10. テストの点数はいかほどに
天斗はその点に関しては特に関心を示さず、不思議そうに軽く首を傾げた。
「ヨウってそんなに英語苦手だったか?」
言われてみればそうだった。いつも高得点、とはいかないが平均点以上はとっていたはずだ。二人も天斗と同じように不思議そうな表情を浮かべた。
「確かにいつもは私よりいいよね……アンタそんなにひどかったの?」
「さあ?」
「私の点数聞く~? 聞いて驚け! 五十八点」
じゃーん、と言いながらフレナは鞄から答案用紙を取り出して瑢の前に掲げた。それを見た瑢は「え」と目を丸くする。
五十八点……いつもと大して変わらない点数だ。返されたときに嬉しそうに笑っていたのを見ていた想良はてっきり高得点をとって嬉しさのあまりにやけた、というパターンだと思っていたので本人には悪いがちょっと驚いた。
が、
「……いつもと大して変わらなくない?」
想良と同じことを思ったのか天斗が口にしてしまう。
「ひど、でたよ不意に出てくるテンの毒舌」
うわぁ、と半目になって天斗を見やるフレナもまた、普段見ることが少ない表情だ。何だかんだツッコミ性が高めのフレナは班のムードメーカーとも言えるだろう。この姿を見せる人は決まっているようでクラスの人にはあまり見せていない。
対して天斗はそんなフレナの態度を全く気にしておらず、相手が本気で嫌がっている訳ではないということを分かっているため「ごめんごめん」と軽く流している。
「けど今日、テスト返されたときフレ嬉しそうじゃなかった?」
「あ、バレた? うん、先生が大問二つ、全部あっていてすごい、ってコメントとExcellentの文字書いてくれててね、嬉しくって」
ここ ここ、と指で指示された箇所を見れば確かに赤色の筆記体でExcellent! と書かれており下には〝この調子で他の問題も頑張ってください!〟とあった。ちなみに全問正解していたという二つの大問には花丸がつけられている。他の大問は逆にほとんどバツをつけられており差が激しいけれど。
想良もフレナにならって同じように答案用紙を取り出して眺める。大問一つは全問正解だったが一つだけだったためかフレナのようにコメントなどはつけられていない。
「ちなみに想良は?」
瑢が軽く覗き込んでくるので大人しく答案用紙を見せる。
「赤点は免れているだろうけど……四十七点……」
「珍しいな、想良が」
「いっつも俺と同じぐらいだったのにな」
これに関しては意外だったのか天斗も驚いた顔をしており二人して紙に書かれた点数を見てくる。気持ちは分かるがあんまりいい点ではないので少し気まずい。
「同じ、って今回アンタ赤点だったから追試なんでしょ」
「……見るか? 俺の」
「うん」
フレナが頷くとやや不満そうにげんなりした瑢も鞄を漁り先ほどの答案用紙を取り出す。
「六十六点」
「え?」
「ん?」
三人の前に広げられた答案用紙の数字にポカンとする。瑢の言葉を信じなかった訳ではないが予想に反しすぎて声も出ない。天斗もこれは予想していなかったのか何度も瞬きをしている。フレナにいたっては「え、ウソ、マジ?」と驚き、信じがたさを入り交えた言葉を無意識にか発し見間違えじゃないかと目をこすっては何度も紙を見る。
確かにそこには六十六点の文字があった。
「……先生が間違えて付箋貼った、とか?」
想良は顎に手をやりながら唸る。それが一番有力のように思えたが天斗の答えに虚しくも消え去る。
「いや、下にあるコメントからして先生のミスではないと思う」
言われて視線を下に落とせば確かに隅の方に赤ペンで〝玻瀬くん、追試です!頑張ってね~〟と軽いコメントが書かれている。天斗の言う通りここまで書いて実は間違いでした、なんていうことはあり得なさそうだった。
「……ごめん、二人とも答案用紙見せてもらってもいい?」
なぜ瑢よりも点数が低い二人が追試を免れているのかが分からず考え込んでいると天斗が少し申し訳なさそうに言ってくる。すでに点数を開示してしまっているのでそこまで抵抗はなく、想良とフレナの二人は素直に答案用紙を天斗に差し出した。
二枚の答案用紙と瑢が持っている答案用紙を見比べて少し、天斗の中で答えが導き出されたのか真剣な顔が上げられた。
「多分だけど、ヨウだけ追試になった理由分かったかも」
「さすが天斗……で、天斗の見解は?」
「大問が一つ正解していないとダメ、とか?」
横でフレナも分析していたのかそれらしいことを言っているが天斗は違う意見らしく首を横に振って「いや、」と否定を示す。
「ほら、俺ら使い手って普通の高校生と同じようにこうして勉強するだろ?」
順序良く説明するつもりなのか遠回し気味に説明がされ始める。天斗が言わんとしていることがまだ分からないがとりあえず言っていることは分かるので三人はこくりと頷き先を促した。
「けど使い手である以上魔術法陣は使えるようにならなければならない。つまり、その基礎である術文、もっと言えば基本魔術は頭に入れておかなければならない。いや、当たり前のこととされるはずだ」
「……つまり?」
「今回のテストでは基本魔術がいくつか出ていたけど、ヨウはその一部を間違っているんだよな。逆に点数はヨウより低くともソラとフレはその部分は一つも落としていないから、追試もその基本魔術だけが出る可能性もある……と、俺は思うけど」
言われてから改めて答案用紙を見比べれば確かに瑢は得意効果の『浄化』であるクリーウォールと『法則』のミステレクトのつづりを間違えている。
「ほんとだ、クリーウォールってclean,warllでしょ? L が一個足りない」
「ミステレクトもmistelectになってるね……iじゃなくてy、だよね?」
フレナと想良が解説するように答えを言うと瑢はさすがに恥ずかしく感じたのかそっぽを向いた。
初歩的なミスと言えば初歩的なミスだ。しかもつづりはほとんど英語と同様で、いくつかは組み合わせ方によりオリジナルになっているが基本は英語さえ分かっていれば間違えることはあまりない。
「なるほどねー……だから私たちの方が点数低いのにヨウだけ追試になるわけだ」
「確実にそうだとは言えないけどな。あくまで俺の推測だし」
「でもテンの予想通りだとしたらテストはそんなに難しくなさそうだし、今日の放課後に少しだけ先輩探ししてみる?」
「そうだな、せめてクラスは知りたいし」
想良の提案にそっぽを向いていた瑢が賛同する。切り替えが早い。
追試を受ける本人が大丈夫そうなのを見てフレナと天斗も頷き、想良の提案に賛成を示した。
朝川 優貴……大学三年生で得意効果は『法則』。
この他の情報は与えられていない。
ひとまず想良とフレナは放課後までにクラスの女子から話を聞いてどんな先輩なのか聞いてみることにし、天斗は隙間時間を使って万が一普通に英語の追試がされても大丈夫なように瑢の勉強をみることにした。
少しだけ不本意そうな態度だった瑢も思い直したのか、チラリと様子見したときは真剣に追試対策に励んでいた。
ここまでは一日1部分、更新してきましたが、10. まできた今回の更新を機に不定期投稿になります。
あまり筆が進んでいない作品ですが楽しんでいただけていれば幸いです。