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魔術法陣の使い手 square art sorcerer  作者: 兎月 花
第一魔術法陣 私たちの役割
17/21

15. 顔合わせ

 翌日の放課後、無事に追試を終えた瑢と共に四人は合宿で担当になった先輩を捜しに集まった。



「それにしても本当に基本魔術シクラフのおさらいだけだったとはね」



 ふと思い出し呟くと瑢もこくりと頷き返してくれる。



「マジな。やっぱりさすが天斗だよ。けど他の英語の復習した意味ねぇ~」


「しばらく授業では困らないから無駄ではないよ」



 苦笑する天斗は昨晩ずっと瑢の勉強についていたらしい。その上本当に宣言通り朝はちゃんと起きたそうで、瑢は拍子抜けしたそうだ。寝る時間が遅くなってもその気になれば朝起きれることを知った瑢はしばらく起こすのをやめるつもりだそう。


 英語の追試は天斗の予想が見事的中し、基本魔術シクラフ七種類すべてを書け、というものだったらしい。ただしそれには制限時間が設けられており回答時間は三十秒しかなかったそうだ。頭にすぐ思い浮かべられていなければできない速度である。

 だから満点の答案用紙を持って教室に戻ってきた瑢を見た三人は驚いた。気だるそうに出ていった瑢が普通の表情でものの五分もしないうちに戻ってきたのだ。追試の日時を間違えたのかと思ったほどだ。



「大学の建物ってやっぱり新しいよね~」



 少し緊張しているのかドギマギした様子のフレナは入り口に立ち尽くし建物を見上げる。


 もともと私立高校として設立されていた羽根学園は国立になってから大学まで含めるようになったため大学の建物はすべて新たに建築されている。そのため外見からも高校の校舎と比べると一目瞭然だった。

 暗黙の了解で高校生は大学の建物に、大学生は高校の建物に入ることはほとんどなく行き来することもない。例外はあるものの互いに一線を引いているので正直中に入るには勇気がいる。


 大学だ、と思っただけで気圧されてしまうのは気持ちの問題だけではないだろう。年上の人が大勢いるのは当たり前だが、同時に想良たちにとっては自分よりかなりの実力を持った人がいることになる。そのオーラとでもいうのだろうか、それが嫌でも感じられる。


 とにかく先輩探しだ。ここで気に入られたらすごいことを教えてもらえるかもしれない。こんな考え方はあまり好きではないが強くなるには致し方ない。


 クラスについてはすでに女子から聞き込みをした想良とフレナの情報により判明している。


 どうやら朝川先輩という人は女子から人気がある先輩だそうで、イケメンの上に優しいとか。憧れの先輩という人が多く、サインまで用意している学園のアイドル的存在らしい。


 そこまで人気の優貴を想良とフレナは知らなかったのか。理由は簡単だ、単に二人ともその手の話に疎い上に興味もそこまで持たないからである。



「えーと、朝川先輩のクラスはどこだろ」



 大学の建物に入って適当に奥へと歩きながら周りをきょろきょろするフレナ。高校と違い大学は基本土足なため玄関というものが存在しない。そのいつもと違う感じに軽く違和感を覚えつつもどこかに校内案内図がないか探してみるが、目に入るのはさまざまな情報が書かれた掲示物ばかり。



「大学って生徒会みたいなのあるのかな」


「ある、って聞いたことあるけどそこまで活発とは聞いてないな」



 フレナが先に立って歩き回り想良がそのやや後ろをついて同じように周りを見る。最も想良は案内図なんかを探すというよりは高校と違う大学そのものを珍し気に見ているだけだが。

 そんな二人の後ろを男子二人は自分たちの知識を照らし合わせて話している。


 正直誰かに聞いた方が早いのは分かっていた。時々すれ違う大学生たちもそれなりに新しい雰囲気のある制服を着ている想良たちを好機の目で見ることがあった。しかし四年制の大学だ、いくら人気のあると言われている優貴でも全学生にまで知れ渡っているとは考えにくかった。手あたり次第に聞いてみてもクラスまで知っている人はなかなか捕まらないだろう。


 日の傾いた中で夕焼けが校内を照らし出している。ところどころ開いている窓からは風が入り込んで空気を揺らした。上から階段を駆け下りる制服を着た学生は多くの書物を抱えていて今にも転びそう。大学も大変そうだ。



「それにしても教室多いねー……どこが普通教室なんだろう」


「なんだかこっちにはなさそうな雰囲気……」


「もー、誰か人探しできる魔法使えないの?」



 のんびりと教室を探すがそれらしき部屋は見当たらない。羽根学園の大学は基本的に学生が移動する、一般的な大学と同じパターンだ。唯一違う点と言えば高校のように教室、俗にいうホームルーム教室が存在していることだ。高校から大学へはエスカレート式であり、基本的に単独行動は良しとしていないこの学園は二人以上の行動を主としているためクラス分けが根付いていた。


 高校と比べても建物そのものが複数あり断然広い敷地。その中で数少ないホームルーム教室を探し、なおかつ優貴がいるだろう教室を見つけ出すのは厳しいところがあった。人捜しの魔法があれば使いたくもなる。



「俺たちの分際でんな高度な魔法使えるわけねぇだろ……」


「分かってる」



歩き回って疲れたこともありフレナと瑢の言葉にとげが出てくる。さっきから階段を上ったり下りたり、端から端まで歩いたりとしらみつぶしに歩いている。大学生や先生らしき人は見かけるが声をかけるまでには至っていない。


 放課後ということもあり優貴が見つかるとも限らなかった。四人はここらが潮時かと思い始め、それぞれスマホなり腕時計なりを見て時間を確かめる。


 想良が目にした時計の針はもう午後六時近くを示していた。居残りでもしていない限りもう大学にはいないだろう。今日は当てが外れたようだ。



「今日はやめにするか」



 天斗は誰にともなくそう言って校舎を出ようと階段へ足を向けた。他の三人もそれに続いて階段を降りていく。


 次はどうしようか、と誰にともなく尋ねようとしたその時、ふいに前を歩いていた瑢が足を止めた。



「……ヨウ?」


「あら、こっちに来ていたのね」


「「?」」



 予想とは違う、凛とした女子の声に後ろを歩いていた想良とフレナはハテナを浮かべる。相手の言い方からしてこちらを知っている風だが視線の先にいる女子生徒……いや、女子学生は見覚えのない人だった。見るからにクールそうで瞳に宿る光は静かで鋭く、サラサラの黒い髪は肩より少し長い。高嶺の花、とも言えるその人はまっすぐに前にいる瑢を見ていた。


 瑢は射すくめられて微動だにしない。天斗も瑢の様子に状況がいまいち読めず黙り込んでいる。



「夢芽?」



 そこへやってくる第三者。二人の男子学生だ。


 突如目の前に現れた大学生三人組。そのうちの二人、男子学生は顔立ちや雰囲気が似ておりかなりの確率で兄弟だということがうかがえた。ということは女子学生の方は妹なのかもしれない。


 相手の方はこちらのことを知っているのかじっと見ており、唯一分かってそうな瑢は目を見開いて固まったまま。状況が全く分からない三人は流れに身を任せるべきか、チャンスととって優貴について尋ねるかそれぞれの脳内で議論する。



「……ねぇ、アンタ知り合い?」



 フレナが小声で瑢に尋ねるがそれには聞こえていたのか相手の男子学生が答えた。



「ある意味僕たちが一方的に知っているようなものさ。君、昨日杖を忘れて寮に取りに戻っただろう?」


「「!」」


「あぁ、別に言うつもりはないよ。むしろそれなら倖貴の方がいろいろやらかしているからね」


「言えてます、それ」



 すかさずフォローを入れてくれるもう一人の男子学生。それに対して呆れ気味に相槌を打ち腕を組む女子学生。なんとなく三人の関係図が見えてきたが女子学生が敬語なところが少々気になる。


 それはさておき、この状況は何だろうか。突如現れた謎の人物……単に瑢のことを知っている訳じゃない、想良たち四人以外は誰も知らないはずの杖のことも知っている。誰にも言わない、と暗に言ってくれてはいるがその理由までは読めなかった。



「もしかして、俺を探しに来てくれたのかな?」



 三人の中で最年長と思われる男子学生が穏やかに問う。



「……あの、先輩方は僕たちのことをご存じなんですか?」



 天斗が少し警戒を滲ませながら問い返すと相手は「うん」と頷いた。



「今回の合宿、俺の担当グループは君たちだからね」

ちょうど1年ぶりの投稿となります。今後は1~2週間に一度の頻度で更新できたらな、と考えています。

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