PHASE29 ずっとこのまま
ボートでの遊覧を楽しみつくした僕たちは公園を出てすぐ近くのファーストフードショップに立ち寄った。
「よーし、今日は私がおごったげる!
好きに食べなさい!」
と、豪気なことを言ってくれる有村に感謝しつつ、大量のハンバーガーをお盆にのせて店の奥のテーブルを占拠した。
「有村ってバイトやってんだっけ?」
「短期バイトをたまーにね。
夏休みに旅館の手伝いとか、お正月のお歳暮販売とか。
修哉くんは?」
「いや、僕は…………うん……その」
「あら、もしかしてバイト未経験のおぼっちゃん?」
「人に雇われたことがないという意味では未経験かな」
「なによ、そのもったいぶった言い回し」
不満そうに口をとがらせる有村だが、アメリはピンときたという顔で、
「ああ。なんか自分で作って売ったりしたことはあるみたいな」
「そうそれ。
だから金は稼いだことあるの」
「へー、何作ったの?
レモネード?」
アメリカの小学生じゃあるまいし……まあ、この二人になら言ってもいいか。
「爆弾」
「…………え?」
「爆弾」
「…………聞き間違えじゃなくて?」
「割とセンスあるみたいでさ。
昨日使った爆弾も僕のお手製。
忍術修行の時に火薬がらみの知識も習得してて、それと独学を合わせてたらそこそこのもの作れるようになって、そのことを柘植先輩に自慢したんだ。
そしたら先輩が「いくら欲しい?」って聞いてきて――」
「もういいもういい!!
あー、もう! 柘植先輩ってどこか苦手だったけどそういうヤバイ人だったのかい!!」
「まあ、ヤバいけど金払いはよくてさ。
土日潰したくらいの時間で軽自動車買えるくらいのお金が」
「もういいって言ってるでしょ!
これ以上この世の闇にかかわらせないで!!」
有村が耳をふさいだのを見て僕はせせら笑った。
「アメリは? バイトとかしたことあるの?」
「バイトって、仕事のことだよね。
私は全然。
というか、学生がバイトなんてしないわよ。
昔は遊ぶ金欲しさにそういうことする人がいたみたいだけど」
「犯罪者みたいな言い方するなよ。
じゃあ、遊ぶ金欲しい場合はどうするんだ?」
「そりゃあ、親と交渉するか、シュウヤみたいに何か作って売ったりとか。
あと、私がやったのはゲームで稼いだアイテムや育てたキャラをリアルのお金に換えたりとか。
RMTってやつ」
「おい、先進的かと思ったら法的にグレーゾーンなことしてるじゃねえか」
「やっぱり好きなことして稼ぎたいじゃない。
私にとってそれはゲームだったって話よ。
不登校のころはとことんやりこんでたなあ。
不自然なまでに激しいお金の入りがあったから事件のにおいがしたらしくて警察が家にやってきたりしてさ」
「アメリちゃん!!
あなた美人なんだから真っ当な方法で稼ごうよ!!
接客業やったら天下取れるよ! きっと!」
「あー…………私、基本的に人としゃべるの苦手なので……
あと、あまりテキパキと動き回れないから」
「美女の着ぐるみ着ているゲームオタクなんだよ、この子」
「うっ……他人に言われると傷つくわ」
僕の一言に胸を抑えながらもアメリは笑っていた。
「あー、楽しいなあ。
こんなに喋ったり笑ったりしたの何年ぶりだろう」
アメリはしみじみとそう言った。
なんとなくだけど、アメリは向こうの世界でうまくいってないんだと思う。
人間関係とか。
こうやって喋ってはいるけど、時々何かにおびえるような仕草をしたりとか、有体に言えばいじめられっ子特有の自信のなさが見え隠れしている。
僕が気付くくらいだ。
もちろん有村も気づいているだろう。
「アメリちゃんさ、楽しかったら普通にこっちにいていいんだよ。
昼間ならプレイヤーも外出てこないから戦わなくていいし安全だから」
やっぱり、というべきか有村はそう提案した。
「ぶっちゃけさ、割に合わないよ。
痛かったり怖かったりひどい思いさせられて勝ったとしても、このゲームが終わるわけじゃない。
あなたの世界の誰かバカな奴が始めたことだとしてもあなたが責任を感じる必要はないもん」
自分を心底心配してくれていると察したアメリは有村を見て瞳を潤ませている。
「だ、大丈夫だよ。最近慣れてきたし。
それに、楽しくてやってることだから」
「そうだとしても、だよ。
私さ、責任感じてるんだ。
アメリちゃんが私たちの世界の人に良くしてくれるのって私が言ったことがきっかけでしょ。
あの時、あんなこといわなければこんな大変なこと始めなくてもよかったんじゃないかって」
沈みがちな声の有村。
だけど、アメリは微笑みながら首を横に振る。
「ちがうよ、タマキ。
タマキがこの世界の人たちがゲームのキャラじゃないってことを教えてくれたから私は気づけたのよ。
自分たちのやってることがどれだけイカレてて罪深いことかって。
気づけないまま、ゲームを続けてたらヤバいことになってたと思う。
特に私みたいにはみ出しちゃってるやつが人を殺す快感に味を占めたら…………」
「君はそうならなかった。
そして、どんな道を進んでもそうならなかったと思うよ。
でも、有村が言ってくれたおかげで早く気づけた。
そんなところじゃない」
僕の言うことに有村は首を縦に振って賛同した。
アメリは泣きそうな顔をしながら、
「本当に、ずっとこっちの世界にいたいわ……
人に信頼されたり、認めてもらえるのってこんなに嬉しいものなのね」
と呟いた。




