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魔術法陣の使い手 square art sorcerer  作者: 兎月 花
第一魔術法陣 私たちの役割
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04. 魔術(ウィクラフ)の時間




 その日の〝魔術ウィクラフ〟の時間。想良やフレナ、瑢と天斗はもちろん、その場にいた生徒全員が目を疑った。


 魔術ウィクラフというのは漢字の通り、魔術に関する授業だ。通常、魔術法陣を使うには模様を描くほかに魔術ウィクラフを唱える必要がある。魔術ウィクラフには〝基本魔術シクラフ〟と呼ばれる基礎があり高校一年生時ではこれについて学ぶが、高校二年生になると基本から少し応用のきいた魔術ウィクラフについての授業となる。


 詳しい話についてはまた次の機会に回すが、とにかくその授業の時間にあり得ないことが起きたのである。



「皆さん、初めまして~僕は トケイ と言いま~す! よろしく~!」


「「……………」」



 えーと……まず何でトケイ(=時計?)なんだろう…?


 軽く引き笑いを浮かべながら目をぱちくりする想良。一人挟んで向こう側にいる天斗もぽかんとした顔だ。最も、普段はクールな雰囲気を醸し出しているため傍から見ればそうでもないだろうが。


 トケイ、と名乗るその人は見た目からチャラチャラしてそうで、服が全体的に緩く長めなためだらしなさそうな印象を受ける。服や髪自体は綺麗なため、かろうじて不潔そうな印象は避けられるが変わり者なのは一目瞭然だろう。何のギャグかは分からないがご丁寧に首からは古そうな時計をぶら下げている。



「あ、言っとくけどこれ本名じゃないからね? 〝組織〟での通り名だからさ」



 トケイさんの弁解に一応納得。だが同時に緊張感が一気に放たれた。


 〝組織〟


 つまるところ、〝無の組織〟という通り名の派閥者ということになる。故に誰もが警戒を露わにしたのだ。


 派閥分けで言うとその名は『ゼロシステム』。

 この世界では魔術法陣の使い手に関して、二つの派閥が存在する。


 一つは想良たちのように養成学校で育てられることも多い、派閥の中で最も規模が大きい『ディフェッカー』。通り名は〝防衛完封隊<ボウエイカンプウタイ>〟、よく呼ばれる呼び方は〝守衛隊〟である。

 主な活動内容は人々の生活の質の向上……魔術法陣の力を使って暮らしを豊かにしていくこと、そして〝組織〟のように幻力(イルシオン)を奪おうとする者に対抗すること、の二つだ。最近は組織に対抗するための授業が活発になっているそうで、魔術法陣の授業にはどの先生も身が入っている。


 そして『ゼロシステム』。通り名は〝無の組織〟で、略して〝組織〟と呼ばれている。どこでどう活動しているかは不明だが幻力(イルシオン)を奪っていく者はこれに所属する者だと言ってもいい。トケイもこれに当てはまると言える。


 よく衝突する想良たち『ディフェッカー』と『ゼロシステム』。常に互いを警戒しあって過ごしてきている……はずなのだが。

 今目の前にいるトケイは何者だろうか。確かに本人は組織のメンバーだと言った。しかしこちらに対抗する気配がない。そもそも敵地ともいえる養成学校にやってくる理由が分からなかった。



「ふ~ん……なるほど、良い教育をしているね。組織と聞いただけで一気に警戒心が上がってる。でも今は警戒解いていいよ。そっち関係では僕、何もするつもりがないからね」



 ((じゃあ何しに来たんだ。))


 トケイはトン、と教卓に軽く手をついてクラス中を見回した。誰も警戒心を解いていないようだ。……内心でツッコミはしているけれど。

 それを受けてかトケイは懐から杖を取り出して木の棒のように軽く振った。



「ま、そもそも僕は魔術法陣の力が使えても、あの幻力(イルシオンを奪うなんていう高度な魔術法陣は使えないんだけどさ」



 ((ますます何しに来たんだよ。))


 アハハ、と軽く笑い飛ばすトケイに、座っているにも関わらず思わずずっこけそうになる。何とも能天気な人だ。



「先生―、今日は何の授業ですかー」



 おちゃらけ系の男子が手を挙げる。三班の 鈴木 律誠<スズキ リッセイ> だ。どこかあどけない顔立ちだが、それがかえってみんなの癒しとなりムードメーカーの一人となっている。

 ちなみに瑢も少し幼さがある顔立ちだからか密かなムードメーカーだ。最も本人はコミュニケーションが苦手なタイプのため目立つことはせず、周りも遠巻きに見るだけだが。



「もちろん、〝魔術ウィクラフ〟の授業だぞ。ちゃんとケ……いや、トケイ君の話を聞くように」


「……今先生なんて言ったんすか?」


「な、何も言ってないぞ⁉ そんなまさかこの俺が人の秘密を、ましてや本名などしゃべ……いや……」



 ((先生、結局喋ってるじゃん))



「さぁて、授業授業!」



 あからさまに話題を避けている魔術ウィクラフ科の先生。これでも一応想良たちの担任教師なため色々と心配になる。

 カバのような顔をしていてのほほんとした温和な先生だが、一部の噂によれば怒ると相当怖いらしい。それこそカバが凶暴さを露わにした時のようだとか。


 そんな教師、 加波 大輔<カバ ダイスケ> は今、トケイに呆れたような視線を向けられていた。



「しっかりしろよカバっちー……相変わらずその正直にペラペラ喋るところは変わらないねー」


「お前だってそのダボダボ服、昔からだろう」


「いや今それ関係ないでしょ」


「じゃあ俺の話も今は関係ないな」


「そりゃあそうでしょー」


「……そういうところも変わらない」


「知ってるよん。さて、と」



 話が終わったのかトケイが生徒らの方へと顔を向けた。心なしか目つきが鋭くなり、身が引き締まる。



「まず、諸君らは〝基本魔術シクラフ〟を使いこなせるようになるべきだ。はい、そこの君、説明」



 げ、あてられるの……⁉


 最初にあてられた人はかわいそうだが誰もがあたりたくないと思っただろう。一斉に顔をうつむける様子が教師側からは容易に見て取れた。

 加波は生徒に自信をつけさせねば、と密かに心に誓う。トケイも一斉に自身なさげの様子を突き付けられ「今どきの生徒らしいね……」と小さく呟いた。

 あてられた生徒は幸いか、魔術ウィクラフ科はそれなりの好成績を残している人物だ。基本魔術シクラフについての説明ならばスラスラと答えられるレベルである。



「え、えっと……主に赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の七種類の基本となる魔術、です」


「そう。では『精神作用の効果』を……二つ後ろの君」


「……〝ハートライト〟」


「そう。ではそれを〝術文ラフセン〟で表して。隣の人」


「は、はいっ!」



 自己紹介のときとは打って変わって淡々とした様子に誰もが軽い恐怖を覚えていた。答えはどれも正しいはずだがトケイの態度から本当に正しいのか分からなくなってくる。特に術文ラフセンとなるとなかなか厳しい。


 術文ラフセンは魔術法陣を描いた際に書かれる文字で、魔法陣の周囲に書かれる。この文字は特殊で、二十五文字覚えるのに少し苦労する。クラスの中では完全に覚えていない人も少なくない。

 そもそもこの術文ラフセンを教えられるのは一年生時のラスト三か月ぐらいの頃で、自主復習を行っていなければ忘れ去る英語のよう。実際想良も復習をして普段から書いていなければすぐに忘れる自信がある。


 そういえば、この文字は魔法を発動するときに実際書くことはないけど普段から書けるようにしなければいけない、って先生がいつだか言っていたような気がする。


 自分でもノートに書いてみながら想良は少し前の授業を思い出す。コツさえわかれば書きやすいがそれを知るまでには時間がかかった気もする。教えてもらった当初は何語なのかと思った。



「……えーと……」



 前の方から弱々しい声が聞こえ、顔を上げる。見ると困ったようにその場に立ちすくむ女子の姿が目に入った。

 どうやら術文ラフセンの一部を思い出せないらしく、チョークを片手に固まってしまっている。〝ハートライト〟はアルファベットで表すと〝heart,light〟。これを〝術文語ラフセージ対応表〟に当てはめて書いたとき、tの形が少々分かりにくいのだが女の子はそこにつまずいているらしい。tとfは形が似ている。曖昧のままに書かれたそれはもはや普通のアルファベットfだ。


「うん、違うね。君、名前は」


「 小坂 未來<コサカ ミライ> ……です。」



 厳しい目つきのままのトケイに怯え、未來は細々と答える。声が上ずり、ふと力を奪われそうになった時がフラッシュバックした。

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