PHASE27 我、陽光を恐れず 〜デイウォーカー〜
有村は一枚のメメントカードを装備している。
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⭐︎スキルカード レアリティSR⭐︎
『感度良好』
「五感を研ぎ澄ませよ。
その果てに世界のかたちをつかめ」
●効果:五感の感度を任意で強化できる。
●クールタイム:なし
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このカードはAMが真希奈の車の中で強制ログアウトを行った際にドロップしたものだ。
有村はそのことにいち早く気づき、僕と真希奈には告げずにくすねていた。
真希奈は怒り狂っていたし、僕に渡せばAMと接触する理由になってしまうと思ったかららしい。
興味本位で試してみると、なかなかに便利で使い道もいろいろあることに気づいたらしい。
たとえば、僕の部屋の中でのAMと僕の会話を盗聴したり、闇夜に隠れて暗躍しているプレイヤーたちの居所を探し当てたり。
そうやって、彼女は僕に近づくAMを排除しようとした。
持ち慣れていない超常の力を得たが故の暴走。
信用してくれた相手への裏切り。
その過ちはどうやっても無かったことにできない。
だけど、二人は過ちの先に新しいものを積み上げようとしている。
AMは有村があのスキルカードを持っていることに気づいた。
だから、拘束してきている桃色の髪の女にも聴こえないほどの小さな声で有村に指示を出し、有村はそれに応えた。
結果がこれだ。
女は全ての触手を束ね日除けの壁を作ろうとしているが、光に焼かれそばから消し炭になっていく。
「ち、チクショおおお!
こうなったら強制ログアウトするっきゃない!!
頼むからレアカードは落ちないでよ!」
女はいつぞやのAMのように右手で虚空を触り出す。
逃げられてしまう。
だが、とりあえず退けた。
今日のところは痛み分けで————
「逃がすわけないでしょう」
AMは拘束を解いて、女の右手首を掴んでいた。
「お、オマエどうやって!?」
「手首の拘束なんて指を何本か噛みちぎれば抜けられるもの」
ニヤリと笑うAMの口元には赤い血がついている。
迫力に圧倒された女が怯んだ隙にAMは女の指を操作した。
「あ……アアアアアアアアっ!!
オマエなんてこと————ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
女が恐ろしい悲鳴を上げてのたうち回った。
おそらく、女のショックアブソーバーを切ったのだろう。
拘束されながらずっとこの機を窺っていたんだ。
「アツイアツイアツイ!!
ごめんなさいごめんなさい!!
許して嫌アアアアアアアアッッ!!!」
地獄の苦しみを味わっているのだろうか、日光に当てられたヴァンパイアのように女は全身焼き爛れて灰になって消えた。
……一方、AMは無言で何事もなく立っている。
「どういうことだ?
日光を浴びれば君も消えるんじゃ」
AMは僕たちに近づいてきて一枚のアビリティカードを取り出す。
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⭐︎スキルカード レアリティUR⭐︎
『我、陽光を恐れず』
「太陽を克服し、日の下で生きることを許された者。
神器級のひとつ」
●効果:日光無効。自然治癒力激増。デスペナルティ軽減大。
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「ゴメンなさい。
あなたの以上にヤバイレアカードだから存在を隠したかったの。
伝えておけばそんな怪我することもなかったね」
申し訳なさそうにするAM。
僕は逆に全部打ち明けてくれたことでなんだかスッキリした。
「これで隠し事はなし?」
「ええ。神に誓って」
胸を張るAM。
そばから傷が再生している。
たしかに凄い能力だ。
「あの……AMちゃん……」
おずおずと有村が近づいて来る。
AMは笑顔で、
「今回のバトルのMVPは紛れもなくあなたね。
アリムラタマキ」
と褒め称えた。
有村は泣き出して、
「ゴメンなさい……ゴメンなさい……」
「気にするほどのことじゃないわ。
あなたにとっては私はゲームのキャラクターみたいなものだもの。
そんな得体の知れないのから大好きな人を守ろうとするために消すのは当たり前」
「違う!! AMちゃんは人間だよぉ……
ゴメンね、あんなに痛がりながら戦ってるの知らなくて、ゴメン」
「ふっふっふ、気にしないで。
これは私の検証なの。
ショックアブソーバーを切った方が反応が良くなるっていう噂をためして」
「泣きながら決死の覚悟を吠えてたじゃないか」
僕が言うと照れ臭そうに顔を覆うAM。
「ああもう!
さっさとあのカード使いなさいよ!
そして私の事情や考えもすっかり忘れて!」
「戦闘、終了してるけど大丈夫かな?」
「制圧エリア破壊していないでしょ。
この戦闘はエリア攻防戦に当たるからまだ戦闘継続扱いになるわ」
「なるほど……じゃあ、一応潰しておくか。
燃やして更地に帰せばいいのか?」
「そんなことしなくてもいいわよ。
二度手間は嫌だからやり方は回復してから教えるわ」
そうか。
有村の時みたいに戦闘時の記憶は失われちゃうんだ。
「AM、有村。
あとで情報共有お願いな」
「任せて。ちゃんとぜーんぶ教えるから」
有村は笑う。ちょっと不安。
改竄……まあ、二人いるから大丈夫か。
僕はカードを取り出す。
「ねえ、フジバヤシシュウヤ」
呼び止めるように僕の名を呼ぶAM。
スッキリした表情で、
「今の気持ちが残ってるうちに聞いて。
あなたの強さが私に勇気をくれた。
臆病で強い奴に立ち向かえなかった私を変えてくれた。
だから……あなたは私のヒーローなんだよ」
記憶を失う直前に聞いたのはそんなこっぱずかしくなる様な告白だった。
……と言うのを有村に聞かされた。
「アリムラタマキ!!
なんでそこまで詳細に伝えるかなあ!?」
「正確に伝えないと。
AMちゃんが修哉くんを見つめる目がそういうものだって知らなかったら勘違いして口説かれちゃうよ。
いいの?」
「……良くない、デス」
有村とAMがそんな会話をしている。
どうやら仲直りしているみたいで良かった。
「とりあえず一件落着ということで、これからどうする?
一旦、アッチの世界に戻るか?」
僕がAMに尋ねると歯切れ悪そうにうなずく。
それを見かねた有村は、
「せっかく昼歩けるの分かったのに勿体ないよ!
これから遊びに行こうよ」
と提案してきた。
「学校は?」
「どうせ授業受けても寝るだけじゃん。
だったら遊んだほうがおトク。
いいでしょう、AM」
強引な誘いだ。
だけどAMは救われたようにホッとした顔で、うん、とうなずいた。
読んでいただきありがとうございます。
次話から第三章に突入します。
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