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桜王女万歳!

 

「……それは、お前独裁者になるってことか?」


 お前のようなもんが支配者なんて世も末だ。


「ええ、東ちゃん。モニターを!」


「はい!」


 大和軍事基地副長官である東谷 通(桜は東ちゃんと呼ぶ)、56歳。帝国大学工学部を首席で卒業。大和胃軍事基地設立当初のメンバーであり、その多大な功績が評価され30歳の若さで、大和軍事基地長官に就任。そんな新進気鋭の天才が、悪魔的な頭脳と文字通り悪魔の心を有する真野桜にその座を奪われるなんて夢にも思わなかっただろう。

 そんな彼がまさしく桜(悪魔)を崇拝し、忠実な手足となっている光景は正直見ていられない。


「これが、大陸地図です。我が大和軍事基地の総力を結集して調査しました。陸地の面積は地球と同程度、時間の流れ方も暦も地球と変わりません」


 モニターに映し出された光景は、確かに地球と酷似していた。若干異なる場所もあるが、日本らしき場所、アメリカらしき場所、ロシアらしき場所、中国らしき場所も存在する」


「そう……ご苦労だったわね。他に特異な点は?」


「はい、この世界には『科学』という学問は存在しません。その代わりに、『魔法』が存在しております。魔法こそがこの異世界の進化の主になっております」


 まさか、この超エリート科学者たちが魔法にアレやコレやと談義している光景が慣れない。

 そして、さっきから桜と東副長官、研究者たちの面々が難しい話を展開している。

 まあ、一言でいえば何が何やらさっぱりわからん。

 そんな俺の様子を嘲ったように笑って、桜は得意気に説明を始めた。


「柴田、あんたの脳みそじゃわからないかもしれないけど、平行世界ってもんがあるのよ。異なった世界が平行している世界。まあ、パラレルワールドって言った方が聞き覚えがあるかしら」


 桜は難しそうな資料を見つめながら言った。

 パ、パラレルワールド……ドラ〇モンでしか聞いたことが無い言葉だ。


「死ねっ、低脳が……でも、考察するに時空までは超えていない。地質も太陽の位置も私たちの世界と酷似している。割合近い世界とは考えられるけど」


 割合近い世界? ドラゴンが飛び交う世界のどこが近いと言うのだろうか。とてもじゃないが、俺は今体感していることも半信半疑だ。未だこれがこの一色町の町おこしイベントのハロウィンじゃないかと疑っているところだ。

 だって魔法使いとか、ドラゴンなんていうのは所詮空想の産物だろ?


「あんたはそれだから駄目なのよ。元々、空想ってのは別次元の世界と交差した時に感じるものなの。あっ、妄想とは別の話だからね、変態。こういうファンタジーの世界は割合近い時空にあるから、人の意識に入り込むことが多いと考えられているけどね。まあ、次元の話なんてあんたにしても、しょうがないけど」


 うわー、長年付き合ってても、本当に嫌な奴だな……って誰が変態だよっ!


「で、これからどうするつもりなんだ王女様?」


 極力皮肉をこめて問いかけると、

 なにやらブツブツと桜は考えながらつぶやいていた。


「科学……対魔法……うん、いい。面白い。みんな、我が地球の叡智であるこの大和軍事基地の全員でこの異世界の支配者となりましょう!」


                       ・・・


「何を黙ってるの!? 私たちが支配者となれば好きな学問にいくらでも没頭できる。魔法? そんなもんに科学が負けるわけない。私たちが過去から積み上げてきたものをこの異世界に見せつけてやりましょう」


「う……うおおおおおおおおおおおっ! やりましょう! 桜長官。いえ、桜王女」


 間さんが興奮して叫び出す。


「いや、ちょ……まっ……」


 そんな俺の制止を差し込む余地もなく桜は話を続ける。

「間さん……その勇気に敬意を表し、あなたにはここ、日本をあげるわ」


 ふぁ!?


 俺の混乱をよそに、桜はモニターに打ちし出された中国らしき場所に地図にポインターを当てる。


「東ちゃんには中国。ここを統治なさい。護衛隊長の氷室ちゃんはロシア。このように異世界を支配した暁にはこの大和軍事基地の全員に国を与えるわ。1人残らずね。その上で、地球に戻る研究を続けて帰りたいなら好きにすればいい」


 その場でどよめきが起こる……みんな、桜の演説に聴き入っている。


「アメリカも、ロシアも桜帝国のもの。中国もブラジルもイギリスも南アフリカも桜帝国のもの。フランスもインドもエジプトもアルゼンチンも日本もスイスもみんなみーんな桜帝国のもの。この異世界にある全てのものは、全て桜帝国のものなのよ。あーはははははっ……あーはははははっ」


 桜は再び壇上にあがり天を仰いでクルクル回り始める。


「……」


 こ……この女、完全にイカれてる。

 どの面下げて厳かで控えめだ。欲望の塊じゃねぇか、お前なんか。


「桜王女万歳! 桜女王万歳!」

 は、間さん……


「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」


                     ・・・


 ……前言撤回、こいつら、全員イカれてる。


「ありがとう。その賞賛は承認と思っていいわね。みんな、ありがとう。みんなでこの異世界に理想郷を創りましょう。醜い国家間の争いがなく、それによってみんなが好きなことに没頭できるような世の中に!」


「桜王女万歳!桜女王女万歳!」「桜王女万歳!桜王女万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」


 その演説は20分以上に及び、めでたく桜帝国の建国が決まった。




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