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PHASE28 吉宮アメリ

 遊びに行くと決めてからの有村の行動は早かった。

 僕らを連れて自宅に戻ると、スーツケースいっぱいに服を詰めて、


「これAMちゃんの服。

 そんなコスプレ衣装じゃ昼間歩けないもんね」

「い、いいの?

 こんなに貸してもらっちゃって……」

「お詫びの意味もあるから受け取ってよ。

 私があんまり似合わなかった系だから逆にAMちゃん似合うとかもよ?」


 AMは不安そうに僕を見る。


「受け取っておきな。

 僕のお古よりはマシだろう」


 そういうと彼女は微笑んでうなづいた。



 その後、駅に向かい多目的トイレにてAMは着替えを始めた。

 有村も手伝いに入っているので僕は一人、トイレの前に佇んでいる。


 事情については有村とAMに解説してもらったが、記憶がすっぽり抜け落ちているのは違和感がある。

 レストア・マスターの回復力は蘇生すら可能にするとんでもないものだが、無視できない弊害だな。

 今後は気を付けないと…………今後?


「どうしたもんかな……」


 AMを助けるためとはいえ僕は自らゲームに参加した。

 だけど、今後も続けるかというと微妙……というか勘弁してほしいってのが本音だ。

 痕はないが僕は全身噛み千切られて血まみれになっていたという。

 いくら回復手段があるとはいえ、即死したら終わり。

 危険が大きいくせに得られるものはさらに戦えといわんばかりのメメントカード。

 そもそも、いくら倒してもこのゲームは終わらないんだ。

 倒したプレイヤーに殺されるはずだった人間を護れるというだけで抜本的な解決にはならない。

 それを承知でAMがやっているのは素直にえらいと思うし、立派だと思う。

 だけど、セコイ僕はすごい人たちが全部引き受けて解決してくれることを望んでいる。

 情けないけど、その程度の人間だ。


「整いました~」


 多目的トイレの引き戸の隙間から有村が顔を出す。

 そして、僕の目を見て、


「はあ……」


 と大きなため息をついた。


「なんのため息?」

「うっとりとげんなりの混じったため息だよ……

 なんかさあ、違うんだよ。

 どの服も私の着た時と形が違うというか……」

「カタチ…………ああ、バストサイズが違うから服のフォルムが変わるってことか」

「ふ、ふ、ふ…………みなまで言ってくれてありがとう、死ね」

「そんな怖い顔するなよ。

 別に有村だって無いわけじゃないじゃん。

 細くて手足長くて、スタイルいいよ。

 うちのクラスじゃ一番」

「フン。フォローありがとね。

 心の傷は癒えないけど」

「そんなしょうもないことで傷つくなよ」

「修哉くんだってさぁ、自分よりはるかに大きいお〇ん〇ん見たらへこむでしょ。

 それで私に『しゅ、修哉くんのも小さくはないよ』なんて言われたらどんな気分」

「泣きたくなるな……本当に残酷なこと言ってごめんよ」


 などと下らないやり取りしていたらしびれを切らしたAMが扉を大きく開ける。


「なに二人でとんでもなくしょうもないことを話し合っているのよ……

 やっぱり私、帰りましょうか?」

「あーごめん、ごめん!

 帰らなくていいよ!

 やっぱAMちゃんやばキレイ~~」


 有村がそう言ってAMに抱きついた。


 ……なるほど、そりゃあ有村が羨ましさで壊れるわけだ。

 小顔で細身の有村は十分モデル体型だが、AMはさらにすごいというか…………

 有村以上のプロポーションにバストやヒップのメリハリが強くてモデルを通り越して彫刻のような体つきをしている。

 カットソーと七分丈のデニムパンツなんてシンプルな装いなのに迫力にあふれている。


「髪色は派手だけど、帽子かぶればまあ許容範囲だよね」


 そういってテンガロンハットをかぶせて完成!


「うん、めちゃくちゃ目立つな。

 コスプレ美女からド派手な美女になっただけだ。」


 実際、朝練の高校生や早朝出勤のサラリーマンたちがAMをガン見している。


「いーの、いーの。

 修哉くんがいたらやっかいな連中は寄ってこないだろうし。

 二人まとめて守ってくれるんでしょ?」


 と、笑う有村。

 護るよ、護るけどさあ……むしろ美人二人連れて歩く僕に対する視線が痛いというか……


「さあ、いこう!!」


 有村は僕とAMの手を引いて歩きだした。



 電車に乗って二駅、さらにバスで10分。

 たどりついたのは郊外の大きな湖のある公園だった。

 有村はまるで自分の庭を歩くように先々に進んでいって湖に僕たちを案内した。

 湖岸には人力ボートが並んでいてその一つに乗って僕たちは湖の中央に出た。

 雲一つない青空に太陽が燦燦と輝いている。


「学校さぼっての公園って爽快感あるよねえ」

「だな。週一くらいでサボるようにしようかな。

 自主的完全週休三日制」

「いいね! 水曜日を休みにしたらさ捗るよね。

 月曜は連休明けだから頑張れる。

 火曜は中休み前だから頑張れる。

 木曜は休みの次の日だから頑張れる。

 金曜は明日から連休だから頑張れる。

 素敵だなあ」


 あははは、と僕と有村が笑う。

 するとAMは引きつった顔で、


「え………あなたたち週4日も学校に行くの?

 私の世界では週2日……スパルタ校でも3日よ」


 と言った。

 僕らはさらに笑い声をあげた。


「まさかの隔日登校!?」

「ありえねー!」


 有村はそう言って、寝転がって目を閉じた。


「おい、連れ出しといて即寝落ちかい」

「だって私はちゃんと寝ずに戦ってたんだもん。

 キミとはちがうんだよ、修哉くん。

 積もる話もあるだろうからしばらくお二人で楽しんで」


 そう言ってAMのかぶっていた帽子を奪い自分の顔にかぶせ日光を遮った。


 浮かぶボートの上、僕とAMは向かい合った。

 でも、なかなか言葉が出てこなくて先に有村の寝息が聞こえてきた。


「なんか、すまないな。

 有村の行動力は僕には止められない」

「すごい子だよね。

 この一日でどれだけ心と体を動かしてたんだろう」

「ああ……僕からも謝るよ。

 有村が君に敵意を持ったのも僕の態度がまずかったからだし」

「その必要はないわ。

 アリムラタマキとは仲直りしたんだし。

 それに、フジバヤシシュウヤに迷惑かけたのは事実だし」


 普通の服装を着ているAMはこの世界になじんでいるように見える。

 だけど、どうにもしゃべり方がしっくりこない。


「AMさあ、いちいち名前をフルネームで呼ぶのやめないか」

「ああ……これも習慣の違いよね。

 あなたたちは最初から私の識別番号を省略していた」

「僕らの感覚からするとロボットみたいでしっくりこないんだよ。

 正直、AMっていうのもね。

 人前で呼んだら振り向かれちゃう」

「だったら……あなたが呼び方を決めていいわ」

「僕に名付け親になれって?」

「この世界にいる時用に名前があるのって悪くないわ。

 それにあなたたちの名前好きよ。

 シュウヤ、タマキ。

 口に出すと嬉しくなる」


 いきなり下の名前を呼び捨てにされて微笑まれた。

 おもわずドキドキしてしまう。


「ん……じゃあ、僭越ながら――――えーと」

「ヨシミヤ!!

 AM4438ってのが正式名称だよね!

 だったら苗字はヨシミヤで!」


 有村がいきなり起き上がって叫んだ。


「タヌキ寝入りだったのかよ」

「いやあ、泳がせてみれば何かやらかすかと思って。

 自分好みの名前つけるなんて、やーらしい」

「いちいち僕をスケベ扱いするんじゃないよ。

 まじめに考えてんだから。

 よしみや……大吉の吉に宮殿の宮で吉宮かな。

 なるほどいいかも」

「でしょー。美人女優っぽい!

 下の名前はぁ……AMに掛けたほうがいいよね。

 えいえむ、えいむ、あいむ?」


 有村がいろいろ口ずさんでしっくりくるのを探しているみたいだ。

 AMに掛けてか…………あ、


「「アメリシウム」」


 僕とAMの声が重なった。


「なにそれ?」

「元素記号Am。

 アメリシウムっていう金属を指すんだって。

 昨日、たまたま化学の教科書に書いているのを見つけたんだけど……うん。

 AM、君の名前は吉宮アメリでどうだろう?」


 AMあらため、アメリは何度か自分の名前を呟いてパッと笑顔を咲かす。


「きっといい名前なのね。

 吉宮アメリ。

 なんだかとても嬉しくなるもの!」


 はしゃいでいるアメリを見て僕と有村も顔を見合わせて笑いあった。

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