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無限迷宮の管理人  作者: マジコ
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無限迷宮と採掘 その5

局長室での仕事を大方片付けたケインたちは休憩していた。


「そうだ。この後、セシナが俺と話したいということだから席外す。遅くなるかもしれんから時間になったら勝ってに帰宅してくれ。」

「わかりました。」

「はい。わかりました。ところで、セシナさんの話ってなんでしょうね。」


イリスが言うとハルは溜め息した。事情がわからないのに他人同士のことを詮索するのは趣味が悪いと思ったのである。


「詮索はしちゃだめよ。イリスさん。」

「そうですね。すみません。」

「まぁ、多分そんなに穏やかな話じゃないと思うからな。あんまり話さない方が良いかもしれない。お前らには必要と判断したら教えるよ。」

「その方が良いかもしれませんね。不要の情報は害悪なこともありますから。」


口先とは裏腹に内心悲しくなるハルであった。もう少し右腕として信頼してもらえないだろうかと考えてしまう。でも、すぐに思い直す。局長は私たちに危険な目に遭わせたくないと思っているのだろうと、察する。めんどくさがり屋であるのに部下のためならなんだかんだ言って体を張る。そんなケインのことをハルは尊敬していた。


「局長は優しいですね。」


ニコッとして話すイリスは可愛らしかった。

ケインがいつもフォローしてくれる。こんな自分を面倒を見てくれる。この人の言うことはしっかり聞こうとイリスは思っていた。


「そりゃあな。」

「ふふふ。」

「二人ともまだ仕事はあるんですからそろそろやりますよ。」


ハルに促され「はーい」とイリスとケインは言って仕事に戻った。

時刻は退勤の時間になった。


「そろそろお前ら帰りな。」

「そうですね。仕事も今日の分は終わりましたし、お先に失礼させてもらあましょうか。ねっイリスさん。」

「はい。帰りましょう。」


帰り支度を済ましたイリスとハルは帰って行った。

残ったケインは椅子に座り、溜め息した。早く帰って娘と妻に会いたい。今日は一緒に夕飯食べれないなと思った。お風呂に娘が入る前に帰って一緒に入ろう。

そろそろ暗くなり始めた頃、セシナが局長室に入って来た。


「おまたせ。」

「まったく本当に遅い。」

「こっちも色々準備があのよ。」

「で、話ってなんだ?」

「早速話しましょう。」


セシナの神妙な面持で話始めた。


「ジュリアーノのことなんだけどね。」

「ああ、あの若い子か。」

「うん。彼女がなんで経験が少ないのに無限迷宮での試験採掘に派遣されたと思う?」

「なるほどな。新法派の回し者か。」


今の聡ケインには大体予想できる。ジュリアーノは経験を積ませるために来たという訳ではないということだ。


「ええ。新法派は今、誰が味方になるのか調べるために、色々なところに間者放っているわ。」

「たく、俺たち無限迷宮管理局は中央での発言力もなければ軍事力もないのに何を得たいんだ。」

「そんなことかんがえればわかるでしょう?」

「まあな。」

「本当にケインは性格が変わったわね。」

「みんなに言われるよ。」

「彼女には気を付けた方がいいわ。」

「肝に銘じておくよ。」

「新法派の連中は狂ってるわ。」


そのセシナの口調は親の仇を憎むかのようなものであった。ケインはふむと少しセシナの考えを推察してみた。


「それは旧法派にも言えるがな。」

「確かに旧法派は腐ってるけど、新法派の狂い方よりはましよ。」

「新法派のことを毛嫌いしてるんだな。」

「当然よ。あいつら理想ばかり高くて現実に合わない政策ばかりするわ。旧法派がブレーキになっているけど、それもいつまで持つやら。現在の新法派と旧法派の停滞した争いが、いつ決壊し、最悪の場合内戦に発展するかわからないわ。」


セシナの新法派への不信感はかなりのものであった。

それは他の官僚たちにも新法派を拒絶しているものがいるのではないかとケインは思った。急進的な改革には付いてこれず拒否反応を示す者がいるものだ。

ここでケインはふと思う。新法派を指示している人は少ないのだろうか。いや、女王陛下にも取り入ったりしているからある程度の勢力があるだろう。ただ、女王陛下の後楯があるだけで、広大な領地と兵士を持つ旧法派の貴族を王政府から締め出すことができないのだろう。


「セシナは旧法派なのか?」

「違うわ。」

「でも、旧法派のことを評価しているようだが。」

「評価しているというよりバランスを取っていると思ってるだけよ。」

「新法派の連中は嫌いか。」

「柔軟な思考をと新法派の連中は言うけど、私からしてみれば柔軟に考えることに頭が固まっているのよ。」

「確かにな。俺の知る限り改革することに夢中で回りが見えてないように思える。」

「そういうよく言えば真っ直ぐなその考え方に貴族の若者や騎士団の若手が魅了されることもあるわ。」

「伝統的な家庭だったり、伝統がなくても裕福な家庭の子どもで新しい政治のやり方に惹かれる人はいるからな。」

「富裕層だけじゃないわ。ジュリアーノのように貧困層出身で社会を変えようとする者も多いわ。」

「でそのジュリアーノに気を付けろということか?」

「ええ。下手なことして新法派の敵となると思われたら潰されるわよ。」

「家族がいるからまだ失業するわけに行かない。気をつけておくよ。ところでもしかしてお前ら当分ここにちるのか?」

「当然じゃない。資源の調査で来ているのだからしばらくはいるわよ。」

「マジかよ。」


ケインは溜め息した。まぁ、知っていたが、ジュリアーノというめんどくさそうな奴にうろうろされるのは迷惑だ。それと、部下たちに不幸が降りてくるような事態にはしたくない。具体的には無限迷宮管理局の刷新だ。外部すなわち新法派の息のかかった人物が重要な役職につくことである。そうなれば旧法派への対向するための組織となるだろう。資源や精霊、モンスターたちは旧法派との戦争の道具とされるだろう。ケインは元北面騎士団団長である。政争の愚かさ虚しさ無意味さをよく知っている。そうした環境にいたからこそ家族はもちろん部下たちをそういうことに巻き込みたくないのである。

セシナの顔をケインは見た。その苦し気な表情に中央が今どんなに大変な権力闘争しているかありありと伝わってくる。


「セシナは立派になったな。」

「なんで上から目線!」

「セシナは綺麗で男にほっとかれないだろうなぁ(棒読み)。」

「嫌味かっ!まぁ、とにかくジュリアーノには用心しときなさいよ。私はもう帰るから。」

「じゃあな。」


セシナは帰って行った。

残ったケインは伸びをして大きな欠伸をした。

少し物思いに耽った。考えてるのは中央との関係だ。あまり片方に荷担すると、もう片方の陣営から潰しにかかられてしまう。かといってどっち付かずだといよいよという時に槍玉に上げられてしまう。ここは当面もう少し様子を見るしかない。まだ、どちらの陣営に付くかはっきりしない方が良いだろう。とりあえず、ジュリアーノの動きには注意した方が良さそうだとケインは考えるに至った。

考えがまとまったところでケインは愛する妻と娘の待つ家へと帰ることにした。

局の外に出ると外はもう真っ暗だった。ふと、研究所の方に目をやるとまだ明かりがついていた。まだ、誰か研究に没頭しているのだろうかとケインは思った。研究所の研究員は熱心な奴が多い。モンスターや精霊、資源など研究を志す者には魅力的な研究対象が多いからである。そのためか無限迷宮管理局の研究所は倍率が高い。何浪もして入る奴もいるくらいだ。そういえば明日の試験採掘に立ち会うミルキーは一発合格だったらしい。いい年してぶりっこしなければ人から尊敬されるだろうに。まぁ、本人はあまり人からどう思われているかとか考えてないように思える。あのぶりっこも狙ってるというより性格なのだろうとケインは思った。

何となく研究所に覗きに行ってみるかと思った。早く家族に会いたいという気もしたが、この時は研究所の様子を見に行くのに心が傾いた。

研究所に入ると廊下は暗かった。無限迷宮管理局の夜の明かりはライトスライムの暗闇での発光を利用している。ライトスライムを使うと昼間並み明るくなる。忙しくて残業する時には非常に重宝する。ケインもたまにハルにサボってるのをばれて残業するはめになった時に助けられたものである。

明かりの付いていた研究室に着くとドアをノックした。ドアにかけられている表札にはミルキー・イーストと書かれていた。


「どなたですか?」

「俺だ。」

「俺だという知り合いはいません。」

「局長のケインだ。」


そこでようやくドアが開いた。


「局長どうなさったのですか?まさかあたしに会いに来てくれたのかな?嬉しいぞ!」

「うるせえよ。痛女!」

「相変わらずつれませんね。」

「お前の冗談は気色悪い。」

「ひどい!」

「ひどくない!」

「この冷たい局長の話をウィルさんに教えないと。」

「何をはなすんだ?」

「夜にうら若き乙女の部屋にやって来たと。」

「あらぬ疑いをかけられるようなことを言うな!後、お前はうら若くない。」

「ふう、この魅力が解らないとは局長も見る目がないですね。」

「ああ、多分一生解らんな。」


呆れたケインは溜め息した。このミルキーという奴は仕事は出来るのだが、性格がひどい。というよりこの口調が腹立つ。かろうじてまだ20代だが、もうぶりっこしていい年は越えているだろう。それでもその生き方を貫くのはすごいと思うといえば思うが、やっぱり呆れる。まぁ、こいつらしいということだろう。


「ミルキー。明日は朝から行くんだからもう帰れよ。」

「そうですね。ちょっと恋人の観察に夢中になっていました。」


恋人というのは無限迷宮内で拾ってきた鉱石のことである。性格がああなので人間の彼氏がおらず、こうして鉱石を恋人としている。この調子で行くとセシナのように行き遅れになるとケインは思う。

ケインは思う。セシナか。昔馴染みとはいえ情報を提供してくれたのはなぜだろうか。やっぱり、旧法派の息がかかっているのだろうか。地方の行政機関の新法派へのイメージを悪くさせようとでもしているのだろうか。


「局長!ライトスライムの明かり消しますよ。」

「おおわかった。」


今の手持ちの情報ではなんとも言えない。とりあえず、ジュリアーノとセシナの動きには注意しておこうとケインは考えた。

ミルキーと研究所を出た。途中でミルキーとは別れて一人帰路に着いた。空を見上げる。美しい星空の夜だった。


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