17. 実力判定
さすがに建物の中では何があるか分からないため外のいつもの一角にやってくる。
放課後ということもあり使っている人がまばらにいるが、部活もあるためそこまで占領されるほどの人数ではない。人の目が少ない分気にせずやれるのは運が良かったか。
優貴は天斗と、倖貴はフレナと対峙するように立つ。夢芽と想良、瑢の三人は横の方で見学だ。
一体これから何をするのかと思えば軽く対戦をするらしい。大学生を相手に対戦は無謀だがもちろん手加減はしてくれるらしく、対戦という対戦でもないとのことだった。
「もう一度確認するけど、俺が見たいのは君たちの現在の実力だ。攻撃するつもりで魔法を使ってほしい。こちらは軽く繰り出すけど基本は受けるだけだから思う存分にやってくれればいい」
「はい」
さすがにいざ、となるとテンも緊張するらしく、二人とも真剣な顔で杖を握りしめている。
終了のタイミング等は夢芽さんが出すことになり、準備が整ったところを見計らって腰を上げた。
「両者構えて。……始め!」
フレナが円を描く。あれは段階四の魔術法陣、フレナの得意分野から考えると〝ハートライト・光線〟か。
「〝ハートライト・閃光〟!」
違う、新しい魔法……!
今の実力は得意分野の威力でも図ることは可能。だがどれだけ複雑な段階の魔法を、そして種類を使うことができるのか、それを知るためにはギリギリできるかどうかの魔法を見せるのが一番手っ取り早い。フレナの新しい魔法はそれ故か。なんだかんだ緊張はしていたようだが自然体で臨むことはできているようで少し安心する。
光線ではなく眩い光が辺りに放たれた。その威力は強く、目を開けていられない。閉じていても明るさが分かるほどで太陽を見ているかのようだ。
その光は収まりを見せず、力を使い続けていることが分かる。でもそれもいつまでもつか分からない。
魔術法陣を使う際は自身の中にある幻力を使って魔法陣を描き現象を起こすものだが、使うのはそれだけではないのだ。その他に体力、知力、そして精神力がなければ高度な魔法は使えないとされている。
「ソラ、大丈夫か?」
「え?」
ふと横から声がかかり、同時に眩しさが消える。フレナの体力がもう限界になったのだろうか。それにしては早い気がするけれど……。
目を開けて驚いた。光はまだ発している。フレナの姿が見えないほど白い光が一面を覆っており、今自分が目を開けてこの現象を前にしているのが不思議なくらいだ。いや、実際それはあり得ない。
何が起こったのか。瑢の方を見れば視線でさらに横を示される。見れば夢芽さんが杖を手にしていた。この状況をあらかじめ予想していたのか、水壁をつくったようだ。
あまりにも波立たない水の壁に何もないように思えたが、よく見ると薄く自分たちの前にそれはある。心なしか夢芽さんの顔は苦しそうでもあり嬉しそうでもあった。
「……そろそろ何とかしてもらわないと、こっちも持たないんだけど」
ポツリと夢芽さんが呟いたその時、「〝クリーウォール〟」という一言と共に水がまき散らされ光も消えた。
「う、うそ……っ」
フレナが驚きの声をあげる。想良も瑢もその事実に驚き目を見開いた。
光を消しただけではない、倖貴はフレナよりも一段階下の魔術法陣を使って消したのだ。要するにフレナの段階四の魔法は倖貴の段階三の魔法に劣るということ、逆に倖貴の力はそれほどのものだということを示されたのである。
精神面に影響を及ぼす作戦の一つともいえる。魔術法陣を使う際は幻力、体力、知力、精神力の四つの力が必須となる。幻力がなければ魔術法陣は描くことができないが、その他の三つについてもバランスがとれていなければ威力そのものは弱まってしまうと一年生のときに想良たちは習った。だから体力をつけ、勉強もし、そして友だちと関わることで精神力も養っていたのだ。もちろんこれは学校側が意図していたからではなく、想良たちも当たり前としてしてきたことだからどうということはない。こうした普通のことができてこそ力は使える。
「うん、悪くない。光の強さもなかなかだけど……まだいけるよね?」
「……っ、はい…!」
「胡沢君もそろそろ向かってきたらどうかな? 咲森さんの方を見学したい気持ちも分かるんだけど」
「あ、はい、すみません……いきます」
思わずフレナの方を全員で注目してしまったが、天斗の方も本来は同時進行。想良と瑢はそろってそちらの方にも目を向けた。
テンは、どういくんだろう。
「〝クリーウォール〟!」
段階二、基本魔術のみでの発動。
七つあるうちの青色、清浄効果『浄化』。
力は水、先ほどの倖貴と同じ効果であり同じ水を出す。やはり二年の差は大きく、天斗の威力は倖貴よりも弱い。だがそれでも同じ高校二年生で考えれば大きく、それなりに力を持っていることは知れる。
「〝クリーレクト〟」
「〝ミステレクト〟」
「〝クリーヒート〟」
「〝ミステレクト〟」
段階三、異なる基本魔術二つの組み合わせで発動。
〝クリーレクト〟は水と電気、〝クリーヒート〟は水と熱だ。もちろん組み合わせによってその現象は変わってくるのだが、相手をする優貴は余裕の表情で素早く魔法陣を描き攻撃をいなしている。それも倖貴と同様基本魔術のみでの発動だ。
基本魔術のみでの発動は最も基本となる段階の魔術法陣のため描く魔法陣も最も簡単なものとなる。それ故に威力や現象は単純なものの素早く発動することが可能となる。決して甘く見ていい魔法陣ではない。天斗はそのことをこのやり取りで早くも学び取っていた。
「さすが優貴さんだなぁ……全部天斗の攻撃基本魔術だけで受けてるよ」
「うん……それに描くのがすごく速い……」
見学している瑢と想良が思わずそう呟くと一緒に見ていた夢芽が「そうね」と答える。相変わらずクールビューティーでニコリともしないが倖貴のように面倒見が良さそうなところは瑢も想良もなんとなく分かっていた。
「何度も描いていれば自然と速くなるわ。なんならコツもある訳だし、合宿の時に優貴さんに聞いてみなさい」
「は、はい…!」
思わぬアドバイスに杖を握りしめて答える。瑢は妙にワクワクした目で返事をする。
なんだかんだこの学園に通う者は魔法、魔術法陣を使えるようになるために通っている。それが使えるようになることは嬉しいこと他ない。
「〝ライフウォール〟!」
「〝大波〟!」
今度はフレナと天斗が同時に魔法を展開した。
フレナはこの間瑢と対戦した際に披露した複合技、段階三の火と水。
天斗も想良と対戦した際に披露した魔術のみ、段階五の水。
「へぇ……!」
「なるほど、ここまで……」
それぞれの相手をしている倖貴と優貴も感嘆の声をあげる。
フレナの魔法は同年代で考えるとそう多くない自分の得意効果外のみで構成された魔法。
天斗の魔法はこの時期に獲得したばかりのもので安定性を求められる魔法。
先ほどまでは初歩的なものばかりだったため急に本気を出す二人のやり方も衝撃が大きく、余計に優秀な使い手のように思わせられる。実際想良たち四人は比較的優秀な方で、コツさえつかめば魔法の上達は早い。合宿で学ぶことでさらに磨きがかかることが夢芽たち三人には分かった。
「じゃあここは、せっかくだし……」
「特別に披露してあげようか」
倖貴さんと優貴さんが同時に杖を構え、それぞれ二人に向ける。その先では何も描かれず、得意効果の色である紫と青の幻力が集まるだけ。
想良と瑢はポカンとそれを見るだけで、隣の夢芽はそんな二人の様子に内心で笑みを浮かべる。
魔法を展開した側のフレナと天斗は自分たちの魔法により相手の様子がよく見えていない。しかしその場の雰囲気からして何かがいつもと違うことを察していた。攻撃はされない、とは言われたもののつい体が反応し防御としてどのような力を使うか瞬時に考える。
そしてそれは、急に現れた。
杖の先から出ていた幻力が急に光を強め、それが瞬時に見慣れた円の形になる。
「ま、魔術法陣…⁉」
「ウソだろ、だって今描いてなんて…!」
想良と瑢が驚きの声をあげるとフレナと天斗も気づいたのか、目を見開いた。夢芽は四人の反応を見て満足げに頷き「目にしたのは初めてのようね。披露はここまでかしら」とスカートの上に被せている布、アクセサリーから再び杖を取り出す。
いきなり先端に現れた魔術法陣は既に描き終わっており、そのまま発動する。その円の模様は想良たちがまだ見たことのないもので何が起きるのか予測もつかない。
発動した瞬間、突如フレナが出した火と水が消え、倖貴自身が宙に浮いた。大波は急に形を変え、倖貴と優貴の二人を囲むようにクルクルと周囲を回り、杖が軽く波に触れたとたん気化していく。同時に倖貴は地面に降り立ち二人は並んで立つ。
何という魔法なのか、どのような仕組みなのか、四人にはさっぱり見当がつかなかった。ただただ呆然と圧倒的な力に押されるままだ。それと同時に、何度か実戦をする機会はあったがそれはあくまでも下っ端の下だと確認されてから臨まされていたということに気づかされ、なんとなくやるせない気持ちが襲う。
「そこまで!」
夢芽さんが杖を上げ、終了の合図を出す。緊張感のあった空気が弱まり、思ったことが口をついて出ていく。フレナは杖を下ろしてこちらに戻ってくる。
「大学生になってこれほどの力なのか……この間とかの実戦相手、俺たちで倒せるなんてめちゃくちゃ弱い奴だったのかよ」
「まさか魔術法陣、描かなくても出せるなんて……」
「ソラー! やっぱりすごいよ倖貴さん達ー! 何やっても基本魔術だけで返してくるしさぁー!」
「優貴さん、ありがとうございました。さっきの急に出てくる魔法って俺たちにもできるようになりますか?」
天斗の言葉にフレナの相手をしつつ耳を傾ける。確かにあの魔法は今まで見たことも習ったこともないものだった。どうしたらできるのか、できるようになるものなのか、想良も知りたかった。
「うん、訓練次第で可能になるよ」
やった!
練習さえすれば自分にもできる、そのことが分かっただけでますますやる気が出てくる。もっともっと頑張らなくては。
「本当ですか…! ではその方法を教えていただくことは…?」
「もちろん、構わないよ」
笑顔で了承してくれる優貴さん。本当にいい先輩が担当になったと思う。これから教えてもらう新しい方法の魔法、それを知ることができる喜びはとてつもない。