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魔術法陣の使い手 square art sorcerer  作者: 兎月 花
第一魔術法陣 私たちの役割
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08. 忘れ物を取りに


 その少し前、瑢は教室を飛び出して慌てて寮に戻っていた。本当は授業が全て終わっていない時間に家とも言える寮に戻るのは良くないとされているが、仕方ない、と思う。確かに結果としては自業自得なのだが理由そのものとしてはギリギリ通される……はずだ。


 授業が終わった瞬間に教室を飛び出していった理由は用事があったわけでもテストが今日の昼休みだと勘違いしたわけでもない。……忘れ物をしたのだ。それも大事なものを、だ。



「これが大学生だったらコソコソしなくていいんだけどなぁ……」



 自分の不注意なのは分かっている。よく分かっている。だが呟かずにはいられなかった。


 足早に部屋を出る。

 学校へ急いで戻らなければ、誰かに見られるなど論外だ。急げ、急げ……。


 瑢は焦るままに足を動かしており、もう少しのところで他の人に見つかるところだった。寮を出て学校へ戻る途中、まだ寮に戻っていたことがバレる位置にいるときに誰かの声を瑢の耳が拾ったのだ。

 大学生であれば普通の学校と同様授業を自分で選んでとるためどの時間に休みがあっても怪しまれないのだが高校生はすべて受けなければならないため、この制服姿を見られるだけでアウトだ。



 防犯の関係上、男子寮は敷地内の外側に近い方にあり、女子寮は学校側の男子寮より内側にある。もちろん覗きなど生徒・学生同士で何か起こっては大変なので建物そのものは距離があるけれど学校へ戻る道中、男子が女子寮の前を通らなければならないのは仕方のないことだった。


 その女子寮前を通りかかるところで誰かが話しながら陰から現れたのだ。慌てて植木の陰に身を潜ませて様子を見ると制服を着た男女が何やら話しながら歩いている。学校へ向かうようだがこれは自分と同じように学校のルールを反して校舎から出てきているのだろうか。


 しかしここで安心して出ていく瑢ではない。意外と用心深い、とよく言われるが瑢はその通りそこで一度止まった。一度冷静になって物事を考えるところは瑢のいい点とも言える。


 視線の先の二人は制服を着ている。しかし、だからといって必ずしも高校生とは限らない。

 大学生はもちろん私服を着ることは許されているが制服姿も可となっている。理由としては杖をしまうアクセサリー、つまりは女子でいう特殊スカート、男子でいうマント、が制服をもとにして作られているからだ。つまり大学生で制服のままの人は少なくなく、目の前を歩く二人も大学生の可能性があった。



「だからわざわざ迎えに来なくていい、って言ってるでしょ! 女子寮の前に来るとか怪しまれるだけなんだからっ」



 どうやら女子の方は少々お怒りのようだ。


 ますます今出てきたらマズいだろ、これ……。テストは追試だしついてねぇ……。


 思わずその場で頭を抱える瑢はとりあえず二人が早く学校へ戻ってくれるよう願った。このまま見つかればお怒りの女子が勢いで瑢のことを教師に伝えるかもしれない、とにかく早くその場を去りたかった。

 しかし不幸というものは続くもので、あろうことか二人は校舎へ向かう足をその場で止めてしまった。


 マジかよ……⁉


 そろりと後をついていくように校舎へ戻ろうとしていた瑢は心の中で盛大に転げまわった。本当に不運としか思えない。こうなれば早く去ってくれることを願うのみ。



「フッ……相変わらずつれないな、そして優しいね、 夢芽<ユメ> は。」


「その言い方キモイ」



 うわ、女子の方反撃早すぎ……そして言い方キツイ……っ!


 二人のやり取りを耳にしてバクバク状態の瑢。実際いつ見つかるか心臓はバクバクしているのだが、このやりあいに巻き込まれたくない思いもまた強い。



「全く、そこまで言うことなくない? でもそれで置いてかないところ、優しいよねほんと」



 男子の方は少し髪が長めで先の方をゴムで結っており、見るからにチャラそうなイメージだが本当の話し方は普通なのか先ほどのナルシスト的な雰囲気が消え、イケメン男子に見えてくる。

 人は見た目じゃないってほんとだな、と変なところで感心する瑢。



「……置いていって良いなら置いてくけど」


「いや、一緒にいてくれて良いよ。なんせ夢芽とは少しの間離れることになるからな」


「大げさ。たかが一週間の合宿でしょ、それに場所は同じでそれぞれグループごとに行動するだけなんだから」



 相変わらず呆れたように話す夢芽と呼ばれた女子が軽く顔にかかった髪をよける。クールビューティー、という言葉がよく似合う女子で前髪がきれいに揃えられているのがよく分かる。


 会話からして二人は付き合っているのかもしれない。

 ますますこの場に居づらくなる瑢だが、その反面夢芽の機嫌がさっきよりは落ち着いているところに関してホッとしていた。そのまま穏やかに学校へ戻ってほしいものである。



「たかが一週間でも夢芽と離れるのは寂しいさ」



 そう言って眉を下げる男子は素直な性格なのか寂しさを滲ませながら苦笑しているようだった。対して女子の方も相手を嫌っているわけではないのか信頼のもとの厳しさで相手を見ている。



「ほんっと何言ってんだか。今までずっと一緒にいるでしょう。それに合宿に参加しよう、って言ったのは 倖貴<コウキ> よ?」


「ユウ兄がやってるから俺も参加してみようかな、って思ってさ……そういえば合宿といえば夢芽の担当するメンバー、分かったよ」



 合宿……担当……。ここまで聞けば確実だ。

 この二人は、大学生である。


 合宿につく先輩は大学生以上と決まっており、各班一人ずつ入るのが決まりになっている。その上会話からして倖貴と呼ばれている男子の先輩のお兄さんもその合宿に参加するようだ。



「相変わらず情報収集は早いのね」


「専門としているからな」



 ここでようやく二人は時計を見て学校へ向かい始めた。そろそろ昼休みも残り半分ぐらいだろう。

 瑢はポケットから携帯を取り出し時間を確認する。予想通りの時間だ。そして画面には緑のアイコン付きでメッセージが一つ入っている。天斗から報告したいことがあるからいつもの場所に来てほしい、とのことだった。


 瑢は周囲に誰もいなくなったのを確認し、鞄を取りに急いで校舎内へ戻ろうと植木の陰から出て駆け出した。

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