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無限迷宮の管理人  作者: マジコ
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無限迷宮と採掘 その3

ケインとハルがニューアースへと帰った次の日。

いつも通りの時間にケインは無限迷宮管理局に来た。


「おはようハル。」

「おはようございます局長。」


いつも通りの挨拶である。


「イリスはまだか?」

「はい。また遅刻でしょうね。」

「まぁ、あいつが遅刻しない日の方が珍しいからな。」

「局長からも怒ってください。」

「まぁ、いいじゃねえか。仕事は…。注意した方がいいな。」


庇いきれねえとケインは思ったのである。

イリスは良い子である。仕事にも熱心で頑張りやである。そこのところはハルも認めるところである。しかし、あまりにもミスが多い。目をつむりきれんミスのを多さである。コーヒーの砂糖と塩を間違えるのはまだ序の口だ。恐ろしいのは書類上のミスである。よく大騒ぎになる。使いに出すなどもってのほか。必ず間違える。


「ところでハル、今日の予定は?」


いつまでもイリスの話をするのもあれなので、仕事について話すことにした。


「今日は資源管理課と明後日の試験採掘の打ち合わせです。」

「そうか。よしハル、あとは任せた。」

「何をですか?」


顔はにこやかに声はドスのきいている。

ケインは直感した。これ以上ふざけたら死ぬ。それほどの威圧をハルから感じていた。この危機感は戦争で前線にいる時よりも死を身近に感じる。 その恐怖から逃れるためにここはこれ以上ふざけないようにしようと思った。


二人のいつもの会話をしているとイリスが来た。

顔面蒼白である。

一応、悪いことをしている認識はあるようだ。そういったところが割りとケインは気に入っている。なんというか可愛い。あまり甘やかすとハルに怒られるから口には出さない。


「すみません。遅れました!」


大慌てという感じである。そこがまた可愛い。頭を撫でたくなる。


「まったく。社会人としての自覚はあるんですか!?」

「すみません。」

「すみませんではないです。あなたが仕事に熱心なのは分かります。………。」


ハルの説教が長くなりそうなので、ケインはこっそり部屋を出た。そして、中庭へとさぼりに行った。

草叢で横になっているとミイナがやって来た。相変わらず清楚で綺麗な女性的魅力に溢れている。ハルも憧れているらしい。なれるとは思わないが。そして、我妻には負けている。俺の妻は世界一の美貌と性格であると思う。娘もああなるのだろうか。なら心配だ。変な男に引っ掛からないか。今度、同じ幼稚園に通う男の子を調べよう。

そんなことを考えてるとミイナが微笑みながら言った。


「局長、明後日のクエストに参加する冒険者のリストが出来ました。」


そういえばそんなことを頼んでいた。流石、クエスト課の課長。仕事が早い。

リストを見ると固まる。ガモンというのは知らんが、残りの二人は知っている。なにせこの前一緒に冒険したからだ。ミレーユとソルトである。ソルトはまぁ、そこそこの腕前があるから第12エリアぐらいなら大丈夫だろう。しかし、ミレーユはスライムしか狩ったことがない。イレギュラーでレベルの高いモンスターが出てきたらお荷物だ。代えてもらおうとミイナに話そうとすると、ミイナは行ってしまった。急にどうしたのかと思ったケインだったが、すぐにわかった。背中から殺気を感じたのだ。


「局長なにをしているのですか?」


ハルのゆっくりと冷淡なそして怒りの籠った詰問をされた。

ケインは苦笑いしながら答える。


「いやあ、ちょっとミイナと仕事の話をな。」

「へぇ、中庭でですか。局長室でもクエスト課でもなく。」

「それはね。こういうみんなが和める場所でやることで仕事の効率が上がると本で。」

「わかりました。では、手を出してください。」

「ははは、まぁ、それは後でね。」


ケインはそう言うと逃げようとした。しかし、がっちりとハルに腕を掴まれた。今にも技をかけられそうだった。ケインは如何にこの場をしのげるか、騎士団長時代の危機を思い出して考えた。しかし、このような状態の軍の作戦はない。ここは謝るのが良いだろう。きっと、心から謝れば許してくれるだろう。そんな淡い期待を乗せて言った。


「すみません。許してください。」

「ダメです。」

「いたたたたた!」


全力で間接技をかけられケインは悶絶した。


「これ折れる!絶対折れる!許してお願いします!ハル様!」


懇願しても緩めてくれない。

ハルは何か屑を見るような蔑んだ目で見ていた。

俺は一応局長だよ。上司だよとケインは思ったが、どうやらハルには尊敬されてないようだ。

そうだ。イリスはイリスはどうした。とケインは思ったが、多分今ごろ局長室で落ち込んでいるだろうと思った。いつもハルに叱責されると局長室の隅でしくしく泣いているのである。今回も多分そうだろう。それにハルに怒られている時のイリスは隣で関係のない風にしてケインのことを見捨てる。だから、あまり期待しない方が良いだろう。


「なっなっなぁ、ハル。」


声を落としてなんとか威厳を醸し出せながら言ってみる。痛みを堪えながら赦しを得ようとした。

しかし、ハルは微笑みさらに力を込めた。


「いたたたたた!」


その後も数分体罰を受けたケインは力尽きていた。

うなだれたようにしているケインをしゃがんだハルは落ち着き払って聞いてきた。


「ミイナさんから何かもらったんですか?」


ケインは無言だった。

あまりの苦痛に反応すら覚束無い。

しばしの沈黙。

流石にハルもやり過ぎたと思ったらしく申し訳なさそうにしていた。


「すみません。ちょっとやり過ぎました。」


正直な謝罪だった。こういったところがハルの良いところである。

しかし、ケインは座って俯きながら首を横にふった。許す気はないというように受け取れる。


「どうしたら許してくれるんですか?」


まったく、困った人だとハルは思った。これでも家庭がある人なのである。娘が一人いると聞いている。もっと、しっかりしないと反抗期になったら大変だぞとハルは思った。


「…だったら。」

「えっ!なんて?」

「そのない胸で僕を甘やかしくれたら。いたたたたた!」

「ふざけてる上にセクハラですよ局長」


冷たい視線をケインに送りながらハルはさらに力を強めた。

ちょっとふざけ過ぎたなと思ったケインは謝ることにした。


「すみません。もう真面目に働きます。」

「わかればいいのです。」


やっと、ハルはケインから手を離した。

最近さらに容赦しなくなってきたなとケインは思った。まぁ、ケインが悪いのであるが。


「それで、ミイナさんから何か報告書ですか?」

「いや、第12エリアの試験採掘に同行する冒険者のリストだ。」


そう言うとケインはしゃがんだままハルにリストを見せた。それにハルはしゃがんで覗きこんだ。

少し良い匂いがする。香水だろうか。


「中々濃い面子ですね。」

「ああ、ガモンというやつは会ったことないが、ソルトとミレーユはな。」

「また、賑やかになりそうですね。」

「中央の官僚と上手く行けばいいが。」


中央の連中はただでさえ地方の人間を軽く見る。というよりも関心が低い。官僚となればなおさらである。中央から誰が来るかはわからないが、上手くやってほしい。トラブルを起こされたら面倒である。何かあればケインに責任問題が及ぶ。そうなれば中央の官僚すなわち新法派に睨まれることになる。それはケインの狙いから大きく逸れてしまう。


「何か手を打つか。」

「珍しいですね。局長がそんな風に面倒ごとに何かするなんて。」

「俺だって一応局長だからな。局員のために働くさ。」

「なんか気持ち悪いですね。」


本気で気持ち悪い人を見るかのような視線をケインにむけるハルであった。

それに少し傷ついたケインは口を尖らせた。


「なら俺は知らん。」

「拗ねないでください。局長。」

「拗ねてねえよ。でも、やっぱり心配になるな。」

「それなら、いい案がありますよ。」


にこにこし始めたハルにケインは嫌な予感がした。


「局長が直々に指揮を執ればいいんですよ。」

「やだ。」

「無限迷宮管理局のためですよ。たまには局長らしいところを見せてくださいよ。」

「やだ。」

「でも、あの冒険者たちと中央の官僚をまとめられるのは実績も地位もある局長以外にはいないと思いますよ。」

「やだ。」

「駄々こねないで。」

「やだといったらやなんだよ。これ以上俺に面倒ごとをさせるのはやめろ。」


これ以上もなにもケインは普段楽な仕事しかしてないではないかと思うハルであった。

そこでハルは閃いた。


「ちょっと失礼します。」

「トイレか?」

「違います!」


ハルは顔を真っ赤にして怒鳴った。

この人は本当に一言多いとハルは思った。

不機嫌な様子でどこかへと行ったハルを見送り、またケインは中庭で寝そべり、昼寝を始めた。


しばらくするとハルが戻ってきた。

予想通りサボっていたケインを見つけたハルはケインの体を揺さぶった。


「起きてください局長。」

「う~ん。」

「起きないとミルキーと密会しているとウィルさんに吹き込みますよ。」

「おい、あの痛女と関係あるなんて言うな。食卓が気まずくなるだろ。」

「起きましたね。」


ハルは知っていた。ケインは家族の話になると反応すると。


「で、どこ行ってたんだ?」

「いやあ、ウィルさんに明後日仕事で遅くなるから夕飯はいらないと。」

「俺はまだ行くとは言っとらんぞ。」

「行かないのですか?」

「ああ。」

「エリーちゃんはパパ頑張ってるすごいと言っていたそうですよ。」

「くっ。」

「いいのですか?娘の期待を裏切って。」

「くぅー!」

「さぁ、ひと声。」

「わかった行くよ。」


力なくケインはうなだれた。

勝ったとハルは思った。ケインが娘に弱いことは知っている。溺愛してるから愛想尽かされるのを何より恐れている。反抗期がいつ来るか考えるだけで怖いらしい。


「さぁ、仕事に戻りますよ。」

「そうだな。試験採掘の準備しないとな。」


そう言ってケインは局長室とは逆の方に行こうとした。

すかさずハルはケインの肩を掴んだ。


「なぁ、ハル。」

「なんですか!」

「いたたたたた!」


力を込めて肩を掴めた。あまりの激痛にケインは崩れ落ちた。

首の襟を掴んだハルはそのまま引き摺って局長室へと連れていった。

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