底辺
底辺だ。
「いらっしゃいませー」
スーパーマーケットの一店員である俺は業務をこなしつつ、そう思う。
「いらっしゃいませー」
大学中退。その後アルバイトとして勤務していたこのスーパーの契約社員となり早数年。俺は週5で働いている。所謂バイトあがりというヤツだ。底辺と定義するにはまだまだしたがいるだろうという風に言われかねないが、どこにでもいる、どこかのだれかでしかないこの状態の人間にどの程度の価値があるというのか。
「……そろそろ定時か。」
そして今日も午前の勤務を終え、帰宅の途につく。
「あー糸宇くん、糸宇くん。」
店長が俺を呼んでいる。わかっている。在庫のダンボールを開ききっていない事は承知している。故にこの後のこの中年男性の発言を予測するのは容易い。
「ちょっとさ、タイムカード押した後手伝ってくんない?」
下回った。しれっと労働基準法を破ろうとするのはこのご時世良くないぞ店長。そういうのは叩かれるんだから。だから俺は
「すみません。祖母の病院に向かわなきゃならないので。」
勿論嘘だ。祖母が通院しているのは本当だがそこに向かう予定は無い。俺はこうやって店長が法を侵すのを防止しているのだ。実に親切だ。
「はぁ……キミさ、チーフなのわかってるよね?バイトの子達にあの山積みのダンボール押し付ける気?」
バイトがどうなろうと知ったことでは無いし、それはアナタのシフト作成ミスではと言いかけたが余計な事は言わないのが吉。チーフなのも成り行きだし。
「すみません。」
時計をチラッと見つつ素直に謝る。タイムカードの打刻を示唆しつつ謝ってる体を見せつけよう。
「はぁ……もういいよ帰れば?帰ればいいじゃん。」
きっと良心に訴えてるつもりなのだろうな。
「わかりました。おつかれさまです。」
ミッションクリア。エンドロールだ。