯が立たなかった。
プレイヤーたちの多くは遠距離武器は不得手。
そう考えると、身を守るには最高の性能のカードだ。
「アメリ。悪いけど有村に譲ってやってくれないか」
「言われるまでもないわ。
はいどうぞ、タマキ」
「ちょっとちょっと! なに勝手に話進めてるの!?」
有村が席を立って声を上げる。
「そんなの決まってるだろう。
この中で一番弱いのは有村だ。
守りに徹すればこのカードはほぼ無敵だ。
そもそもアメリはなんだかんだで死にはしないし、護身のために」
「でも、あのグロいのが身体から生えるのよね!
大丈夫!? 痕残ったりしない!?」
「大丈夫。触手生えていても有村は有村だよ」
「包容力見せなくていいから!!」
ギャアギャア騒ぎながらも有村はカードを受け取った。
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⭐︎スキルカード レアリティHR⭐︎
『太陽の爆発』
「眩き光はまぶたの上からも瞳を焼く」
●効果:一定範囲内のエネミーの目を眩ます。
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⭐︎アビリティカード レアリティHR⭐︎
『骨格強化 強』
「肉が斬られても骨は断てない」
●骨の強度を上げ、骨折しにくくする。
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⭐︎スキルカード レアリティHR⭐︎
『メタル・ラゲッジ』
「武器を入れて武器庫。食糧を入れて食糧庫。
使い方はあなた次第」
●効果:10立方メートルの異空間に指定したものを収納・取出ができる。
●クールタイム:1分。
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⭐︎アビリティカード レアリティSR⭐︎
『斬撃耐性 強』
「その肉体は刃物すら通さない」
●効果:斬撃属性のある攻撃に対する肉体強度が向上する。
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「なるほどな。
『眼識ある強盗』のおかげでカードの出目が良くなっているみたいだ」
「おいしいわぁ。
こっちの戦力を強化しつつ敵の戦力を削げるんだもの。
プレイヤーキラーにとって環境アビリティね」
吟味して、僕たちは意見をぶつけ合う。
「残りは全部アメリが持っておきな。
僕たちは積極的にゲームに参加するつもりはないんだし」
「でも、守りは固めておくべきよ。
斬撃耐性があればタマキの守りはほぼ完璧になるわ」
「それなら修哉くんが持っていた方が。
修哉くんに刃物が効かなくなったら無敵じゃない?」
「僕が無敵になってどうするんだよ。
プレイヤーの中で着々と攻略進めているやつはかなりのカードを持っているはずだ。
僕たちに配っていたらアメリは競争から取り残されるぞ」
「いずれ、強化は頭打ちになるわ。
そうなったらプレイヤースキルの勝負。
ステータスを上げるよりもプレイ慣れを優先するわ」
もし、はたからこの会話を聞いていてもみんなでやっているゲームの攻略法を語り合っているだけの平和な光景にしか見えないだろう。
実際、僕は楽しんでいた。
いつまでも、こんな風に過ごせるとは限らない。
プレイヤーたちが強化され、さらに多くの人々が犠牲になり出したらいくら情報封鎖されていようとも平和は崩壊する。
だからこそ、今を謳歌する。
いつまでもこんな時間が続けばと願いながら。
午後4時過ぎ、僕たちは有村の家の前に戻ってきた。
「じゃあ、学校でね。
あ、いっそアメリちゃんも学校に来たら?
私の予備の制服一式入ってるから」
「ええ……流石にマズくないかしら?」
「マズくないマズくない。
髪の毛を黒く染めておいたらそこまで目立たないって」
いや、目立つだろ。
アメリの制服姿を見たくないと言えば嘘になるけど。
「あ、修哉くんに言われたからってホイホイ制服着たりなんかしちゃダメよ。
男の子はけだものなんだから」
「大丈夫。タマキを裏切るようなことはしないわ」
僕のような紳士に向かってなんて言い草だろう。
有村が家に入るのを見送って、僕はアメリを連れて家に向かって歩き始めた。
「楽しかったなあ……」
「いい奴だろ。有村」
「うん。すっごく。
もし、あの子みたいな子が私のそばにいてくれたら、もう少しマシな人間になれてたのかもしれないわね」
アメリは憂うように呟く。
「自分を卑下するなよ。
朝にも言ったけど、僕たちは君を素晴らしい人だって思ってる。
君とこうやって一緒にいれることが嬉しい。
だから、胸を張ってくれ」
ポン、とアメリの頭を撫でる。
すると、怪訝な表情で僕を見つめ、
「お願いだから口説かないでね。
私、タマキを失いたくないの!」
「自意識過剰だ、バカたれ」
コツンとアメリの頭を小突いた。
すると「いてて」と言いながらも笑うアメリを見て、僕も笑っ————
グシャアっ!!
最初に認識できたのは音だった。
それから数瞬遅れて、視覚情報を脳が整理し始める。
さっきまで僕の隣に並んでいたアメリの頭が……ない。
僕の足元に横たわっているのはさっきまで隣を歩いていた女の子。
だけど、その美しかった顔が……なくなり、首なし死体が、地面に転がっている。
殺された。僕の目の前でアメリが、殺された。