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『参』

まわる闇と踊った少年の言葉の群れは、ついに終着点へとたどり着きます。それではどうぞ・・・。

参 この世はフィクション!


 

 これもいつかのお話。

 僕の世界は変わった。けれどもし僕が自分のことを斜め上後方から眺めることが出来たなら、そこから眺める僕はいつもの僕だった。椅子に座って小さく背中の丸まった男の子がいた。彼はその目に何を写しているのだろうか。

  

 空間のどこかに灰色の動物が一匹いた。それは酷く解りづらいけれど確かに生きていた。こんなんでいいのか良くわからないけど、僕は生きてる。誰かに存在を示すことをあきらめたその心臓の鼓動は、だけど一つしかない場所にどうしようもなく、仕方なく、鳴っていた。君はこう言っていたのか?誰かに思いを伝える為の言葉を思いを隠すための言葉を内に篭らせたまま響かせる。自分だけに聞かせるように放つ。彼は自分を苛め抜く。

 毎朝決まった時間に無理やり起きること、冷気に身を震わせながら息を上げて通学路を走ること、心からどうでもいいと思っている勉強によって一日の大半を潰し、休み時間には心底つまらなくやはりどうでもいい話題を喋って、そして一日が過ぎていくこと。そんなのはもう嫌だ。あまりにも、縛られすぎた日常だった。明日もあさってもその時間に僕がどこで何をしているのかはっきりとわかってしまう。そんなことはもううんざりだった。疲れてしまった。だって僕が心を許せる人間はもう世界のどこを探したっていないんだ。そういう気がしてならなかった。

 これほどまでに雁字搦めに無茶苦茶に絡まりながら「わからなく」なったことは初めてだ。もう何も考えることが出来ない。答えが、ほんのちょびっとのしるしも見当たらず、これは完全な暗闇。五感の全てが断たれて、残るは心のみ。何の外壁も武器も持たない今、心を強く保たないと折れる。もうわけがわからない。思考が停止状態。どうすれば?どうすればいい。じわっとした焦りを遠くで感じる。その大事な感覚すらも薄れゆく。なくなっていくことにも何も感じない。誰の言葉も僕に触れることすら出来ない。例えば好きだったミュージシャンとか小説家とか漫画家とかそういう人間たちがまあいろいろとのたまっているわけです。ああどいつもこいつも好き勝手いってやがるなあと、きっと彼らだって僕とそう変わりはしない、人間の行動は全て自己満足のためにあるのだからとそう吐き捨てる。疲れているのだろうか。

 学校の教室で自分の席に座ったまま俯いていると入り組んだ広大な迷路が僕を取り囲んでいるような気持ちになる。僕が心休まる場所はどこにもない。どうしてだろうか。己の非力さを悔いては、なぜか周りを呪う。自分は、もしかしたらとんでもない馬鹿なのかもしれない。今まで、自分は馬鹿じゃないとそう思っていた。だからこそ、もしかしたらこんなに永い間その事実に気付けずにいた僕は世界規模の馬鹿なのやもしれぬ。

 優しい、ということは悲しい。どうしようもないくらいに悲しくて、だからこそ優しい。悲しくて痛くて辛いからもう二度と出遭いたくなくてそれで人は優しくなってしまうんだ。そういう優しさしか、僕は知らない。そういう優しさでしか僕を知れない自分が嫌になって、ああそうだ、僕はいつものようにこう呟く。

「死にたいよ。」

 ぶたれる痛さとか、辛く当られた人間の絶望とか、何か靄がかるような不安が自分の周囲をとりまいた時の理不尽な悲しみや怒りとか、笑ってない人が感じている心の泣き叫びとか、笑っている顔が砕けたときの圧迫とか、ただ僕らの心を傷つけるだけの本当は一つだって知り得なくてよかったそれらを、僕は鮮血とともに心の蔵に刻みつけられた。もうどうしようもなく怖かったそれだけだった。負の感情に慣れるなんてことはいつになってみても有り得ることは無くただそれに耐えること、弱さの部分が零れ落ちそうになるのを必死に耐えることだけが使い古され「うん、いつも通りだな。」と言うかのように慣れていった。悲しい。悲しい。(ぽたり)悲しい。悲しい。(ぱたり)悲しい悲しい(だから)・・・優しくならなくちゃ。

 うふふ・・・。だから?

 だから。

 だから。

 だから。

 僕は馬鹿なんだなぁ。

 知ってるかい?名前も知らない誰か。僕とおんなじこの世界に存在するその人。閉じた世界に内在されている余りにも同じ苦しみや降伏に良く似た幸福を縛りつけられいつの間にか一人分空間を失くして生れ落ちたあなた、人間よ。

僕らは何か縋るものが無いと生きて行けないんだよ。進めない。ずり落とされる。僕が特に何の事も知る必要のないあなたは、知っているかな、その感情を。何かに引きずられて、否きっと自分さ、それに引きずられて知らないところへ落とされてゆくときの、嗚呼、僕らはいつだってつき落とされそれでも目を見張って未知なる次の舞台へと向かってきたはずなのに、そうですよねぇ?違うんですよ、そうじゃなくて、ねえ、僕が死んで欲しいとたまに願ってしまった君、そのときの、「僕ら」のその感情を。

 知ってる無いはずのそれを。

 知っているかい?一人の誰かが今「さらば」とそう言おうとしている。あるべきに貰い受けるべきだった未来やら何やらをついに全力で投げ捨て千切れた腕で、世界の全てとを断ち切ったあのときの黒を見つめながら、僕はやっとたどり着くよ。未来で刻まれてゆくだろうはずだった僕の歩く道は世界の運命から外れ姿を消し、それでもこれだけはあったはずの過去の足跡さえまで木っ端微塵に吹き飛ばして、それは、おそらく誰でもなく僕だから、やれること。なんだ、こんなところにあったじゃないか・・・・・・僕の存在意義。

別にここで大笑いしてもいいのかもしれない。こうやって。あの、でも僕は知っているんです、そんなちっぽけな存在価値なんて、やっとこさ自分で捻り出しただけのモンだって。それが真実として大正解なものなのかどうか、僕は疑問することすら疲れてしまったよ。

だから、こそなんだろうな。

 僕が愛したかった、心から愛することを願った君らへ。

                   僕の世界のほうで小さな静寂があった。

                   しかしもうそろそろ僕のとってその言葉の意味は融解し消滅を始めていた。

 もし僕が自分のことを斜め上後方から眺めることが出来たなら、小さく背中の丸まった男の子がいただろう。彼はその目に何を写しているのだろうか。もうすぐここは見れなくなる。わずかばかりの優しい感情の漂いも感じることは無くなる。いや、いいんだ。僕が向かう場所でどんなにがんばってみても自分を好きになれずに泣いたとしたら、孤独に耐え切れず叫んだとしたら、思い出すことにしよう。暗い暗い自分そっくりの重圧の中でもし息をすることを躊躇ってしまうことになったらこう思い出そう。だって、僕は捨ててなんかいないのだから。

「僕は生きて」その言葉を感じて空気が揺れ踊ってくれることはなかった。もう、声さえも。「いるから・・・。」

 心残りはあるはずがなかった。あっていいわけがない。ここは僕の居るべき、僕の生きることの出来る世界じゃない。様々な特異環境が僕を破壊に追いやることをやめないのだから。

                   たくさんの物体が飛び交っていた僕の世界が放すことをやめ静かになる。

                   何かが決裂し決定したように整列した。

                   ああ、でも最期にこういっておくよ。僕は追いやられたわけではない。

                   僕がどうすればいいのかではない。僕がどうしたいか。

                   僕の、心だ。










「いざ、さらば。」          いとしい。僕の―――・・・












 ■■■たしか、ぼくのすぐ傍に闇があった。ぼくが世界のどこかで存在を始めたころも、朝に目覚めたときや、数十時間か生きてみて疲れたので眠ろうと布団の中に逃げ込んだときも、あった。なぜだか、いつでも暗闇のずっと奥のほうから僕をよぶ声が響いてくる。ちなみに、僕はちゃんと解っている。生命は黒を恐れ、死を畏怖する。人間が抱く死の幻視とは、暗黒だ。つまり闇を怖がるのは我々が生きるのを拒まぬよう造られた強制的な死の幻想である。これはもう、間違いない。だからおそらく、僕がこの宇宙から存在を失くすときも、ある。

 それなのに、僕は。

 それなのに僕はなぜだかなぁ、その闇が、心地良い。■■■


 そして、僕はひきこもりになった。ぼろアパートの錆びついた階段を危険を知らせる線路の遮断機のような音を鳴らしながら踏締め、薄い扉を軋ませてその向こう側を見たなら、僕の生きる殆どがざらつきながらそこいらに落ち込んでいるしかく■い空間が見えるはずである。

 そこで影が言った。

 ■■■ひきこもりになった僕が部屋に入ると、おまえがいた。今まで気が付かなかった理由はなんとなく解ったのでさほど驚きや衝撃といった類の心地いい感覚は生まれなかった。あの日から、僕らの同居生活が始まった。■■■

 僕が言う。

 なあ、おまえにさあ、今更だけんど言っておきたいことがあるんよ。

 影が応えた。

 ■■■なんだい?相棒、いや同類さん。僕らは似てるってか?そりゃ今更だな。■■■

 影が笑う。

 ああ、そうだな。じゃなくてさあ――・・・





 人間が敗れて破れて幾つにもなり、今時間軸は現在に戻ってきた。

 綺麗な色をした幾つもの言葉を、一度に混ぜ合わせてみたら真っ黒になって固まったよ。

 今まで長らく語らってきた僕の役目ももうすぐ終わる。

 どちらがどちらかとか誰が誰でなんてことはもうどうでもいい。だって僕らは同じ。どっちがっどちでもあるし、誰が誰でもあるんだ、きっと。そういうどうでもいいお話。そんなのどうでもいいぜっていう御伽。僕らはそんな世界の主役。だって僕らは・・・

 ひきこもりだから。


 暗いダンスホールはいつまで経っても静寂のロックが劈く勢いが全力で響いて、壁を突き刺し貫き、ひび割れ尖ったたくさんの言葉が舞って、飲み込まれてゆく。


 ・・・―――お前がダメ人間なんだろ。

 ■■■うん、そうな。■■■

 踊り狂う影たちが笑った。















 終 つれづれなるままに・・・



 大丈夫。僕らは生きていればなんとかなります。世界がどんなに醜く見えたって自分が本当にダメに思えても、生きてればなんとかなる。


 あまりに辛すぎたら逃げてしまえばいい。社会の渦から逃げ出したって生きていれば。

 死ななければ。なんとかなるから。だから、大丈夫。これできっといい方向にころがっていくよ。

 そう思っていれば大丈夫です。


 長い人生。あなたも道中、お気をつけて。


 それではこれにて御免。




 




救いようがない。漫画でも小説でもお話はハッピーエンドが基本の僕にしてみれば随分、自分としてもなんとなく後味が悪い。

だから、こそなんだろうな。

この小説の生きる意味。

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