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無限迷宮の管理人  作者: マジコ
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プロローグ

リュディニア王国は王国存亡の危機に陥っていた。

北方の遊牧国家アッティラ帝国に侵攻されていたのである。

精強な騎馬隊を主力としたアッティラ帝国軍は王都に向けて進軍していた。

北部の町の住民は震撼していた。彼らアッティラ帝国軍が通過した町には何も残らないと言われていた。略奪の限りを尽くすのである。金目の物はひとつも残らず持って行き、人間は奴隷として連れ去る。このアッティラ帝国に隣接する国、町は不安で恐怖していた。


そのアッティラ帝国軍の騎馬が、リュディニア王国の北部に攻め込んできたのである。リュディニア王国は直ちに東南西の諸侯、騎士団に軍の召集をかけた。しかし、アッティラ帝国軍はリュディニア王国の本隊が到着する前に北面騎士団の領地に突入してしまう。北部の諸侯を結集してもアッティラ帝国軍には勝てない。予想されるアッティラ帝国軍数に到底およばないのである。そこで王都が考えたのは、騎士団、諸侯に時間稼ぎをさせることであった。すぐに早馬で北部の諸侯、北面騎士団に命令を送った。この命令に諸侯は城に閉じ籠り、周辺の村や町を見捨てたのである。周辺の村、町の住民は城に逃げ込もうとしたが、食糧に限りがあるとして城に入れなかった。市民は恐怖した。王国から自分たちは見捨てられたのだと思った。


そんな中、諸侯たちと違う行動した人々がいた。北面騎士団である。彼らは諸侯と違い王に直接仕える軍隊で、王家の直轄領を賜り、領地を経営しながら諸侯たちへの軍事的な意味での抑えとして機能していた。


そんな彼らは城に籠るのではなく、打って出て野戦で時間を稼ごうというのである。


団長のケイン・マッカツィオは会議に参加している魔法騎士たちに語った。


「今回の作戦は我々だけで行う。みんなの命を俺に預けてくれ。」

「団長我々は団長に仕えるようになってからいつでも団長に命を預けています。」


他の騎士たちも頷いていた。


騎士団に入ることはリュディニア王国の人間としては最高の名誉の一つである。


騎士団に入るにはまず精霊と契約し、魔法の修行し強力な魔法を会得しなくてはいけない。そして、国家試験としての実技と学科を通過して初めて入団できるのである。


そんな厳しい修行と試験を通過してきた彼らは王直属の騎士として高い誇りを持っていた。そんな彼らに逃げの一手は考えられないのである。


「団長。我々は入団した時から、王に忠誠を誓っています。ですから王に任命された団長と運命を共にするのは当然です。」

「そうか。今回の作戦は成功すれば、大きな戦功を上げられるだろう。」

「はい!敵の首級を上げて見せます。」


部下の団員たちの強固な意志をケインは感じた。今のこいつらの士気があれば作戦の成功する可能性は高くなるだろう。危険を顧みない勇気がこの作戦には必要なのである。


ケインは魔法騎士たちに今回の作戦について説明した。内容は設営している敵主力部隊への夜襲である。アッティラ帝国には魔法使いがほとんどいない。魔法の力をよく知らず侮っているのである。なので、水魔法のウォーターベールを使い、軍勢の姿を消す。敵軍の近くまで接近し、一気に攻めかかろうという作戦である。さらに北面騎士団は城に籠るとの嘘の情報を流しておいた。魔法使い蔑み、リュディニア王国を侮っているアッティラ帝国の驕りを衝くのである。会議が終わるとケインはいつでも出陣できるように準備せよと指示した。


会議が散会するとケインと契約している精霊リーネが部屋に入ってきた。

「どうしたリーネ。餌の時間はまだだぞ。」

「えー。お腹すいたよ。」

「仕方ない後でおやつをあげよう。」

「わーい。てっ、じゃなくて」


リーネのノリノリのノリツッコミにケインは頬がほころんだ。これから死地に赴くのにリーネの顔を見たら少しリラックスできた。少年の時に出会って以来、苦楽を共にしてきた最高のパートナーとケインは一方的に思っている。リーネの方がケインのことをどう思っているかは知らない。ケインは興味なかった。ただ、共に戦ってくれているだけで十分だった。


「じゃあ、なにしに来たんだ?」

「アルとドレイクがまた喧嘩してるわ。」


またかとケインは思った。血気盛んなアルと冷酷とも思えるドレイクは馬が合わなかった。二人はケインの従者だった。


従者とは魔法騎士と共に戦ったりサポートするのが役割の者のことを言う。基本的に魔法騎士一人にだいたい二、三人である。魔法騎士、従者、精霊で一騎と数える。でも、ケインには従者が五人いる。そのうちの二人がアルとドレイクであった。


「アンドレはどうした従者のリーダーで最古参なんだからあいつに仲裁させろ。」

「アンドレは仲がよくて微笑ましいと言って、温かい目で見てるわ。」

「あのおっさんはたく。レコンキスはどうしてる?」

「彼は呆れて部屋に戻ったわ。」

「じゃあ、ほっとけ。」

「でも、他の魔法騎士の従者たちが賭けを始めたわ。」


賭けを始めたという話しを聞いて、これは団長としてほっとくわけにはいかない。騎士団では作戦や出陣待機中の賭博は禁止している。風紀の乱れを防ぐためである。その話しを聞いた以上、対応しなくてはいけない。


「わかった。行くぞ。」

「はーい。」


ケインはため息をついていた。リーネは楽しそうである。

リーネを引き連れてアルとドレイクが喧嘩している広場に行った。この広場は普段、兵士たちがのびのび過ごす所である。また、戦の時には待機場所にもなる。そんなところで白昼堂々アルとドレイクは喧嘩していた。周りには野次馬が声援を送っていた。


「だからなんで突撃しちゃいけないの!ケインのために突破しようとしているだけじゃない。」

「お前は本当にバカだな。そんなことしたら敵に囲まれるだけだろ。お前なんかに露払い役はできない。俺がやる。」


その話しを聞いてなるほどなとケインは思った。ただ単に先鋒の座を争っているのだ。ケインはため息した。リーネは楽しそうである。


「止めなくていいの?」


リーネはニヤニヤしている。

いつもの事であるからケインはめんどくさそうにしていた。


「口ばっかじゃなくて拳で闘え!」

「ほらほらアルもっと上手いこと言わないと負けるぞ。」

「おいおい。ドレイクお前に金賭けているんだから負けるなよ。」


野次馬が大騒ぎであった。

団長が来ているのに誰も解散しようとしない。仕方ないので、ケインは腹から声を出した。


「お前らいい加減にしろ!今、戦闘準備の時だ!暇なら出陣の準備していろ!」


この大声に大騒ぎしていた兵士たちは慌てて解散した。巣をつつかれた蜂のような騒ぎになった。誰だって団長の心証は悪くしたくない。というよりも罰を受けたくない。棒叩きの刑となったら数日傷が痛んで呻くことになる。そんな目には遭いたくない兵士たちはさっさと退散した。


残ったアルとドレイクは睨みあっている。

この二人は戦いの考え方がちがうのだ。アルはとにかく前線で奮戦(無謀な突撃とも言う)することこそが、魔法騎士を守り、戦いに勝利することに繋がると考えている。それに対して、ドレイクは綿密な作戦を建て、犠牲者の数も考えた上で慎重に作戦を遂行する。思想が根本的にちがうので、この二人はよく喧嘩をする。ケインがいつも裁定を下す。

今日もである。


「二人とも今日から便所掃除な。」

「なんでよ。」

「ケイン俺達は戦い方について議論していただけだ。」


二人して言い訳を始めた。これもいつもの事である。罰として便所掃除するのもいつもの事である。二人は臭い便所を掃除するのを心底嫌がっていた。便器を磨く時のあの悪臭はなれない。

アルとドレイクは納得いかず、ビービーギャーギャー騒いでいるのをケインは無視した。部下が神妙な顔でやって来たのだ。


「どうした?」

「偵察隊が戻って参りました。」

「わかった。すぐに行く。おい、リーネ。」

「なにかな?デートは戦が終わってからね。」

「この二人の便所掃除を見張っといてくれ。」

「はーい。」


ジョークをスルーされてつまらなそうなリーネと後悔し始めたアルとドレイクを広場に残して、会議室へとケインは向かった。


ケインが会議室に入ると既に将校たちが勢揃いしていた。ケインが自分の席に座る。それから他の将校たちも座席に着いた。


「偵察隊の報告を。」


厳しい顔でケインは偵察隊に報告するように命令した。


「はっ!まず、アッティラ軍ですが、現在、三つに別れて進軍しております。そのうち我が北面騎士団の領地を目指している部隊は数千の騎馬隊と歩兵です。主力部隊と思われます。」

「思ったよりも数は少ないな。」


一人の将校がつぶやいた。それでも北面騎士団の方が、数が少ない。魔法騎士、従者、精霊をあわせても二千人程度である。

それに他の将校が言った。


「おそらく、他の国とも戦争をしているからでしょう。奴等はすきあらば略奪を繰り返す強盗だからな。リュディニアを攻めるならこれくらいで良いだろうと思われたのでしょうな。」

「今回、リュディニア王国に侵攻したのはアッティラ帝国のかでも精強で有名なジュンガール族だろう。奴等は貪欲に荒らし回りますからなぁ。領土獲得というよりも、リュディニア王国を軍事的にも経済的にも追い込んで服属させるのが主な目的でしょう。」

「くそ、侮りやがって。」

「しかし、屈辱だが、侮られている点に我らの勝機はある。」


ケインは立ち上がる。舐められる方が、夜襲するには都合がよかった。

将校たちは頷いていた。


「作戦を三時間後に開始する。解散!」


将校たちは散会して自分たちの部隊へと向かった。


全軍の準備が整うとケインは北面騎士団を率いて出陣した。

魔法騎士とその従者、そして精霊。壮観であった。その光景に城の住民たちは勇気付けられた。空は曇天で雨が降りそうな天気だった。


出陣してしばらく行軍を進め、アッティラ軍に近付いたところで、一旦軍勢を止めた。

そこで水魔法のウォーターヴェールを使い軍勢が見えないようにした。これによって敵の目から隠れることができた。

再び進軍を開始した北面騎士団はいよいよアッティラ軍の目の前に来た。


「よし、合図をしたら精霊の付加を受けて一斉に突撃だ!」


北面騎士団の面々は息を呑んだ。緊張の瞬間である。数で負ける自分たちは勝てるだろうかと考えていた。でも、逃げる気はなかった。祖国のために命を賭けるそれに変わりはない。名を上げる絶好の機会でもある。北面騎士団に我ありと国内外に発信できるチャンスでもあった。


ケインは腹から声を出した。


「全軍突撃!」

「おおお!」


ケインの合図と共に精霊たちが自分の契約している魔法騎士の従者たちに付加魔法をかけた。


「おら、あんたたち暴れてきな。」


ケインと契約しているリーネも威勢よくケインの従者たちに付加魔法をかけた。リーネの属性(精霊はいくつかの属性に分かれている。)は光である。ドレイク、レコンキス、アンドレ、アルの武器は光輝いていた。武器の切れ味があがり、バリアを貫ける。また、光ということで素早さも上がった。ミシェルは魔道具を使い魔法騎士であるケインの援護に回った。


突如現れたリュディニア軍にアッティラ軍は大混乱に陥っていた。休んで酒を飲んだりして宴会を開いていた兵士たちは態勢を建て直すこともできずに殺されていった。あまりにも圧倒するので次第に北面騎士団の団員たちは手柄を立てることに夢中になり始めていた。


ケインはこれは勝てると踏んだ。そして、自らも光魔法を駆使して戦った。


どんどん奥に北面騎士団は殺到した。

そして、アッティラ軍の指揮官たちは馬で逃げて行った。残された兵も逃げ出した。


北面騎士団はこの圧勝に気をよくした。中にはこのままアッティラ帝国に侵攻しましょうと言う者も出てきたくらいである。しかし、さすがに団長であるケインが深追いを戒めたのである。


その後、アッティラ軍は主力部隊が総崩れとなったので、これ以上の戦いは無駄だと判断し、他の方面に侵攻していた部隊も引き揚げた。リュディニア王国はアッティラ帝国に勝ったのである。もちろん、リュディニアの民も王も大臣も諸侯も誰の指揮の許でこの勝利が勝ち取れたかわかっている。


北面騎士団には報酬と勲章が渡された。団長のケインには貴族の階級が賜れ、土地も賜ることになった。

だが、ケインは貴族の階級も土地もいらないとした。権力を持つことは自由を失うことでもあった。それがケインには嫌なことであった。


「女王陛下、貴族の地位や個人的な領地は必要ありません。ただ、我々北面騎士団の今の地位を維持させてください。そうしていただければ更なる活躍して見せます。私は武人なのです。」

「わかった。そうしよう。ただ、あなたが困った時は助ける。その時は私の言うことに従いなさい。そうしないと今回の戦功に報いることはできません。」

「ありがたき幸せ。その時はお願いします。」


結局、他の北面騎士団と同じ報酬と勲章を得た。その欲のなさを官僚や諸侯は面白いやつだなと言われた。

「欲はあるさ」

と呟きながら北面騎士団の領地へと帰っていった。


そこで目を覚ました。

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