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ご褒美

 翌日、第一研究室に入るとすでに対戦闘用アーマー『メッサーラ』の改修が行われていた。その中心にいながら、陣頭指揮を取っているのは桜だった。


「あの……おはよ」


 極力いつも通りの声を心がけたが、正直言って自信はない。昨日、桜に抱きしめられて、慰められて。4歳も年下の女の子にという情けなさ。そして、気恥ずかしさ。


「柴田……」


 珍しく、桜が真面目な顔をしてこちらに歩いてきた。

 途端に昨日の桜の柔らかい肌の感触、優しい指先、近くで聞こえる吐息。全てが一気にフラッシュバックされて思わず数歩後ずさる。


「いや、桜。その……昨日はーー」


 パーン


 ……壮烈なビンタが飛んで来た。


「な、何すんだこの野郎!」


「あんたたち男どもにはご褒美でしょーが、ありがとうございましたと言いなさい!」


 こ、この女……絶対に頭おかしい。


「ご褒美な訳あるかよ! なんだよ唐突に!」


「いい! あんたがのうのうと私より遅く起きてくるなんてあり得ないから。そこんところもっとよく自覚しなさいよ、このど低脳が」


「なんだとこの野郎!」


 昨日のことは、間違いなく一生の不覚だ。ちょっとでも、ほんのちょーっとでもグラついた俺が阿呆だった。


「まあまあ2人とも。少し落ち着いて下さい」


 そう言って2人の間に割って入ったのは東副長官だった。


「副所長! 止めないでください! 俺はこいつの頭をぶん殴ってやらなきゃーー」


「仲がいいのは結構だがね。柴田くん、君に頼みたいことがあるんだ」


 その言葉を聞いて、軍人である方の本能が勝って東長官の方を向く。


「それは……なんですか?」


「メッサーラとグリフォンは暫く、改修するから当面の戦闘には使えない。課題も見えたからね」


「課題……ですか」


 あのクソ人工知能『セイレーン』以外は完璧に見えたが。


「弾丸の威力が弱く弾数も少ない。最弱のゴブリンであれじゃ話にならんわ。もっと、威力の出る仕組みを考えないと。メッサーラの動きも、現状はあんたの動きにシンクロしきってない」


 桜が難しい顔をしながらパソコンを叩いている。


「……どゆこと?」


「いい? メッサーラはあんたの動きをあらかじめ予測して自ら動いてるのよ。いくら、軽い金属使ってるって言っても重みがないわけじゃない。あんたの反応に合わせてアーマー自体が動いているに過ぎないの。だから、あんたの動きを邪魔しない。でも、最後の場面。あんたがオーガに頭を潰されそうになった時。明らかに、メッサーラはあんたの動きについてこれてなかった。不本意ながらね」


 あの時……そう言われてもよく覚えていないが。


「まあ、それだけ柴田くんの持ってる戦闘ポテンシャルが高いってことだ」


 東長官がそう言って俺の肩を叩く。


「調子に乗らないでよ! あんたごときでダメってことは他の隊員の反応速度には全然ついていけないってことだから。そこんとこ間違えないよーに」


 わーってるよやな奴だなほんと。


「それで、柴田くんには諜報部の白井涼子くんと共に異世界で新聞社を作って欲しい」


「い、異世界新聞社……」


「いい? 異世界でも現世でも、最重要とも言える要素に『情報』がある。それを今回は取りに行く」


 自信満々に桜が胸を張る。


「いや、どういう意味かわからないんだけど」


「情報を制するものは異世界を制する。要するに情報操作をして異世界の住民を操作するって意味」


 い、言い方悪っ!


「柴田くん、これは会議でも決まったことなんだかね。異世界の住民とどのようなスタンスで接しようとも、情報がない彼らにとって僕らは所詮は部外者だ。どこかで衝突することや、対立が生まれてくる。だからこそ、こちらから積極的に桜帝国を認知してくれるチャンネルが必要なんだよ」


「なるほど……」


 桜も、東長官のように言ってくれればよかったのに。


「ま、あくまで表向きの理由はそうね。でも、本当の狙いは別にある。目指すは現世のマスゴミどもみたいな感じで異世界の政権を追い詰めることにある」


「……ちなみにお前の思うマスコミ像ってどんな感じ?」


 そう尋ねると、桜は天使のような微笑みを浮かべた。


「正義の味方。失言とスキャンダルが大好物。公正中立大好き。基本的に某政府高官は好き勝手言いますが、情報ソースは明かしません(キリッ)。いいんです、なんでも好き勝手言っていいんです。だって匿名なんですから。権力チェックの役割を果たしますが、基本的に戦争の片棒は担ぎます! だって、殺されたくないですもん。軍事国家になれば、速やかに権力の犬となります。ワオーン! 権力チェック? いやいや、それ民主主義国家の話です。民主主義ってことは基本的には人気投票でしょ。得意。わたくしども、得意分野です。やっぱ、人気あるのは清廉潔白、綺麗事大好き。過去の実績なんて関係ない。能力なんて関係ない。清廉潔白であればなんでもいいんです。私たちはいつだって正義の味方側なんです。だから、正義の味方なんです。批判は大好きだけど、自分たちが批判されるのは大嫌い。だって、正義の味方ですよ私たちは。数的有利作って、喰らえ『答えてください答えてください』攻撃。そんなん誰も答えない? いいんです。だって、答えなかったら悪者みたいに書きますから。逃げたように見せる情報操作だから別にいいんです。迷惑? 関係ないっす。だって悪者なんですよね。だから、私たちはなにをしてもいいんです。自宅の前に24時間体制でストーカーまがいのことをしても全然問題ないです。だって、悪いことしてるんですもん。だいたい、柴田あんたマスコミって言ったわね? 言葉間違えてるわよ。あれ、マスゴミだから! マスコミニケーション? 死ねっ! マスかいてるゴミだろうが!」


 は、はわわわっ……ゆ、歪んでる。


 確かに大和軍事基地は相当マスコミから叩かれていた。そして、その中心人物でありトップであり、世界一性格の悪い真野桜がそんなマスコミに叩かれないはずがなかった。昼夜問わず、記者が張り込んで突撃取材、囲み取材のオンパレード。『核兵器より危ない女の子』、『終末のジャンヌダルク』、『人の皮を被った大悪魔』。様々な異名がつけられ、桜のみならず、家族にも取材が殺到した。

 そして、桜を育てた母親である雪さんは、それで精神を少しやられて病院に通うようになった。

 桜はそれでも、マスコミの批判報道に向かってカスだゴミだ言い続けた。真っ向勝負で裁判で母親の名誉毀損で訴えて、戦い続けた。

 雪さんが実家であるイタリアに引っ越した後も、1人で裁判を続けて勝訴を勝ち取った。


「まだまだ、言い足りないけどここでは同じようなことをしていく。ただし、私たちがやる目的は1つ。現政権の権力豚どもの打倒。情報操作でクーデターを起こさせて、桜帝国へ併合させる。悪者? 結構。いい、私たちは正義の味方じゃない。私たちの目的は異世界の制圧。そうでしょう、みんな?」


「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」「桜王女万歳!桜女王万歳!」


 ……これ以上の皮肉はないが、『核兵器より危ない女の子』、『終末のジャンヌダルク』、『人の皮を被った大悪魔』マスコミが作った二つ名は、どれも真野桜に当てはまっていた。


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