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PHASE11 帰還

 あー、きたか。

 という気分だった。

 派手に立ち回りしていたし、隠すつもりもさらさらないが口にするには憚られる。

 まあ、こんな状況下だし……案外すんなり受け入れてもらえるかなあ。


 淡い期待をして僕は口を開く。


「ニンジャ」

「…………はい?」

「忍者。忍者なんだよ。

 正確には戦国から代々続いた忍者の家系で子供の頃から忍術を嗜んでたんだ。

 拓殖兄妹は同門の兄弟子、妹弟子にあたって僕の爺さんが師範だったんだ」


 僕が喋り終えると車のエンジン音と対向車のすれ違う音だけが車内に響いている。


「……うっそだー。

 忍者って、あの忍者?

 え? 壁走ったり風呂敷広げてムササビみたいに飛んだりできるの?」

「私やしゅーちゃんは無理だけど、兄さんならできるよ」


 追い討ちをかけるような真希奈の補足に有村は頭を抱える。

 まーそうなるよな。

 僕だって有村が魔法少女だったらビックリする。


「に、ニンジャってホント?

 手裏剣とか投げれるの?

 変わり身の術とかは?」


 AMが日本大好き外国人みたいに目をキラキラさせながら尋ねてくる。


「手裏剣はあまり……どう考えても拳銃の方が使い勝手が良いし。

 変わり身の術は漫画みたいに入れ替わるのは無理だけど、服の中に鉄板を潜ませたり不意の攻撃に対する備えはするかな」

「わぁ! 合理的なところとかニンジャっぽい!

 テンション上がってきた〜♪」


 なんだコイツ……

 有村も僕と似たようなことを考えたのか恐る恐るAMに尋ねる。


「あの……もしかしてAMちゃんってオタク?」

「オッオッ、オタクじゃないですよぉ!

 暗いからと言ってオタクと決めつけないでくださいね!

 失敬ですよ!」


 キョドキョドした態度に否定の仕方が無様。

 間違いなく、コイツオタクだ。

 見た目はマネキンみたいにキレイなのに残念な奴。


「ナードな感じ出てるもんね。

 それはそうとAM。

 オマエの世界ってココと似た感じなのかよ?」

「……というか、この世界が私たちの世界をモデルに作っているから。

 渋谷も早良市も知っている地名だもん。

 街並みもそっくり」


 AMの回答に対して真希奈が唸る。

 しばらく唸った後、ふぅと息を吐いて、


「ホントはどっちが本物なんだろうね」


 と呟いた。

 その呟きに僕たちは答えなかった。





「さて、と。

 しゅーちゃんはAMを連れていくのに協力してよ。

 たまちゃんはタクシー代あげるからお家に帰ってもらっていいよ」

「いいよ。私も一緒にいる。

 別に泊まりもアリだと思って家出てるし、こんな後じゃ落ち着いてお風呂にも入れない」

「あらあら、お泊まり慣れしてんのねえ。

 たまちゃんにはしゅーちゃんじゃ物足りないんじゃなぁい?

 童貞だし」

「ああ、良かった。

 さっきの無理やり云々はくノ一が流した流言の類なのね。

 さすがニンジャ汚い」


 有村と真希奈の雰囲気が怖いです。


「クスクス」


 クスクス笑ってんじゃねえよ、オタ女。


 僕が冷たい目でにらむと笑うのをやめて遠くを見た。

 悪人かどうかは置いといて、気弱でビビリだもんな。コイツ。


 ピッチリとタイトな衣装を纏ったAMは作り物のように美しくて気を抜くと見惚れてしまう。

 こんな虐殺ゲームじゃなくて観光にでも来てくれたら喜んで案内してやるのに。

 なんだったら忍術っぽいものも見せてやる。


「ねえ、フジバヤシシュウヤ。

 この世界にもメールとかはあるんだよね」

「連絡先の交換か?

 だったらメッセージアプリの方が」

「長文だし、いろいろと使い勝手良いからメールで。

 アドレス教えてくれる?

 アリムラタマキもツゲマキナも」


 僕たちはメモに書いたアドレスをAMに渡した。


「ありがとう。

 あと、迷惑かけてごめんなさい。

 とりあえず、私の方から知る限りの情報をこのアドレス宛に送るわ。

 政府機関に渡すなり、ネットに公開するなり、判断はあなたたちに任せる」


 コキコキと指を鳴らすAM。

 運転中の真希奈は視線を向けずにAMに言う。


「いや、なに勝手に帰ろうとしてんの。

 事情聴取、徹底的にやるよう言われてるんだから。

 今夜は寝かさないよ」

「うん。あの筋力極振り男も捕まえているんだよね。

 奴を逃すとフジバヤシシュウヤの身が危なくなるから逃がさないで。

 手首は常に切り落とすようにしておいて」

「ハハ、うちの兄さん相手に手が使えたくらいで何も出来ないっしょ」


 勝ち誇る真希奈。

 だが、その瞬間AMの口角が上がった。


「そうでもないよ。

 デスペナルティ扱いになるけど、強制ログアウトする方法がある」

「!?」

  

 真希奈は咄嗟にブレーキを踏み込んだ。

 車体が大きく揺れ、有村が転がった。


「しゅーちゃん! 止めて!」


 出来なかった。

 有村を抱えて僕の両手は塞がっており、AMは虚空に右手の人差し指を向けて、押した。


「バイバイ。

 みんな、死なないでね」


 ゲームらしく光の粒子となってAMは忽然とこの世界から姿を消した。

 

「…………全部夢、ってわけじゃないよね?」


 有村のつぶやきが3人しか乗っていない車内にむなしく響いた。


読んでいただきありがとうございます。


次話から第二章に突入します。


面白かった! 続きが読みたい! と、応援いただけるのであれば、感想やブクマ、評価等いただけると幸いです。

更新のモチベーションにも繋がりますので何卒よろしくお願いします。


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