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PHASE21 臨兵闘者 皆陣列在前

「今日の戦利品は3枚。

 かなり出物よ」



------------------

☆アビリティカード レアリティSR☆


眼識ある強盗(グランドセフト)


「盗みじゃない。簒奪だ!」


●効果:プレイヤーキル時のドロップカードが高レアのものになる確率が上がる。



☆アビリティカード レアリティHR☆


『ストリートファイター』


「俺より強いヤツはどこにいる?」


●効果:格闘攻撃時モーションアシストが働く(重複不可)●


☆オブジェカード 200,000オブジェ☆


------------------




 見慣れない金色のカードがあった。

 たしかコレは……


「オブジェカード。

 ゲーム内通貨ってヤツ。

 コレを持って帰れば武器や防具と交換できるわ」

「基本的にアイデントカードってこの世界の人間が死ぬ時に生まれるんだよな。

 このオブジェカードも」

「そうよ。20万オブジェっていうとSR相当ね。

 最高級の武器と防具が一式揃えられるわ」

「なあ。法則性とかあるのか?

 資料には書いてなかったけど」


 AMとしては聞かれたくなかったことなのか露骨に顔を歪めた。


「一応、公式には無いってことになってるけどプレイヤーの間で流れる通説みたいなのはあるにはあるというか……」

「まだるっこしいな。

 ハッキリと言いなよ」


 渋々という感じでAMは口を開く。


「その人間が人生で成し遂げたこと、体験したこと、願っていたこと……

 アイデンティティに深く直結した何かがアイデントカードのモチーフになる、という説よ。

 たとえば剣の達人だったら剣術のモーションアシストのようなアビリティカード。

 強盗に家に押し入られて命がけのかくれんぼをしてたりすれば姿を隠すタイプのスキルカード。

 金儲けや借金のことで頭がいっぱいならオブジェカード。

 みたいな感じでね。

 でも、殺した人間のことを追跡調査しているプレイヤーなんて聞いたこともないし、オカルト好きな奴が言いふらしているだけだと……思いたいかな」


 ふと表情に影が差した。


 僕はそれ以上追求せず、爺ちゃんの遺したレストア・マスターのカードを見つめる。

 AMは与太話と言い張ったが、叙勲されるほどの修復士だった爺ちゃんからこのカードが現れたことは間違いなく因果関係があると言える。


「ん……それじゃあ医者とかからは回復系のスキルカードが取れる可能性が」

「ほら! そうやって短絡的に考える!

 それが怖くてツゲマキナには伝えたくなかったのよ!

 国の暗部とも言える秘密組織なんて手段を選ばない。

 戦闘を有利にすすめるためにアイデントカードを利用し始めるのはまだいいわ。

 でも、カードに法則性があるなんて思い込んだら目当てのカードを手に入れるために人を殺しかねないわよ!」


 AMは怯えまじりで怒鳴り散らす。

 その予測は決して的外れなものでないだろう。

 真希奈たちだけでなく、これが一般人に漏れても危険なことになるだろう。

 利己的な人間は自分を守れる手段があるとわかればすぐ————


「フジバヤシシュウヤ。

 あなたの取り分はこのカード、ってことでいいわね」

「え?」


 AMは【ストリートファイター】のカードを僕に差し出した。


「いらないカード押し付けてるみたいで悪いけど。

 これから獲得したカードはあなたと山分けしていく」

「……もらっても、僕はゲームに参加する気なんてないぞ」

「分かってる。

 だけど、あなたたちも身を守らなきゃいけない」


 あなた“たち”か……

 今のAM程度のナイフ術なら僕は普通に使える。

 そう考えるとHRカードの【ストリートファイター】も特に意味はない。

 むしろモーションアシストが逆に手枷になりかねない。

 となると、これを有効活用できるのは、


「有村に渡せって?」

「……一度死なせちゃってるからね。

 お詫びにもならないだろうけど力になりたいの。

 それにあなたも彼女を守りたいんでしょう」


 フフッと余裕めいた笑みを浮かべるAM。

 どうもコイツは僕と有村が付き合っていると思い込んでいるようだ。

 いま、君のおかげで絶賛気まずいことになっているよ、とは言わないけど。



 どうせなら睡眠不足にならないようにするカードとかもらえると嬉しいんだけどな。

 なんて、授業中船を漕ぐように寝そうになる体を起こす作業を繰り返して思った。


 今日、有村は学校を休んでいる。


 AMからのカードを渡してやりたかったんだが仕方ない。

 淡々と時間を過ごす。

 有村がいなくても日常の光景は変わらない。

 そのことが恐ろしく思えた。

 クラスメイトたちが眠っている夜の時間、この街で何が行われているのか知る由もない。

 そして、身を守る術もなく危険から離れる意志もない。

 全部ぶちまけてやりたくなるが、そんなことをしても僕の頭がおかしくなったと思われるだけで、下手をすると悪目立ちしてプレイヤーの標的になりかねない。


 我が身を守ろうとしているだけなのに孤独感や焦燥感に苛まれる。

 気を紛らわすように学校の図書館で宿題をまとめて片付けて学校を出ようとする頃には沈みゆく太陽が間接照明となって下駄箱を薄暗いオレンジ色に染めていた。

 なんだろうなこういうノスタルジーを感じる光景というのは。

 脳がバグったように求めてもいない検索結果を表示してくる。




「臨む兵、闘う者、皆 陣列べて前に在り。

 臨兵闘者皆陣列在前(りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん)

 九字切りと言ってな。

 忍びは心を落ち着かせねばならん時に唱える呪文みたいなものだ」

「じゅもん……これってまほうなの?

 じいちゃんまほうもつかえるの?」


 爺ちゃんが大きく見えた頃。

 膝の上に座った僕はなんでもできてしまう祖父が見せた新しいものにはしゃいでいた。


「魔法なんかじゃ無い。

 だが効果はある。

 人間の心は波間に浮かぶ小舟のように不安定なもの。

 だがそういうものであると自覚していれば対処はできる。

 心を落ち着かせる呪文を知っているということは自分の心の不安定が起こり得ると自覚し、それに目を向けているということだ」

「????」

「修哉にはまだ難しかったか」


 爺ちゃんの大きな手が僕の頭を撫でつけた。



 あれから間もなくだったな。

 僕に忍術を教え込みはじめたのは。


 下履きに履き替えながら僕は口の中で音を転がすような小さな声で唱える。


「臨兵闘者 皆陣列在前、臨兵闘者 皆陣列在前」


 不思議とささくれだった気持ちが落ち着いてくる。

 平時では役に立たない技術だなんて、買いかぶりすぎだったな。


 元々は爺ちゃんと孫とのコミュニケーションの一環みたいなものだったんだ。

 野山を駆け回ったり、水蜘蛛で水面を渡ったり。

 楽しかったからある程度は続けていられたんだ。

 そして、今の僕にその技は刻み込まれている。


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