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PHASE23 ディスコミュニケーション

「こ…………後悔なんてしてないもんね。

 私たちの関係、うっすら分かりながら家を出入りするっておかしいし。

 そもそも、あっちにとってはゲームで…………ちょっと邪魔したくらいで大したことには」

「有村。おまえ、AMに何をした?」


 初めて有村をお前呼ばわりした。

 嫌な予感がそうさせた。

 有村はビクリと肩を震わせて、僕から目をそらそうとしたが、


「質問しているんだ」


 ドン、と有村の背後の壁を叩くようにして問い詰める。


「…………嘘ついたのは修哉くんじゃん」

「おい、こっちの質問に」

「修哉くん、AMに私と付き合ってないって言ってたじゃん!

 なんでただの友達だなんて言ったの!?」


 目を真っ赤にして怒鳴る有村。

 同時に僕は自分の失敗に気づいた。

 AMに隠したかったんじゃない。

 ただ、あの時は喧嘩した直後で認めたくなかったから…………あれ。


「そんな風に言われたら不安になるじゃん!

 フリーであることを強調してAMとも仲良くしようと思ってるように見えるじゃん!」


 どんどんボルテージの上がる有村だが、僕は冷静だった。

 彼女の疑問に答える。


「まず、AMに付き合っていないって言ったのは、昨日喧嘩した直後だったからだよ。

 なんだか、素直に好きなことを言ったら、負けな気がして…………僕のしょうもないプライドだよ。

 あと、AMに対して欲望を抱いたことはない。

 アイツだってそれどころじゃない、っていうかそんなことに興味ないんだ。

 純粋にこの世界の人間の犠牲を減らしたくて、あと狩りをしてるプレイヤーたちに吠え面かかせてやりたいって気持ちだけでプレイヤーキルをしている。

 僕はあいつを信用したし、応援したいと思ったから協力した。

 それ以上の気持ちはないんだ。

 僕にとって一番大事なのは君なんだ」


 反論を許さないほど立て続けに言葉をぶつけた。

 すると有村の怒りは霧散し、逆に怯えるような顔になった。

 その様子は失敗をした子どもが怒られるのを覚悟しているときのようだった。


「なあ、もしかして、僕のことをつけていたのは昨日じゃないのか?

 そして、この部屋の前でずっと待ってて会話の内容を聞いた。

 違うか?」


 何かをこらえるように無言で数秒固まったあと、ゆっくりと首を縦に振った。

 僕はため息をついてしまう。

 素人の尾行に気づけないほど苛立っていたなんて。

 情けないやら悔しいやらだが今はそんなことを考えている場合じゃない。


「私…………すごく悲しくて、苦しくて…………ムカついた。

 私が修哉くんと喧嘩したのに、その原因を作ったのに楽しそうにしているAMに。

 だから、あの子を陥れようと思って…………あの子が仲間を倒して回っていることをプレイヤーたちに教えて、そしてさっき…………あの子をおびき出したの」

「AMはその場で殺されたのか?」

「ううん…………なんか、スキル、なのかな?

 それで眠らされて運ばれていったけど」


 考えうる限りで最悪に近い話だ。


「わ、悪いことはしたかもしれないって思うけど!

 別にゲームじゃん!

 ちょっとデスペナルティとかいうのつくくらいで本当に傷つけられたりするわけじゃ――――」

「傷つけることもできるんだよ!!

 これはそういうクソゲームなんだから!!」


 僕は激高した。

 有村の無理解を責めるつもりはない。

 これは自分の中途半端さが招いたことだからだ。

 AMへの協力も、真紀奈への干渉も、有村への態度も。

 僕はキッチリした答えを出すことをせずごまかし続けてきた。

 その結果、AMを窮地に追いやり、有村の手を罪で汚そうとしている。


「ど、どういうこと?

 痛くないんじゃないの?

 腕切られても平気なんじゃないの?!」

「痛くないだけだ。

 心はすり減る。

 実際、AMが部屋に帰ってくるときはいつも顔面蒼白の病人状態だった。

 柘植先輩が捉えたプレイヤーは痛み無しで精神を壊された。

 …………口にするのもおぞましいようなことをこの世界で楽しんでいるゲスなプレイヤーもいる。

 そいつらがプレイヤーだからって歯止めが利くとは限らない」


 そう。このクソゲーは自由度が高く、どこまでも残虐なことができる。

 まるで人間の抑圧されている衝動を昇華するみたいに。


「じゃ、じゃあAMは…………」


 自分がしでかしたことの意味を理解した有村は血の気が引いて、その場にへたり込んだ。



 AMはどん臭いがゲームに慣れている様子だった。

 案外、隙を見て逃げているかもしれない。

 それにさすがにプレイヤーが凌辱されるような危険性のあるゲームを販売するほど狂ったメーカーはないだろう。

 この世界の倫理観に基づくと、だけど…………


 楽観的な思考をしようと試みた。

 が、そんなことできるわけもない。

 そんなバカになりたくなんてない。


 僕はボディバッグをつかんで中身を全部放り出す。

 代わりに刃をタオルで包んだ包丁や大き目のドライバー、トンカチなんかを詰め込む。


「しゅ、修哉くん?

 そんな物騒なもの持って何を?」

「AMを助けに行く。

 つれさられた場所に心当たりはないか?」


 僕は覚悟を決めた。

 関わり合いになりたくないとか、命の取り合いは御免だとか言ってられる時間はもう過ぎた。

 だけど、有村は泣きながら僕の腰に縋りつく。


「やめてよおおっ!!

 失敗したら修哉くんも死んじゃうじゃん!!」

「死なないように頑張るよ」

「ダメ! 絶対に行かないで!」


 泣きじゃくる有村の姿を見てほんの数日前の光景がよみがえってきた。


「有村は覚えてないだろうけど、君が殺された時、AMも今の君みたいに泣きじゃくって取り乱していたよ」


 僕がそう言うと有村は凍り付くように泣くのをやめた。


「僕たちが生きた人間であることを彼女に教えたのは有村だ。

 そして彼女は有村に応えてくれた。

 君の生き死にが掛かったことだけど、僕はどこか嬉しかったんだ。

 嬉しかったから…………ああ、ごめん。

 また、嘘をついた…………僕は彼女をちゃんと人間だと思っている。

 だから死んでほしくないし、傷ついてほしくもない。

 彼女がそうしたように僕も彼女を守りたいんだ」


 やっと、僕も心の整理がついた。

 もう迷わない。


 グッ、と僕の腰をつかむ有村の腕に力がこもった。


「わかった…………だったら私も行く」


 立ち上がった有村は涙をぬぐいパンパンッと頬を叩いた。


「普通ならついてくるなって言いたいんだけど、協力してくれると助かる」


 そう言って僕はAMから受け取った二枚のカードを有村に渡す。


「AMが、君の護身用にと譲ってくれたカードだ。

 これで動きは少しマシになるだろうけど、無茶はするなよ。

 僕らは一歩間違えれば死ぬ」


 カードを見つめながら有村が苦笑する。


「なんで面と向かって話さなかったんだろ……

 こんな子、私が好きにならないわけないじゃん」


 うつむく有村の頭をポンポンと叩く。


「ちゃんと謝って、ちゃんと話そう。

 カードの使い方、説明するよ。

 まず――――」

「【エンハンス・アビリティ】」


 なんと……有村は僕が説明するまでもなくアビリティカードの装備をやってのけた。


「ゴメン、私も黙ってたことがあるの」


 有村は髪をかき上げて後ろにまとめる。


「カードを装備したのはこれが初めてじゃないの」

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