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魔術法陣の使い手 square art sorcerer  作者: 兎月 花
第一魔術法陣 私たちの役割
7/21

05. 魔術(ウィクラフ)を通して伝えたいこと


***


 十二歳の頃。昼過ぎの午後に近くの森へ入った。慣れ親しんだそこは大きな秘密の友達のようで歩き回るのがいつも好きだった。

 黄色い花や白い花がところどころに咲いていて、上を見れば木の葉の隙間から光がもれて幻想的。


 時折見かけるリスや鳥などの動物たちとは逃げられないような距離を保ってお話をしたこともある。話し終わるまでそこにいてくれた時などは本当に聞いてくれていたような気がして嬉しかったのを覚えている。


 天気が良かったその日もそうやって森を歩き回っていた。ただただ、その空気に触れていただけだった。


 その大切な居場所に踏み入ったのが奴らだった。


 どこからか急に現れ、いきなり見たこともない陣形を飛ばしてきた。光でできた複雑な円模様。眩しくて、でも紫や青のような不穏な色で、直感で悪いものだと分かるそれ。訳も分からないまま未來はそれを受ける。

 ……はずだった。



「危ないっ‼」


「……えっ?」



 ドン、と横から誰かが自分を押し飛ばす。驚きのまま振り返ればその人は自分の代わりにその謎の光を受けていた。

 呆然としたままこげ茶の髪色をしたお兄さんを見れば、何かを抜き取られているようだった。それをたどった先の敵を見ればお兄さんに杖を向けて、やはり何かを吸い取っている。


 一瞬のうちにそれが終わると敵は瞬きの間に消えた。


 未來は打った足を動かしてよろよろと立ち上がり、自分を助けてくれた人のもとへ駆け寄った。

 そのお兄さんはー……


***


 あの時の敵の目は怪しくて何かを射抜いたかのようだった。

 同じ組織だからか、今目の前にいるトケイもだんだんあの時の敵と同一人物のような気がしてきて恐怖と敵意がわいてくる。


 未來の様子に誰もが不穏な空気を感じ取った。

 想良は思わず少し離れた席に座るフレナを見た。フレナも同じことを感じたのか視界の端で想良を見返している。


 誰かが立ち上がった。



「落ち着け未來」



 天斗だ。肩に軽く手を置かれた未來はハッとしたように天斗を見て小さく何かを呟く。それに対して頷き返すと天斗は席に戻った。

 そういえば、二人は幼馴染だったか。

 加波はここぞとばかりに声をあげ、その場の空気を変えようと試みた。



「よくあることだ。何だかんだ彼も組織の中で動いている。過去に経験がある者はコイツに会っただけで我を失う奴もいるぐらいだ。今回はそれに対しての耐性をある程度つけてもらうこと、そして組織の中にもいろいろな人間がいることを知ってほしい」


「でも加波先生、先生たちの中ではそういうこと言う人誰もいないですよ? 敵と会ったら即動け、って先生が多いし……」



 確かにそうだ。律誠の言葉に頷く。


 あれ、でも……そうだとしたら、何かがおかしい。敵と会ったら即……



「なら何でお前たちは動かなかった?」



 そういうことに、なる。


 トケイが組織の者だと明確に分からなかったとしても自身の口から語られた時点で動けばいい話だ。想良のように朝、気配を感じた者もいなかった訳ではない。

 しかし全員が全員、警戒を強めただけで誰も何もしなかった。

 加波がいたのも一つの要因だがそれだけではない。


 実践力がまだ足りないのもそうだが決定的なのは自身の心だ。躊躇する心があるかどうかである。

 これは時に正しく、時に残酷な働きをする。今回は加波の知り合いという点から躊躇してよかった、むしろすべきだったのだが、もしこれが本当に幻力(イルシオンを奪う魔術法陣の使い手だった場合、躊躇したが最後犠牲が出る。


 どんな者であれ敵は敵、と即攻撃に移るのか、それとも敵の中にもトケイのように本当に悪い者がいるとは限らない、と保守的な考えで行動するのか。

 これはそれぞれが答えを見つけていかなければならない問題だろう。

 とても重要なことかもしれないが、今の自分には答えを出すことができない。でもこのままにしていると近いうちに苦しい結果を招くことになる予感は何となく感じる。


 この授業……いつか、大きな意味があるように思えるの……かな?



「僕が今日、君たちに伝えたかったのは一つだ。基礎をおろそかにしないこと、これだけ」



 シンとした教室の中でトケイの声だけがこだまする。それはどこか透き通っていて芯のある強い言葉。


 一体トケイは何者なのか、そんな疑問が頭の中をよぎる。敵のはずなのに説得力を感じ、どこか身近な存在に感じるのは加波の知り合いだからだろうか。



「特に基本魔術シクラフは頭に叩き込み、イメージとして浮かぶまで徹底的にやらなくてはだめだ。これができなければ魔術法陣は完成しないし不備がある状態になる。少しでも狂えばそれは誰も予想しない力になり得る。そのことを忘れてはいけない」


「彼は俺の友だが、研究者でもある。さしずめ科学者といったところだ」



 科学者……。


 加波の言葉に多くの者が納得した。

 先ほどから打って変わった厳しい態度。初めて出会ったときのチャラそうな印象が一気に消え、妙に説得力があったのは彼が学者であったからだ。


 そして彼は加波の友。今朝の気配がトケイのものだったとすれば、それが消えたのは加波と会ったからかもしれない。今ならそう、考えられる。現に本人の口から言われるまでは全然気がつかなかったのだから。


 トケイは自身の研究に対し、真剣に、目的をもって研究を進めそれを伝えてくれている。それらを踏まえ、彼は先ほどから話していたのだ。



「ちなみに専門は魔術ウィクラフだ。だから俺の授業で一回は呼ぶようにしている。専門家に教えてもらった方が詳しいことが分かるだろうし、敵の中にもトケイ君のようないろんな奴がいることを知ってもらえるからな」


「こっちは新しい生徒に会う度ヒヤヒヤもんだけどね~。一応僕、敵だし」



 やれやれと軽く首を振るトケイは科学者モードを解除する。首に下げられた古い時計が重そうに揺れた。

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