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無限迷宮の管理人  作者: マジコ
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無限迷宮と採掘 その2

面会の面子が揃うと早速トルマが挨拶した。


「私トルマと言います。エネルギー資源庁の資源開発課の課長を勤めております。今日はよろしくお願いいたします。」

「こちらこそ。私はケインと申します。無限迷宮管理局の局長をしています。こっちはハルと言いまして私の秘書をしてます。」

「今日はよろしくお願いいたします。」


ケインに紹介されたハルはぺこりと頭を下げた。


「可愛らしい秘書ですな。」


トルマがセクハラ発言をした。

それにハルは不快に思った。あまり女性的に扱われるのが嫌なのである。特に可愛いだの綺麗だの仕事と関係ないことを誉められるのは気にさわる。


「うちのハルは見た目もいいが、仕事がなにより優秀ですよ。」

「羨ましいですなぁ。」

「エネルギー資源庁にも優秀な女性職員がいるじゃないですか。」


エルリックがエネルギー資源庁へのお世辞を言うとトルマは苦笑した。


「じゃじゃ馬ばかりですよ。」

「うちも似たようなものですよ。ただ、ハルは仕事のできる優秀な部下ですよ。頼りにしているぞ。」

「言われなくても仕事でては抜きません。」


和やかに面会は始まった。


「ではまず無限迷宮第12エリアの調査状況はどうですか?」


エルリックが話し始めた。

毅然としたハッキリとした口調であった。


「それはハルから説明します。ハル。」

「はい。ではまず第12エリアの調査状況ですが、通路の探索は終了しています。」

「そうですか。では構造は把握しているのですね。」


ホッとした顔をエルリックはした。何故ならば通路の把握が出来ていなければ金の採掘調査は出来ない。どんなモンスター、危険な箇所があるかわからないからである。通路の探索となれば金の採掘調査の実現は遠退く。旧法派に干渉されるチャンスを与えてしまう。旧法派に介入の機会を与える前に国家事業という形で進め金を王政府の力にする必要があるのだ。その点からすると通路の探索が終わってるのは喜ばしいことである。


「はい。土が固まっている壁と通路です。」

「危険な箇所は?」

「脆くなっている壁もありますので採掘は慎重に行った方が良いかと。」

「危険な作業を私の部下にはさせたくない。発掘調査する場所は安全面で問題のない所で頼みます。」


狂気にも似た政策をすることもある新法派が連れてきた男だから強引に発掘調査させるのかと思ったが、意外と落ち着いた慎重な判断をする人だとハルは思った。


「ええ、そこらへんはこちらで予め土壌調査をして金が出る見込みがあり安全な場所といえる所を選定します。」

「モンスターはどうですかな?」

「今のところは危険性の高いモンスターの生息は確認されていません。無限迷宮管理局でクエストを出して冒険者を雇えば充分安全性を確保できます。」

「部下の安全が担保されるなら私はよいと思います。」


第12エリアはあまり奥の方のエリアではないせいか、スライムとかラビット類などの比較的弱い部類のモンスターが多い。よくミレーユが彷徨いている。ミレーユが活動てきる所なのでそこそこのレベルの冒険者を雇えば安全に探索可能である。


「金の確認はどの程度ありますかな?」

「ハル。」


ケインはちらりとハルを見て説明するよう促した。


「はい。本格的な発掘は行われていないので推測は難しいです。ですが、時折冒険者から金の発見の報告があるのでいくらかはあると思われます。」

「ふむ。」

「冒険者からの報告を基にある程度採掘場所を絞ることができると思います。」

「そうか。大きな鉱脈があるかもしれんな。」

「資源開発課の人の力をお借りできれば、大きな稼ぎができるでしょう。」


ケインがお世辞を言うなんて珍しいとハルは思った。ハルとしては外部の機関を無限迷宮に入れるのは不快であるが、どうやらケインは敢えてエネルギー資源庁の役人を入れて何かを企むつもりのようだ。おそらく、貴族どもに無限迷宮を蹂躙されるというのを避けたいのかもしれない。ここはケインに合わそうと思った。


「資源開発課の能力はかねがね私も聞いております。我が国の財政改善にも一役買ったとか。」

「いえいえ、私たち資源開発課は当たり前の勤めをしているだけです。それを言うならあなた方無限迷宮管理局の方々の方こそどう扱えばわからない無限迷宮の管理をよくしているではないですか。」

「ははは。われわれは女王陛下からの恩に報いているだけです。」

「まぁ、要するにあなた方は我が国のためによく働いてくれていることですな。」


一見、和やかに互いに敬意を評しあっているが、実際は腹の探りあいをしている。エルリックやトルマからすればケインたち無限迷宮管理局が新法派の政策に乗るのか推し量っていた。また、ケインからすれば貴族どもに無限迷宮管理に介入されるのは嫌なので新法派に取り入りたい。ただ、新法派と旧法派の争いに巻き込まれるのも避けたいので、新法派から過度の求めには応じたくないというのもある。


「さて、調査の人員ですが。」


エルリックが切り出した。

トルマはそれに頷き言った。


「私の部下を2名派遣しましょう。」

「そうですか。では、無限迷宮管理局からは資源管理課と冒険者数名を出しましょう。」

「それなら安心して調査ができる。試験的な採掘をする者はこちらから出しましょう。」


トルマの提案にケインは頷いた。

これで話はまとまった。これなら無理なく調査ができる。


「では、調査の決行は明明後日の昼ということで。」


エルリックが話しをまとめた。そして、続けて言った。


「ケイン殿とハルさんは今日は王都で宿泊されてはいかがですか?」


二人を交互に見た。


「いえ、一眠りしたらニューアースに帰ります。また、竜騎兵をお借りしても?」

「それはかまいませんが。大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。俺もハルもそんなにやわではないですよ。なっ!ハル!」


ちょっと声大きめのケインの言葉にハルはすかさず頷いた。ハルはもとよりケインの指示には絶対である。もちろん、ふざけた指示には容赦のない突っこみを入れるが。


「では、そのように手配しておきましょう。休息をとっていただく場所はホテルを予約しておりますので、そちらで。もちろん案内人をつけましょう。」

「何から何までありがとうございます。」

「いえ、共に国のために尽くす同志なのですからこれくらいは。」

「ありがとうございます。では、我々は行きます。」


そう言うとケインはハルを連れて執務室を出た。

そこに大慌てでエルリックか出てきた。


「すみません。忘れていました。」

「ああ女王陛下への謁見ですか?」

「はい。昼過ぎにまた宮殿へいらしてください。短時間ですが、女王陛下と御言葉を交わせます。」

「そうですか。わかりました。それくらいに戻って参ります。」

「今日はお疲れ様です。」

「お疲れ様です。」


エルリックは慇懃にケインへと伝言した。

ケインはケインで管理局では見せない大人の対応をしていた。


宮殿から出るケインとハルを執務室から眺めていたエルリックは溜め息をした。トルマが訝しげに聞いた。


「無限迷宮管理局の局長はどうでしたか?」

「うん。中々の食わせものだ。」

「私には仕事に真面目な人と映りましたが。」


トルマは苦笑した。かなりやり手であるという印象だったトルマにはエルリックの食わせものという言葉に自分は一面的にしか見れないのかと思っていた。


「腹の底では何を考えているのやら。」

「やはり旧法派につく恐れがあるのですか?」

「ああ、所詮は元騎士団員だ。考えは古いだろう。警戒するに越したことはない。」


エルリックは騎士団に対して偏見がある。古い慣習、栄光にしがみつく愚か者という印象である。一応、彼ら新法派の味方をする騎士団もいるが、下に見ている。


「では、我々が金採掘を利用し、もう少し探ってみましょう。」

「うん。頼む。我々陛下の側近があまり動くと旧法派に警戒される。ここは諸君エネルギー資源庁の者に任せる。」

「わかりました。では、私は調査の準備をして参ります。」


そう言ってトルマは執務室から出ていった。

静かになった執務室でエルリックは一人思案していた。


ケインとハルが案内されたホテルはあまり大きくないが、清潔感のある綺麗な外壁であった。


「ちょっとおしゃれな感じですね。」

「俺、こういう所だと落ち着かないんだよな。」

「まぁ、局長の性格というか身なりを考えると確かに似合いませんね。ふふ。」

「お前、バカにしてるだろう。」


ジト目でハルを睨むケインであるが、ハルは微笑むだけであった。

二人はホテルの中に入った。

中も清潔感のあるロビーであった。カギをもらいハルとケインはそれぞれの部屋に入った。


「落ち着かん。」


ケインはホテルのベッドというものが苦手であった。家のと質感が違うのだ。だから家族旅行の時は寝不足気味になる。とはいえ、今回は寝られるだろうと楽観視していた。何せ昨日の夜から一睡もしてないのだから。

とりあえず、着替えた。そして、ベッドに横になった。ふかふかだが落ち着かない。眠れなさそうだ。

ふと、立ちあがり窓の外を見ると忙しなく人々が歩いている。時折、ペガサスや竜に乗って空を飛び交う人もいる。ニューアースでは見られない光景だ。ニューアースのクエストは無限迷宮内が多いのでペガサスや竜などの空飛ぶ乗り物は不要なのである。よって、それらを扱う冒険者はニューアースには来ないのである。

ケインは窓を開けてまたベッドに横になった。

しばらくボーとしていた。


気づくと昼食の頃合いになっていた。

お腹も空いてきたので、ハルを誘って昼食でも食べに行こうと考えた。折角たがら王都ならではの物を食べたい。

ハルを誘い外に食べに行こうとするとハルが言った。


「昼食はホテルのレストランで食べた方がいいんじゃないですか。」

「それもそうだな。」


ケインはあっさりと考えを変えた。めんどくさくなったのである。気分屋なのだ。

昼食を済ますとケインはハルに言った。


「すまんが、女王陛下との謁見は俺一人でする。ハルは留守番していてくれ。」

「それは構いませんが。」


ハルはケインが元騎士団長だったことを知っている。きっと、何か事情があるのだろうと察していた。私みたいな庶民には知ることのない世界があるのだろう。


「では、私はもう少し休ませてもらいます。」

「すまんな。」

「いえ。」


ハルと別れたケインは宮殿へと向かった。


宮殿に着くと門番に取り次いでもらった。

空は雲ひとつない嫌みな空模様だった。

案内人が出てきたので彼に付いていくと朝、官僚と面会した執務室に着いた。

案内人は緊張した面持で扉をノックした。

中から「はい。」との反応があった。


「陛下、客人をお連れ参りました。」

「中に。」


短い返答に案内人は今にも倒れそうな様子だった。

ケインは何か悩んでるなと思った。女王はケインを呼ぶ時は決まって愛想の悪そうな応対をする。何とか平常心を保とうとしているのだろうとケインは解釈している。


「どうぞ、ケイン様。」

「失礼します。」


ケインが執務室に入るとそこには女王陛下がいた。最後に会ったときより少し老けたように思う。


「私も歳ですからね。」


流石は度重なる政争をくぐり抜けてきただけのことはある。ケインが感心していると女王は眉をぴくりと動かした。


「またあなたは嫌みを考えてましたね。」

「いえいえ。ただ、女王陛下の直感力は恐れ入りますといった感じなんですよ。」


二人の間に沈黙が流れる。

しばらくするとどちらともなく笑い声がこぼれた。


「ふふ。あなたは相変わらずのようで安心しました。」

「陛下もお元気そうで。」

「元気じゃないわ。毎日毎日新法派と旧法派のつばぜり合いに巻き込まれてうんざりだわ。」

「私がいた頃より激しいようですね。」

「ええ。特に新法派は積極的に動いてるわ。」

「陛下の後ろ楯があるからでしょう。」

「あら、私そんなこと言ったかしら。」


女王はとぼけたことを言う。


「官僚たちの態度を見れば大体わかりますよ。」

「あなたは本当に目敏のね。」

「はは、女王陛下のしたたかさには舌を巻きますよ。」

「本当にしたたかさがあればよいのですけどね。」


女王は溜め息した。自分にもケインのような目敏さがあればどんなによかったろうかと考えた。確かに今は内乱や外国との戦争を起こさないようにやっていて混乱は起きてない。しかし、それは女王自身の力というよりも何か世界の大いなる流れのような物でたまたまバランスが取れているだけだ。周辺の大国が戦争を始めればリュディニア王国は大混乱に陥る恐れがある。だから、今の女王ではそんなしたたかさなどないのである。


「所で陛下。」

「何かしら。」

「最近の旧法派の様子はどうですか?」

「表だって何か露骨に行動は起こしてないわ。」

「おそらく、陛下の後ろ楯のある新法派の様子を伺っているのでしょう。」

「そうでしょうね。」


女王は力なく答えた。


「この膠着はいつまで続くのかしら。」

「いつになるかは分かりませんが、崩れる時は一気に崩れますよ。例えば新法派が旧法派に打って出る時は内戦になるでしょうね。」

「私は新法派の味方したいわ。」


女王は意を決したように言った。

リュディニア王国の周辺には神聖ロマネスク帝国や大カーン帝国、アッティラ帝国など大国が犇めいている。その中で生き残るには風通しのよい民から優秀な支配階層を生み出すべきであると女王は考えている。旧法派の貴族たちは一族の繁栄を何より優先しているのであまり信用出来ない。裏切った貴族も確かにいた。そう考えると官僚機構の充実と王国直属の軍隊の拡充は必要である。


「陛下。まだ、対外的には態度をはっきりとさせない方がよいですよ。」

「分かってるわ。今は貴族たちは反旗を翻ってはないけど、新法派に露骨に肩入れすれば争いは激化するわ。クーデターを起こされる危険性もあるわ。」


内戦状態になるのは先代の夫が守ってきたリュディニア王国が瓦解するので、それは避けたい。何より民が苦しむ。戦争で痛い目に遭うのは戦争を指示する支配階層でも実際に戦う兵士でもない民なのだ。実際に戦う兵士の中でも損な役回りするのは徴兵された民である。国をまとめる女王としてはそれだけはしたくないのである。


ケインは良かったと思った。女王が全体を見て行動できてなければ内戦状態になるのは時間の問題と思ったが今日、話してる限り暴挙には出ないだろうと思った。新法派の連中は過激な奴も多い。女王はそういう言わば危険分子に取り入れられてないようだ。


「ケイン。」

「はい。」

「あなたの力を借りる必要が出るかもしれません。」

「私に期待するのですか?」

「ええ。あなたは私の数少ない信頼できる人物ですから。」

「光栄です。」


口では喜んでいる風だが、顔は笑ってない。むしろ険しい顔をしている。ケインにとって政争に巻き込まれるのは部下たちを思うと避けたいのである。

その様子を女王は笑みをこぼした。


「お嫁さんとは上手くいってますか?」

「はぁ、ぼちぼち。」


急に世間話をし始めるのでケインは戸惑った。でも、すぐに冷静になった。


「ふふ。あの頃に比べたら元気そうね。」

「陛下の御心のおかげです。」

「あなたの国への貢献を思えばあれくらい当然です。」

「微力を高く評価していただきありがとうございます。」

「あなたが率いていた時の北面騎士団はリュディニア王国最強でしたね。」

「今も優秀だとおもいますよ。陛下。」

「何を言ってるの。今や北面騎士団は武を疎かにして商に夢中よ。かつてはリュディニア王国の北部の抑えとなっていたけど

、今はもうただの二流の商業団体よ。」

「陛下、アッティラ帝国との和平以来、北部は安全地帯です。そうゆう状況ではそうなるも仕方がありませんよ。」

「だけど…。」

「陛下、騎士団が軍事に手を入れなくても平和ということは、貴族たちも挙兵する理由がないのです。むしろ喜ばしい状況です。」

「そういうものかしら。」

「そういうものです。」


その後も仕事の状況や政治的な話の意見交換をした。

二人で話しこんでいると扉がノックされた。女王が中に入るように言うと。侍従と思われる男が入ってきた。


「陛下、お時間です。」

「わかったわ。ケイン、無限迷宮の管理は任せましたよ。」

「はっ!命を懸けて。」

「では、ごきげんよう。」


女王は仕事へと向かった。

一人残ったケインは帰ろうと思い宮殿の外へと行った。


宮殿の外に出ると一人の老人がいた。

ケインはすぐに誰だかわかった。

サンフェルノ・ダージリンてある。南面騎士団の長老と呼ばれ、その老獪な策で参謀を勤めている。


「サンフェルノ殿お久しぶりです。」

「はは、ケインよ元気そうだな。」


サンフェルノは相好を崩してケインと握手した。見た目は大分衰えたが、それに反して声は若々しかった。その目つきは一見好々爺風であるが、確かな力強さを感じさせた。いくつもの死線をくぐり抜けてきた魔法騎士の顔だった。


「今日はお一人ですか?」

「ああ、従者は領地に置いてきた。精霊は宿に待機させておる。ケインは一人か?」


少し心配そうな顔をしてサンフェルノは言った。それはまるで目上の人が部下を気遣うような様だった。


「いえ、部下を一人連れてきてます。」

「そうか。それは良かった。安心した。」


優しくも悲しげなその笑みの意味にケインは気づいていた。でも、そこには触れなかった。いや、触れたくなかった。同時に自分のことを気にかけてくれる人がいるのは純粋に喜ばしことだと思った。


「心配をお掛けして。」

「いいのだ。私が勝手にな。」

「サンフェルノ殿は仕事ですか?」

「うむ、南方の戦線についてな。」

「イェニチェリ帝国と神聖ロマネスク帝国が国境線近くの町を巡って領有権争いをしていてな。」

「それは不味いですね。」


リュディニア王国にはそれぞれイェニチェリ帝国と神聖ロマネスク帝国の息のかかった諸侯がいる。戦争になれば参戦しようと主張し始めるだろう。表向きは神聖ロマネスク帝国の諸侯のように外交権はないが、実態はつながりがある。


「うむ、全面衝突となればリュディニア王国にも影響があるだろうな。」

「戦争にならなければいいのですが。」

「変わったな。ケインは。」


そう言うとケインは苦笑いをした。


「昔は血気盛んだっのにな。」


サンフェルノは笑みをこぼした。


「若かったですから。」

「嫁とは上手くいってるか?」

「女王陛下と同じことを言いますね。」

「みんな心配していたのだよ。」

「喜んでいた奴もいましたけどね。」

「生きてる上ではあることだよ。」


サンフェルノと話していると気分が安らぐ。強き者の風格があった。ただ威圧感のあるだけの者にはない雅さがある。昔からケインはそんなサンフェルノを尊敬していた。


「では、わしはもう行くとするかの。」

「サンフェルノ殿。お元気で。」

「うむ。ケインは家族と職場を守れ。」

「はい。そのために今を生きてますから。」


ケインはハルの待つ宿へ、サンフェルノは宮殿へと向かった。


久しぶりの王都はさほど変わってはない。懐かしの町並みに悲しくもあり、安心感もある。

宿に到着し中に入った。

とりあえずハルに戻ったことを伝えにハルの部屋へと向かった。ハルの部屋は宿の二階一番奥にある。ちなみに隣の部屋がケインの部屋である。

こんこん。

ケインがドアを叩く。


「ハル、今戻った。」


そう言いながらドアを開けた。


「ちょっと待ってくだ」

「…」

「…」

「待てって言っただろうが!」


とびひざけりを食らった。

そのままケインは仰向けに倒れた。お約束である。


「だから悪かったって。」

「信じられません。着替え中の部屋に無断で入ってくるなんて。」

「わざとじゃないから許してくれ。」

「たく、局長。用は済んだんですか?」


ハルはじと目でケインを睨んだ。


「ああ、もう王都に用はない。帰るぞ。」

「わかりました。一時間後にロビーに集合しましょう。」

「わかった。」


ケインは自室に入り、帰り仕度を始めた。

まぁ、帰り仕度といっても宮殿に行ったくらいしかしてないので荷物はカバンの中であった。

仕度を終えるとまだ約束の時間まであるのでベッドに寝転んだ。

しばらく横になって時間がたったのでロビーへと向かった。ロビーへ行くとハルが既に来ていた。


「珍しいですね。時間通りに来るなんて。」

「俺はちゃんとした社会人だからな。」

「本音は?」

「もう早く帰って娘に頬擦りしたい。」

「きもいですね。」


ハルは素で引いている。

この娘に対する深い愛情は未婚者には理解出来ないだろう。


「しゃあ、行くか。」

「はい。」


二人は王都の外で待機している竜騎兵のところに行き、ニューアースまで送ってもらった。



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