PHASE19 マイノリティ
言葉の通り、少し休むとAMは元気を取り戻し、僕の前にカードを2枚取り出した。
僕の持っている【修復の果てにある創造】は真っ黒なのにそれらは白かった。
「説明資料にも書いたけどおさらい。
プレイヤーがこの世界の人々を狩る上での最大のアドバンテージ。
それがこの【メメントカード】によるスキル獲得とアビリティによる強化のやり方を知っているという事。
あなたの持っている【修復の果てにある創造】はスキルカードと言ってスキルと呼ばれる特殊能力を発動できるけど、このタイプのカード自体がレア。
レアリティは下から、
normal → rare → High rare → super rare → Super special rare →ultra rare
の順になってるけど、アビリティカードのレアリティはあてにならないというか。
normalのスキルカードの方がHigh rareのアビリティより人気あるくらい。
で、今日の収穫はこのとおり」
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☆アビリティカード レアリティR☆
『筋力増強 中』
「人は俺を裏切るが、筋肉は裏切らない」
●効果:筋力がアップする(中効果)
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☆アビリティカード レアリティN☆
『ポケットに入れたナイフ』
「取り出した刃は心の刺みたいなもの」
●効果:ナイフ系の武器を使う時モーションアシストが働く(重複不可)
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「この筋力強化はあの筋肉男が使っていたヤツ。
ナイフの方は君が使っているヤツか」
「察しがいいね。
正確には私が使っているのはレアリティHRの『ナイフテクニシャン』。
レアリティが高ければ高いほどモーションは洗練されたもの、つまり技量の高い攻撃ができるわ」
「HRであれか……もし、SSRの同タイプのカードがあったら手をつけられないんじゃないか?」
「もちろんモーションアシストしてくれるアビリティカードは強力だけど、ステータス強化系のカードが産廃ってわけじゃないわよ」
そう言って筋力強化のカードに触れ、呪文を唱えるように言葉を発した。
「【エンハンス・アビリティ】」
カードは白い粒子となってAMの腕に吸い込まれていった。
拳を力強く握り込むAM。
「技を使うにしても基礎能力が低いと大した威力にはならない。
だからこうやってステータス強化する必要がある。
重ね掛けできるからたとえ低レアでもチリも積もればってワケね」
「上限値はあるのか?」
「このゲームに明確な能力の数値化はされていないわ。
だけど、今のところ青天井みたいね。
攻略組のパワー型プレイヤーなんかは軽自動車を持ち上げたりできるそうよ」
「強化次第で人間の限界突破も難しくないってことか」
右手で頭を抱える。
プロレスラーみたいなパワーで軽量級ボクサーのように動き回り、達人級の剣さばきをしてくる殺人鬼……
武装した一個小隊ぶつけて倒せるかどうかだな。
「しかし、このゲームの製作者はバカだ。
こんな強化が手軽にできるシステムじゃ、すぐに作業ゲーになってしまう。
この世界の人間の戦闘力なんてそう変わるもんじゃない。
プレイヤーとの格差がすぐに開いて弱いものイジメになる。
楽しいのか、それ?」
AMは僕の言葉をどこか嬉しそうにうなづいて聞いていた。
「あなたはきっと健全なタイプのゲーマーなんだろうね。
ゲームを進めるためにレベル上げたりアイテム集める手段と目的をきっちり分けてるタイプ。
そして自分なりに楽しみ尽くした後はゲームをやめてリアルの生活に戻る」
「ライトユーザーだから。
ゲームすることもあるけど、それ以外の時間の方が多い」
「あなたはとても健全でリア充よ。
だから、圧倒的な力による殺戮を作業と言い切ってしまう」
「僕の認識が間違っているって?」
「正確には狭いってところかしら。
力を持たない人が異世界で超常の力を好き勝手暴れ回る。
最高に気持ちいいわ。
その分、うだつの上がらないリアルワールドに戻るのが億劫になってくる。
だからね、単調な作業の繰り返しでもゲームの中に没入し、自分の力を堪能できる殺戮行為は楽しい楽しくないじゃなくて必要なことになってくるの」
「殺戮行為が日課となるのか……だとすると飽きるどころかプレイ慣れと強化が進み被害が爆発的に拡大しかねない。
業が深いな、人間ってのは」
僕の呟きにAMが目を丸くした。
「どうした?」
「いえ…………あなたはごく普通に私たちのことを同類と受け止められるのね」
そうか。言われてみれば彼らは同じ姿形をしているだけで僕ら人類と同じ生き物というわけじゃない。
考えてみると不思議だ。
どうして僕はこんな認識をしているのだろう。
ふいに考え込んだが僕の沈黙を不安に思ったのかAMが上ずった声を上げる。
「い、今のなし!
とにかく時間が経過してプレイヤーが強化されればされるほど被害は拡大していくわ。
私がいくら頑張っても一日に10人もプレイヤーキルするのは無理。
そもそも遭遇できないだろうしね」
「となると、狩る側の人数を増やさないといけないな。
君と同じような考えを持つプレイヤーはいないのか?」
僕の問いにAMは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「そう思ってSNSや掲示板に匿名でプレイヤーキルを煽ってみたわ。
結果は完全無視……ああ、親切な人はいろいろアドバイスしてくれたわね。
『サービス開始直後のキャラ育成期にプレイヤーキルするとか外道にもほどがある。死ね』
『デスペナルティ激重のこのゲームでプレイヤーキルなんかしやがったらソッコー晒すからな』
『ゲーム中のNPCがかわいそうとかゲームと現実の区別ついてねえのかよ。コントローラー捨てて病院行け』
みたいにね……」
さもありなん、って感じだな。
ゲーム世界の人間に思い入れるAMの発想は確実にマイノリティの側だろう。
やっぱり、こっちの世界の防衛はこっちの世界の人間がやるしかないのか。
国や自治体にコンタクトを取ってAMから聞き出した情報を提供し、対策してもらう。
それが一番正しいやり方だろう。
「分かった。こっちもできる限り動いてみる。
もう夜明けが近い」
徹底的に日光を遮るようにはしているがふとした拍子に日光が漏れ入ってきて焼かれてしまっては気の毒だ。
「うん。今日はここまで。
また、明日の同じくらいの時間にやってくるから」
そう言い残してAMはクローゼットの中の制圧スポットから帰還した。