酉星
「うう……」
意味不明な夢を見た。夢らしい夢の悪夢の類いだ。
「今何時だ?」
身体を起こし、虚ろなまま手元にあった筈の目覚まし時計を探す。
無い。
「ん?」
というか布団も無い。掛け布団も敷き布団も無い。
そもそも床が無い。砂の上だ。
「は?」
何気なく目をこすっていた自身の手に違和感を覚える。慣れ親しんだ色でも形でもなかった。
「え?」
ふわふわだ。ふわふわのピンク色の指が四本しかない手だ。
驚愕のあまり立ち上がる。自身の身体をくまなく触るがどこもかしくもピンク色で尻尾まで生えている。しかもきぐるみではない。
「嘘……だろ?」
腕を掴むとパイプ程の細さまでまで指が沈んでいく。
最早身体には肉が詰まっておらず、綿か何かが詰まっているとしか思えない。
恐る恐る眼球にあたる部分を触るが僅かな凹凸があるだけで擦っても痛くもかゆくもない。
「酒とか……じゃないよな……」
飲んでないし、飲まない。だけどだとしたら何だコレは?何で身体がピンク色になって砂地で寝そべっていた?何がどうなっている?
「あ!ウサギさん起きてる!おーい!」
背後から年端もいかない女の子の声がする。
「ウサギさーん!ウ~サ~ギ~さ~ん!!」
ウサギさんとは俺の事なのだろうか?俺の見た目はウサギのきぐるみになっているのか?そんな疑念と共に後ろを振り返る。状況がわからない。どんな人物だとしても情報を得なければ。
「おはよ!ウサギさん!」
ツギハギ。
そこにいたのは決して人間と間違うことのない存在だった。
「わたし『く尓逢』っていうの!したの!」
布切れを縫い付けて作られたゴスロリ風のドレス。陶器そのもののような純白の肌。2本ある左腕。球体関節。
「あなたの名前はあるの?あったらおしえて!」
残念ながら夢ではない。夢なら今頃飛び起きているからだ。
「えっと……糸宇です。」