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WHEEL OF FORTUNE~仮初の境界線~  作者: 鴇天ユキ
ギルドトーナメント
13/14

第三章プロローグ

「ん……」


 瞼を通して光を感じてアルトは目を開く。


 自室の白い天井に薄い明かりが射すのを見て、明朝なのを悟る。


 随分眠った気になりながら、先日の記憶を呼び起こす。


 結局昨日は彼女の鰭の上で夕方まで眠り、彼女に起こされるまでずっと眠ってしまっていた。そこから再び部屋に戻るも、眠気の収まらないアルトは昼食や夕食も食べずにそのまま力尽きたのだ。


 そして空腹に耐えかねてそのまま目が覚め、今に至る。


「くっ……」


 僅かなうめき声を漏らしながらアルトは上体を起こしてベッドに腰かける。


 やはり治っていないのを感じて左腕を見つめる。


(本当に治るのか?)


 今更ながらアルトはそんな心配をしてしまう。今までの怪我の治りが異常だったにせよ、アルトにとっては一晩で治るのが普通だった為に不安になってしまう。


 と、そこにノックする音が耳に入る。


 そしてアルトの返事もないままに扉は開かれ、セレが入って来て驚いたような顔をしていた。


「ごめんなさい起きているとは思わなかったわ」


「診察ですか?」


「そうよ」と応えてセレはアルトの元に膝をつく。


 そして昨日と同じように左腕の包帯を解いて行く。


「はぁ……」


「どうかしましたか?」


「どうかしてるのはあなたよ。あなたの怪我なら普通だったら二、三日は目が覚めないのが普通なのよ。それも一日寝てないなら尚更。しかもあなた、絶対安静って言ったのに出歩いてたみたいね?」


 思わずアルトはセレから目を反らしてしまう。


 その内にセレは左腕の処置を終え、包帯を巻き直しながら続けて言う。


「まあ良いわ。それよりあなた、1ヶ月は教務に出なくて良いそうよ。休養で体を治せって事みたいね。まあ、謹慎も兼ねてるのでしょうけど」


 謹慎になった理由は王族二人に怪我をさせた為だろう。それで退学にならなかったのだからむしろ運の良い方だとアルトは考えた。


 しかし、ふとアルトはある違和感を思い出す。


「それはラウド教官が伝えに来るのでは?」


 そう、普段ならそういった話を持ち掛けて来るのは担任教官であるラウドの役目であるはずだった。


「あいつは停職処分になったのよ。当然よね、三人の負傷者を出して、そのうち二人は王族なんだから。その上二人の重傷者は死んでもおかしくなかったのだから、むしろ免職でも良い程よ。寛大な措置に感謝すべきだわ」


 自分の事でないにせよ、いつも以上に毒の強い言い草にアルトの方が苦心してしまう。


 何がそこまでセレに言わせるのか。


「ラウド教官はいつ戻るんですか?」


 そんなちょっとした疑問を尋ねただけにも関わらず、セレは鋭い目をアルトに向ける。


 思わず息を飲んでしまうアルトに、セレはその目付きのまま鋭い口調で告げる。


「1ヶ月は戻って来ないそうよ。残念ね、あなたの謹慎期間と被ってて。御愁傷様」


 そこまで言うか? と思わず口に出しそうになるアルト。


 そんな事を言いながらも処置を終えたセレは、立ち上がりながらにまさかの追い討ちをかける。


「因みに、あなた1ヶ月の謹慎で実技試験の単位が取れないそうだからそのつもりでいなさい」


「はぁ!?」


 その言葉には流石に声を上げるアルトは思わずベッドから勢い良く立ち上がってしまう。


「ちょっと待ってください! スティル先輩に勝てば在学って条件で俺は再試験を受けたんですよ!?」


「そんなの私の知った話じゃないわよ」


 そんな無機質な言葉を最後に、セレは部屋から出て行ってしまう。


「くっ!」


 力んだせいでまた全身に痛みを感じて再びアルトはベッドに崩れ落ちる。


 追いかけようにも、体が言うことを聞いてくれない。


(こんな状態でこれ以上どうしろと?)


 死に目に遭い、実力を示し、それでもまだ足りない。


 再びアルトは絶望の中に叩きのめされた。

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