無限迷宮と採掘 その6
無限迷宮の入り口で今日の試験採掘に参加する面子が揃った。機材も準備完了だ。メンバーは無限迷宮管理局からケイン、ヴィイール、ナナ、ミルキー、エネルギー資源庁か、セシナ、ジュリアーノ、民間人の3名、冒険者のソルト、ミレーユ、ガモンである。
「今日はいよいよ王政府肝いりの事業である無限迷宮の資源開発の調査を行う。」
ケインの言葉におのおの緊張感のある顔をしていた。特に民間人の三人とセシナとジュリアーノは厳しい顔をしていた。民間人の三人は生活がかかっているからだろう。ジュリアーノは新法派ためにこれを成功させたいと思っているのだろう。セシナはよくわからん。
「では、エネルギー資源庁のセシナから一言。」
ケインに促されたセシナは困った顔をした。話さないつもりだったようだ。
「えー、今日はお日柄もよく。」
「無限迷宮内に行くんだから外の天気は関係ないで。」
ソルトがやじる。
くすくすと笑い声がちらほら聞こえた。
「笑いはいらないから。えーと、この事業の成功如何でかで我国の経済力は更なる発展をするか、停滞するかが決まります。我国の置かれた現状は今のところ戦争などの国難はないですが、いつ難しい舵取りを要求されるかわかりません。そうした事態の時に選択肢を増やす、そのために経済力を強化しなくてはなりません。この事業はそれだけ重要な責任の重いものです。緊張感を持って今日の試験採掘に勤めましょう。」
拍手が起きた。
ケインはセシナも大分成長したなと思った。昔はこんなに政治とかを語るような奴ではなかった。ただ、目の前の職務に忠実であらばよいという感じの人間だった。騎士団団長だった頃はむしろ熱意がないと思い嫌いだった。今は好きだが。
「じゃあ、これから無限迷宮内に行くぞ。」
中々の大所帯で迷宮内に入ったケイン一行であった。
道のりはかなり楽だった。第12エリアには抜け道のドアを使ったのであっという間に着いた。採掘ポイントの道もザコモンスターしか出てこず、ミレーユがスライムと戦う際に大活躍した。
ケインは歩きながら今日初めて一緒に仕事するガモンに興味を抱いた。
「ガモン。」
「なんでござる局長殿。」
「変なしゃべり方するな。」
「これは拙者の国でのしゃべり方でござる。」
「どこの国の出身なんだ?」
「それはえーと。」
「ガモンは和国のサムライが好きすぎてそのしゃべり方なだけで出身はリュディニアやで。」
ソルトが代わりに答えた。
「ということは似非サムライ?」
「似非ではないでござる。」
「でも、サムライじゃないんだろう?」
「そうでござるが。」
「なら似非サムライじゃないか。今度から似非サムライと呼ぶよ。」
「うーむ。」
何か納得してないような様子だったが、しぶしぶ認めたようで、俯きながら歩いていった。
「よしここら辺で採掘しましょう。」
セシナの声かけで試験採掘の準備を始めた。
そこは開けた場所で岩はだが露出していた。
ミルキーは興奮しているようだ。さすが、鉱石の研究をしているだけのことはある。痛い言動で残念なだけで、研究者としてはかなり優秀である。
民間人の三人は手慣れた様子で準備を進めた。
ジュリアーノが指示しながら溜め息した。
「はぁ、あのう。」
じろりと冒険者たちの方を見た。
「なにしてるのですか!?」
ジュリアーノが怒鳴った先には冒険者三人とケインが酒盛りしていた。
「お花見じゃないですよ!てか、わざわざシートまで持ってきたんですか!?」
「こんないい陽気にはこうじゃないと。」
ケインが悪びれもせずに言った。
「ピクニック気分!?」
なんて自由な人なんだとジュリアーノは思った。よくこんな人が局長やっているなとも思った。冒険者も好き勝手やってまともに警護してくれない。来るときこそそれなりに働いていたが、作業が始まると暇そうに酒盛りを始めた。真面目そうなミレーユという人ですら酒を飲んでいる。来る前に同僚から無限迷宮管理局の関係者は頭がおかしい、自由な連中だと聞かされたが、この事かとジュリアーノは思った。
そういえばセシナさんは何処いったんだろうとキョロキョロ探した。ナナさんを見つけたので聞いてみた。
「すいませんナナさん。」
「どうしましたか。」
「セシナさん見ませんでしたか?」
「それなら、あそこでうちの厚顔無恥な課長と話してますよ。」
と言われたのでそっちの方へと目を向けると確かにセシナさんとヴィイールさんが話していた。
仕事中に何してるんだろうかと思い行ってみた。
「あのご趣味はなんですか?」
「女あさ…いや、料理を。」
調度、セシナがヴィイールに趣味を聞いているところだった。
「セシナさん!何、お見合いみたいなことしてるんですか!?」
「いやこれも仕事で。ね!?」
「ああそうだ。決して数少ない出会いをものにしようとおもったわけではない。」
「そうそう、交流をね。決してサボって男探しをしていたわけじゃないわ。」
「ああもう。何この自由さは!」
怒り心頭のジュリアーノの肩を叩いた人がいた。ケインだった。
「なんですか?」
すごく機嫌悪そうな口調だった。
「バナナはおやつですか?」
「知るかーー!」
「ナイスツッコミやで」
「私と堅物キャラが被っているでござる。」
「そこの二人は黙ってろ!」
「ケイン局長!」
「なんだ?」
まったく、反省のしてない顔を口振りをしたケインだった。
「公務員ならもっと人の手本となる言動をするべきではないですか?」
「違うんだ。」
「何が違うんですか!?」
ケインはその澄んだ瞳で遠くを眺めて言った。
「ハルがいないから全力で遊ぼうと。」
「あんたそれでも社会人か!」
公務員と冒険者連中がわいわいやっているとさすがに民間人たちは人に働かせて自分達は遊ぶのかとかなり怒りだしていた。
それに気付いたジュリアーノは慌てて謝った。
「すいませんすいません。」
平謝りをするジュリアーノだった。
それを見てケインは笑いながら言った。
「いやぁ、なんか俺たちだけ楽しんでわるかったな。飲めよ?」
その言葉に民間人たちは激怒した。
こっちは真剣にやってるのにということである。
民間人たちは作業を途中でやめて帰ってしまった。口々に怒りを爆発させて。
結局、この日の作業は中止になった。
次の日、事情を知ったハルに折檻されたケインは民間人に謝罪しに行くこととなった。民間人の三人は大人なので責任者の謝罪ということで許してもらった。計画は少し遅れるが、一応継続ということになりセシナもジュリアーノも安堵した。
そして、次からは問題を起こしたケイン、セシナ、ヴィイールと冒険者の三人は計画からはずされることになった。現場での責任者はジュリアーノになった。ジュリアーノとしてはこれでちゃんと仕事が出来ると思った。しかし、この問題児の集まりのようなところで果たして自分の精神は持つだろうかと心配になった。
ハルのいない時のツッコミ役という立ち位置になりそうだと心の底から溜め息した。
「何をやっているんだろうか私は。」
そう報告書を書きながらジュリアーノは呟いた。