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PHASE17 信用できる悪意

「リアルワールドに戻った後、ゲームプレイヤーの集まるVRカフェ……アバターを使って仮想空間で交流するサービスがあるんだけど、そこでみんなの感想を聞いてみたの。

『このゲーム、めちゃくちゃリアルだけど人を殺すのに抵抗ないの?』って。

 そうしたら、ほとんどの奴はこう答えたわ。

『リアルだから気持ちいいんじゃん』って。

 剣でひと突き、拳で頭をかち割った、首を絞めて窒息していくのを眺めた。

 中には恋人の目の前で女の子を犯し殺したことを自慢する奴もいたわ。

 それを痛快だと称賛した奴も」


 AMが淡々と語る内容はにわかには受け入れがたい内容だった。


「犯し……待てよ、そんなこともできるのか?」

「現実でできてこの世界でできないことなんてないわ。

 ああ、唯一ゲームバランスを調整するためだろうけど、現代兵器――――銃火器や自動車の使用はできないわね。

 あなたたちこの世界の住民が持てる唯一のアドバンテージよ。

 逆に言えばそれ以外は…………メメントカードで能力を強化していないあなたたちはプレイヤーの獲物でしかないの」


 獲物……倒された後にカードとかいう強化アイテムを遺すその様はゲームの雑魚敵そのものだろう。

 痛みを感じることなく人を力でねじ伏せる快感と得られる報酬による喜びを混同させながらプレイヤー達は人間を狩る。


「とんでもないゲームだな。

 こんなもん続けていたらまともな奴でも気が狂うぞ」

「そのとおりだわ。

 こんなのゲームじゃない。

 いちゲーマーとして認めることができない」

「……ゲーマーとして?」


 人としてとか倫理観に起因する怒りじゃなくて?


「そう。ゲームってのは楽しくなくちゃいけない。

 現実ではできないことを疑似体験させるのも手段としては真っ当。

 でも、これの狙いは楽しませることじゃない。

 どこまで人が残酷に狂えるか試そうとしている気がするの。

 だって爽快感を味合わせるならあなた達にこんな複雑な感情を与える必要がない。

 極限まで私たちに近づけた……いや、私たちと同質の肉体と感情を持たせた生き物を殺すことを遊びに落とし込むなんて楽しませる以外の意味があるとしか思えないわ」

「AM……やっぱり君は僕たちのことをゲーム内のキャラクターだと、このゲームのサービス開始日にこの世に生まれ出た存在だって考えているのか?」


 僕の質問にAMは目を逸らす。

 それは肯定だと僕は受け取る。


「突如この世界にやってきて殺戮を繰り広げ、殺してもエフェクトを立てて消えるだけでデスペナルティなんて些末な代償で蘇ってくる。

 僕たちからすればむしろ君たちの方がゲームのキャラクターみたいなもんなんだよ。

 まったく楽しくはないけどね」

「……ごめんなさい」


 申し訳なさそうに頭を下げるAM。

 まいったな。

 真希奈には怒られるだろうけど信用したくなってしまう。


「僕としてはこんなゲームで人死にが出るなんてゴメンだ。

 君がプレイヤーキルしまくって被害が抑えられるなら望むところ。

 で、僕にどういう協力をしてほしい?」


 本題を切り出した。

 AMは緊張した面持ちで僕をじっと見つめる。


「あなたの家の中に制圧スポットを作らせてほしい。

 制圧スポットはリアルワールドとの行き来の他に回復速度の向上や武器のメンテナンスができる。

 プレイヤーキルをやるためにちゃんとした拠点を確保したいの」

「どうして我が家なんだ?

 マンションの空き室、廃墟ビルいろいろあるだろう」

「そういうところは他のプレイヤーも狙っている。

 拠点の位置を抑えられた状態でプレイヤーキルなんてしたら待ち伏せされたりして終わりよ」

「たしかに。君の立場からすれば状況を理解している上に友好的な僕の家は都合がいいだろう。

 だけど……僕の都合はどうなる?

 君のことを完全に信用したわけじゃない。

 プレイヤーキラーになるにしても僕の持っている【修復の果てにある創造レストア・マスター】は喉から手が出るほどほしいだろう。

 寝首をかいてくる奴に合鍵渡すほど無用心じゃないぞ」


 僕の拒絶の意志を感じたのかAMは前のめりになって説得してくる。


「あなたには手を出さない。

 いえ、この世界に生きている人たちには絶対に。

 それを破ったら、私はきっとこのゲームだけじゃなく全てのゲームを楽しめなくなってしまうから。

 それに————」


 優等生が先生に頼み事をするようなマジメ腐った顔に、陰が刺さる。


「逃げまどう一般人の命を奪うのと圧倒的に有利な環境で人間狩りみたいな悪趣味な真似をしているクソ野郎に吠え面かかせるのとどっちが楽しいか、って話よ」


 美しく整った顔が黒く歪んだ笑みに塗り潰される。

 僕はそれを見て確信した。

 コイツは僕を裏切らない、と。


 フルCGの美女のような外見をしているくせに中身はビビリでオタクでゲーマーで、そして陰湿で好戦的。


 そんな隠キャのオタクが愛や正義を掲げて戦うなんていうのは1ミリも信用できないが、ムカつく奴にざまあしてやりたいっていうのは信用できる。


 そういうことだ。



「分かった。

 君には有村を助けてもらった借りもあるしな。

 ……言っておくけど、部屋を貸すだけでそれ以上の協力は期待しないでくれ」

「ええ。それで構わないわ。

修復の果てにある創造レストア・マスター】も諦めてる。

 王冠級クラウンクラスとかの【固有属性】のあるメメントカードは一度使用しちゃうと譲渡できないのよ。

 殺してドロップさせない限り」

「なるほど。僕専用のカードということか。

 逆に言えば引き換えに見逃してもらうといった命乞いもできないわけだ」


 自嘲気味そう呟くとAMは僕の目をじっと見つめて宣言する。


「そんなことにならないように、私があなたを守るわ。

 だって誰にも【修復の果てにある創造レストア・マスター】もあなたが産み出すメメントカードも渡したくないもの」


 今日はよく女の子に守ってもらえる日だな、と思わず苦笑してしまった。

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