第9話~氷の奥義魔法~
第7話にて、エシュテール家の奥さんと次男の名前を入れ忘れたので、本日入れました。
思わず投げつけた2つの氷剣は、縦に円を描きながら高速で飛んでいき、1つは運良く子供たちの首を縛っていた縄を切り裂きながら上空に飛んでいって消滅した。もう1つはキーラの脚に斜めから思いっきり突き刺さっていた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
刺さった氷剣の凍てつく冷気が侵食していく痛みからか、剣を抜くことも出来ずに悶えている。
「キーラ!? くそっ! おい衛兵! 我が息子に危害を加えた屑を早く見つけ出せ! 建物の影などを徹底的に探すんだ! それとラタル、キーラの治療を頼む」
「分かったわリーア。それと、早くキーラを傷つけた奴を見つけ出して。私がこの手で殺してあげるから!」
氷剣によって傷ついたキーラを治療するラタル。その目は攻撃の主に対する憎悪と、キーラに対する愛で満ちていた。それを見て正直氷球程度にしておけば良かったかなと一瞬思ったが、たかが子供たちにぶつかられた程度で突き飛ばし、更に屋敷に連れていって屑みたいな事をしようとしたアイツの事を考えると、その考えは直ぐに消え去った。
(やばい。そんな事考えてる場合じゃない!)
この状況に動けずに居る子供たちを助けるべく、俺は収納していた羽を展開して上空に飛び立つ。背中にもともと羽を通すスペースがあった為、服を無理矢理破かなくて済んだ。そして、子供たちを見つけるとその周りに上だけが空いた氷のドームを作って衛兵やエシュテール家、まだ姿が見えない魔導師メルが近づけないようにした後、氷のドーム内に居る子供たちの元に降り立つ。
「君たち大丈夫?」
「え!? あ、うん。僕たちは大丈夫だよ…… 羽付きのお姉ちゃん」
「わたしもけがはしてないよ。ただ、こわかったの……」
もう3人の子供はよほど怖かったのだろう。うずくまって泣いていた。まあ、あんなことをされれば小さい子供たちにとっては恐怖となるのは当然か。
「そう、良かった! じゃあ、今から君たちの事助けるからね。ちょっと怖いだろうけど我慢してて」
そうして俺は、魔力で作った魔法の箱の中に子供たちを入れて、その箱の取っ手を持ちながら上空に飛翔する。そこそこ快適に過ごせるように大きく作ってある魔法の箱を持ちながらの飛行は日中という事もあって、かなり大変だ。
「なんだアイツ、まさか吸血鬼!? そんなバカな! 日中に行動できる奴なんてまるで…… はっ! 魔導師メルはまだなのか!?」
「父様、衛兵隊長の報告によると、エーシェ冒険団の面々に止められて動けないとのことですよ」
「エーシェ冒険団!? 通常の竜であれば1人でも戦えるリーダー率いると言うあの…… それでは魔導師メル1人だと話にならないではないか!」
「ええ、ですからこの際魔導師メルの到着は諦めましょう。それよりも父様、早くしないと折角キーラの捕まえた下民があの吸血鬼に連れていかれます」
「ああ、そうだな。シュティン、お前も奴の撃墜を手伝え。子供は出来る限り傷つけるなよ。キーラの所有物なのだからな」
そのリーアの発言の後、直ぐに大きな水球が俺に向かって飛んできた。一応丈夫に作ってはあるが、子供たちの入っている魔法の箱が万が一壊れてしまえば大惨事は免れないので回避する。その後直ぐに……
「空を飛んでる吸血鬼に告ぐ。直ちに貴様の持っている物をこちらへ渡せ。さもないとエシュテール家の名の元に貴様を殺すぞ!」
と言ってきた。当然だが、そんな奴の言っている事は無視してルスマスの元に戻る。
「うわぁ…… これだけ派手にやれば俺たちが隠れてた意味ねぇぞ。でも、良くやった! ルナ」
「僕もそう思うけど、次からもう少し慎重になった方がいいと思うよ。万が一何かしらの罠が仕掛けられてたり、捕まってる子供が殺られてたかもしれないからね」
「ごめんなさい。この子たちが泣いてるところを見てたらつい身体が動いてたの……」
確かに今の俺の目立つ行為により、リニルシアの全魔力を使った『全隠蔽』スキルが無駄になった上に、自分や子供たちまで危機に晒していたことになる。今回は氷剣投げで運良く隙を作れたから良かったものの、次にこういうことがあった時上手くいくとは限らない。
「それでさ、ルスマス。この5人の子供たちの入った魔法の箱持てる?」
「これか? 試してみるから待ってろ…… ああ、このくらいなら大丈夫だ。取っ手がついてて結構楽だから、もう2~3人位入ってても行動に支障はない」
「そう? 良かった~。じゃあ、ちょっとアイツら止めてくるから待ってて!」
「え? あ、ちょっと待て! ここは――」
ルスマスが何か言い切る前に俺は飛び立ち、再び奴らの居る場所の上空まで行く。
「え~っと、エシュテールおじさん? 時間をあまり取れないから奥義魔法で終わらせるね!」
「何を言ってる! それにエシュテールおじさんだと? 無礼な! 私は――」
アイツの話を全部聞くのも面倒なので、沢山の衛兵をまとめて制圧する氷属性奥義魔法を発動させる。
「光の輪の中に居る者たちを、永遠なる銀世界へ誘え『永遠の氷世界』」
銀色に輝く超巨大な幾何学的模様の魔方陣を奴らの足元に展開、その魔方陣ごと上空に浮かばせる。
「おい貴様! 何をする!」
「えっとね、こうするの!」
魔方陣を中心に約1kmの球形結界を張り、その内部を極低温の環境にする。本来なら氷球の嵐や猛吹雪、ランダムで氷柱が下から出てくる等の現象付きの魔法だが、今回はそこまでやる魔力が残念ながら残っていないので、低温+降雪程度にして、なおかつじわじわ氷の魔力が侵食していくように調整をした。
「あ、そうそう。今回はお情けで死にそうになったら自動解除するようにしておいたから安心してね!」
「「「どこが安心なんだぁ!」」」
こうして上空にエシュテール家の面々を捕獲し、この町から脱出することを容易にするのに成功した俺は、その事をルスマスたちに言うために戻る。
「ルスマスにユーラ、リニルシア。全部終わったよ~」
「……そうか」
「あんな氷魔法見たことない…… 僕にも出来るようになるだろうか?」
「ルナ凄い! 流石私の子だね!」
そうしてユーラに抱き抱えられると、今まで魔力使いたい放題使った反動で抗いきれない眠気が襲ってきた。
(あ、ヤバい。糞眠い……)
こうして俺は、眠気に抗えずに抱き抱えられながら寝てしまった。
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