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PHASE16 反逆宣言

「へーっ。高校生で一人暮らしとかギャルゲの主人公みたい」


 AMの異常に呑気な発言に思わず毒気を抜かれてしまう。


「そっちの世界にもギャルゲとかあるのかよ」

「もちろん。基本的にこの世界は私たちの世界と瓜二つなんだから。

 言語も文化も地理なんかも。

 ただ文明レベルは2、30年レトロなのよね。

 パーソナル端末を体内に埋め込んだりしていないし、髪染めるのもブリーチで脱色してるんでしょ。

 なんか懐かしい雰囲気」


 そう言って自身の青銀色の艶やかな髪をなびかせた。

 地毛じゃなかったのか。


「しかしどうやって僕の家を割り出したんだ。

 住所は教えていなかったはずだけど」

「フフフ。メールに細工させてもらったの。

 開けたら端末の位置情報が追跡できるようなマルウェアを仕込んでね。

 住所じゃなくてあなたのスマートフォン? それを追いかけてきたの」


 どう考えてもハッキングじゃないか……


「あまり夜遅くまで外出してないみたいで安心したわ。

 今夜は制圧ポイントを増やすためにみんな動き回っているからね。

 あ、制圧ポイントについては」

「読んだ。パーティ作って来てるのか?」

「半分正解。パーティ作ってこっちに来てすぐに脱退したわ。

 パーティ状態だとメンバーに居場所丸わかりだから」


 つまりここには一人内緒で来たというわけだ。


「どうして昨日逃げたんだよ。

 全部話してくれればデスペナルティくらわず済んだかもしれない」

「うん。アリムラタマキやあなたのことは信用しているわ。

 でもツゲマキナは信用できない。

 多分、あの子は【ブラックリスト】に所属するエネミーだから」

「ぶらっくりすと?」

「うん。私たちにとっては関わり合いを避けた方がいい敵組織。

 あなた達の世界で言うところの国や秩序を守る治安維持組織というところかしら」

「治安維持……警察と自衛隊とか?」

「うん。それらも強いエネミーだし、所属によってはブラックリスト入りしているわ。

 だけど、私たちがブラックリストと目している組織は基本的に公にされていない秘密組織のこと」


 秘密組織……都市伝説みたいになってきたな。

 僕らからすれば情報が降りてこないから知らない極秘事項だけど、AM達の視点からすれば設定の一部に過ぎないということか。


 ん? ということは……


「君は真希奈がどういう組織に属しているか分かるのか?」

「特定はできないけどブラックリストのどれかだとは思う。

 彼女16歳とかそこらでしょ。

 まともな組織が利用する年齢じゃないわ」


 これは良くないことだと思う。

 真希奈が僕に知らせないということは教えたくない事なのだろうから。

 しかもこんな攻略本読むようなやり方でとなると尚更……だけど、


「そのブラックリストの組織の名前と概要を教えてもらえるか」

「ええ。いいわよ」


 うしろめたさはある。

 だけど何も知らないままでいることもできない。


「まず、ブラックリスト筆頭が『特務機関レーベン』。

 遺伝子操作や人体改造によって人間を超人に進化させようとしているマッドサイエンティスト達の楽園ね」

「いきなりハードでアンビリーバボーなのがきたな……」

「そう? ミュータンス技術はリアルワールドじゃ普通に使われてるわよ。

 多分この世界もあと2、30年も経てば一般的になるんじゃないかしら」


 その頃までに滅んでなければね……とは口にしなかった。


「次に『護国集団神僕会』。

 自らを神の僕と称して教義にそぐわないものには神罰を下すという狂信者の集まり。

 神罰の達成には手段を選ばず、沢山の兵器を所有しているらしいわ。

 クラスター爆弾とかステルス戦闘機とか」

「アジアの軍事バランスが壊れるよ!」


 真希奈はいなさそうだな。

 アイツは神様を崇めるタイプじゃない。


「『鬼滅衆』。

 昔、存在した鬼と呼ばれる生物を討伐するためにつくられた私兵組織。

 鬼を狩り尽くした現代においても、やがて起こる鬼種の復活に備えて武芸の鍛錬を欠かさない」

「鬼までいたのかよ、この世界……」

「そう驚くことじゃないでしょう。

 科学技術の進化と神秘の寿命は反比例するっていう有名な定説知らない?」


 少なくともこっちの世界では有名じゃない。


「あとは…………うん……

 これだけはちょっとリアリティ皆無な設定だわ」

「今までのリアリティあるのかよ……

 で、なにさ。

 魔法使いの率いる黄金の夜明け団?

 アサシンだらけの山の翁?」


 ためらいがちに、AMは口を開く。


「隠密軍団『百足むかで』。

 500年前から続く国の治安維持任務にあたっている暗部と呼ばれる集団でその構成員の多くはニンジャで————」

「まんまじゃないか!!」


 僕は思わず声を荒げた。


「いや……私もニンジャは好きだけどこういうリアルなゲームにイロモノは」

「イロモノって言うな。

 実際に僕たち学んでいたんだし……あー、それだ。

 真希奈も、多分先輩もそこに所属してるんだ」


 百足の虫は死して倒れず――――だっけか。

 そんな故事を聞いたことがある。

 100本の足(人材)を持つ組織は何本か欠けたところでびくともしない。

 実にリアリストな忍者らしい名前じゃないか。


「とにかく、これらの組織がブラックリストと呼ばれる危険なエネミーの代表格でなるべく関わらないようにって言われているわ。

 下手に刺激したらゲームが破綻しかねない。

 戦うにしても能力強化が完了した後にすべきだって」


 たしかに……プレイヤー連中の戦闘力はほとんどカードによる能力強化に頼り切りだった。

 逆に言えば虫も殺せない女にそこそこの殺人術を習得させることができる。

 まだ、このゲームが始まって一週間程度しか経っていない。

 もし、一ヶ月、一年とゲームを続けて際限なく強くなられた日には…………


「ゾッとしないな。

 今は避けられているそいつらもいずれは標的に変わるんだろう。

 昨日、何度か【攻略組】って単語を聞いた。

 おそらくこの世界の隅々まで楽しみ尽くそうと鍛えている奴らがいるんだろ」


 僕の予想をAMはうなずいて肯定する。


「奴らは一般プレイヤーとは一線を画しているわ。

 サービス開始からほとんどログアウトせず、屋外の活動ができない時間帯も陽光の差さない空間に潜んで攻略を進めている。

 中にはこの世界の人と交流を持って調略行為を進めているのもいるんだとか」

「世界を混乱の渦に堕とそうとする異世界の侵略者……心惹かれるヤツが多そうだ。

 自分の不遇を世の中のせいにしてちゃぶ台をひっくり返したいと言うヤツらがな」


 僕は宙を見上げた。

 そして、思っていたことを口にする。


「で……どうして君は僕のところにきたんだ?

 しかもパーティを脱退するような不義理を働いて」


 AMは決意に満ちた表情を作り、僕に宣言する。


「私はあなたたちの味方をする。

 プレイヤーキラーとしてこのゲームの楽しみという奴を阻害しようと思うの」


 彼女の拳は強く握られて震えていた。

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