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PHASE14 幼馴染

 そして、僕はまた同じ公園を今度は一人で歩いている。

 ここにいるとも来てほしいとも言われていない。

 結局、僕はいつだって自分勝手に動いているだけだ。


 案の定、真希奈はあのベンチに腰掛けてタブレットを弄っていた。

 声をかけようかと思ったが、すでに僕に気づいている様子だったので無言で彼女に近づく。

 目の前で立ち止まると画面から目を逸らさずに言った。


「退学した幼馴染との思い出の場所を巡るなんて、しゅーちゃんはとってもセンチメンタルじゃん」

「その言葉はまんまお前に返すよ。

 こんなところにいるなんて見つけて慰めてくれってことだと僕は解釈してるけど」


 フフン、と鼻を鳴らして真希奈は僕の目を覗き込んだ。


『マッキーが昨日退学したって噂が流れてる』


 有村のメッセージで知らされた噂が噂でないと本人の口から教えられてしまった。

 元々、出席率も低かったし、退学するべくしてしたように感じるけどそれでもショックだ。


「慰めてほしいようなことは何もしてないし。

 ああ、最近色を覚えそうな幼なじみを振り回して遊びたいとは思っていたところ」

「悪趣味なヤツ。

 昨日だって有村にちょっかいかけるし」

「へへ。たまちゃんねえ。

 なかなか良いところついてると思うよ。

 社交的で快活。

 見た目は華やかだけどそれほど遊んでいるわけでもなく、気立てもいいし。

 高校生男子の初彼女としては理想的じゃない。

 きっとお似合い。

 ま、隣に立つのがしゅーちゃんじゃなくてもお似合いになるんじゃね?」

「嫌なこと言う子だね、お前は」


 気がおけない間柄だからできる悪態まじりのやりとり。

 それが僕と真希奈の関係の強さを示してくれているように思う。

 きっと同じ学校に通うことがなくなっても、この関係は変わらないだろうと。


 僕は真希奈の隣に腰を下ろした。

 運河の水のせせらぎを聞きながら無言で過ごしていると真希奈が口を開いた。


「しゅーちゃんは賢いわ。

 忍術の修行は基礎を修めたくらいで手を引いて楽しい高校生活を送ってるの」

「賢いもなにも……ただついていけなくなっただけだよ」

「嘘つき。私なんかあれからずっと修行続けても小学生の頃のしゅーちゃんに毛が生えた程度の実力って兄さんにバカにされてるし」


 こうやって真希奈が僕に忍術の話題を振ってくるのは高校で再会してから初めてのことだ。

 真希奈は誤解しているみたいだけど、僕は謙遜なんかしていない。


「人の骨をへし折って靭帯を引き千切る。

 目を貫いてそのまま脳漿をえぐり出す。

 井戸に毒を撒く。

 毒蛇を寝所に放り込む。

 隣家に延焼するように付け火する。

 どんな猛者でも口を割らすような拷問をする————

 こんな技術、いったいどこで使えって言うんだ。

 平和な現代日本で扱うには過ぎた力だ」

「でも、昨日はソレのおかげでたまちゃん助けられたじゃん。

 自衛隊が突入した時にはデパートの中に生存者はほとんどいなかったらしいよ」


 ぐうの音も出ない。

 忌み嫌って投げ捨てた技に僕は頼りきっていた。


「それでも……やっぱりしゅーちゃんは向いてないかな。

 だって普通の男子高校生やっている方が楽しいんだし。

 そういう人が身につけるべき力じゃないじゃん」


 真希奈の笑みに陰りが差したのを僕は見逃せなかった。


「やっぱり、退学したことと忍術……それからアイツらのことが関係してるの?」


 真希奈はタブレットをリュックサックにしまいながら僕の問いに答える。


「元々は一年前に辞めなきゃいけなかったんだし。

 あんな騒動を起こされたのはそういうこと」

「あんなって……まさか、売春疑惑の」

「そうそう!

 全校男子生徒のオカズにされるとかエゲツないにも程があるし!」


 カラカラと笑う真希奈だが、僕の憤りは治らなかった。


「誰があんな真似を!?

 犯人がわかってるならなんで黙ってるんだよ!」


 大声を立てる僕にシー、と唇の前に人差し指を立てる仕草でたしなめる。


「なによ。あの時は朗らかに笑い飛ばしてくれたのにさ」

「それは……あの時はお前が傷ついていると思ったから騒ぎ立てるよりも静かにさせてやりたいって……」

「そっか。その選択は正解。

 もし、しゅーちゃんが嘆いたり怒ったりしてたらそのまま学校辞めてたし。

 てゆーか、私がこの一年、学校に通ってたのってしゅーちゃんがいるからだったんだな」


 サボりがちだったけど、と付け加えて立ち上がる真希奈。


「ありがとう。しゅーちゃん。

 たまちゃんと仲良くしろし。

 ふたりがデートできる日常は私が守ったげるからさ」


 まるでヒーローのように頼りがいのあるセリフを僕の幼馴染は口にした。


 僕は察した。

 真希奈が今まで忍術修行を辞めなかったのは今、この時のためであると。


「もう、僕には関わるなってことか?」

「うん。しゅーちゃんは巻き込まれただけの一般人だし。

 だから、もしあのAMとかいうのが近づいてきても絶対に相手にしちゃダメ」


 真希奈はキッパリとそう言った。


 いつの間にか日は沈んで僕たちは街灯の明かりに照らされていた。


 そんな時、ピコン、と僕のスマホと真希奈のタブレットから同時に通知音が鳴った。


 画面を見るとメールの着信。

 差出人はやはりAMだった。


「しゅーちゃんは開かないで」


 真希奈は怒りぎみに僕に言った。

 当然、僕は反発する。


「護身のために見させてもらうよ。

 これがゲームだっていうならルールを知っているだけで助かることだってある」


 僕の正論に真希奈は嫌な顔をして聞こえないくらい小さな声で呟いた。


「それだけで終わらないくせに」


 真希奈の言葉に反応せずメールの文面に目を滑らせる。



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