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第二話

 翌朝、僕はまだお年寄りたちがラジオ体操をしているような時間に目覚めた。

 結論から言うと「JADE」から連絡はあった。彼女は本当に僕を起こすために電話をしてきてくれたのだ。

「おはよう(えん)さん」

 朝から鳴り響くうるさい着信音を止めると、スマートフォンからかわいい女の子の声がした。僕が思っていたよりもその声は幼く、高校生というよりは中学生のような声だった。

「おはよう、起こしてくれてありがとう、学校行ってくるね」

 僕がそう返すと、彼女は「うん」と頷いて電話を切った。

 それはわずか15秒ほどの会話だった。

 僕はスマートフォンを置いてベッドから立ち上がると、久しぶりに学校に行く服装に着替えた。せっかく「JADE」に起こしてもらったんだから、しっかり学校に行きたいと思った。

 それからというものの、「JADE」は僕が指定した曜日に毎朝電話で起こしてくれるようになった。その会話時間は10秒ほどと決して長いものではなかったけれども、今までJKに起こしてもらったことなどない僕にとってはその時間はとても幸福だった。眠気眼(ねむけまなこ)で会話するのも悪いなと思って電話がかかってくる前に起きて、電話がかかってくるのを待っていることさえもあった。

 またこれをきっかけにして、彼女とのwhispperでの絡みも増えた。今までは挨拶をかわす程度だったのが、些細なささやきにも反応して会話をするようになった。そうしているうちに、僕は「JADE」のことが気になり始めていた。

 

 彼女が僕の「目覚まし」になってしばらくして、彼女は僕にダイレクトメールを送ってきた。

「お話ししたい」

その件名を見て気になって本文を開くと、そこには彼女の「すかいぽ」のIDが記されていた。僕はすぐさま自分のIDを書いて返信すると、彼女に指定された時間に電話をかけた。

 数コールののちに彼女は電話に出た。僕はSNS経由で出会った女の子とすかいぽで通話するのは初めてだったので、心臓が破裂するんじゃないかというぐらい激動していた。

「えっと、やぁ燕さんだよ」

通話をかける前に最初に何を言おうかさんざん迷ったが結局何も思いつかず、ややひきつった声で僕は「JADE」にあいさつした。

「わあ!JADEだよ」

初っ端から失敗したかなと思ったけれども、彼女はひまわりのようなかわいい声で答えた。そのおかげで僕は緊張もほぐれ、その後は自然に会話ができたと思う。会話の内容は本当に他愛のないもので、お互いの学校のこと、地元のこと、whispperのこととかを二人で笑いながら話した。その中で彼女は熊本県に住んでいて、女子高に通っている二年生ということを知った。他にも姉がいること、仲のいい友達のこと、彼女のことをたくさん知れた。


「ねえねえ燕さん、whispper見てみて」

会話がひと段落したところで、急に彼女がいたずらっぽい声で僕にささやいた。

「ん~何~?」

僕が不思議そうに返すと

「いいからいいから~♪」

と彼女は機嫌のよさそうに僕に催促をした。

彼女に言われるがままにwhispperを開くと、見覚えのないアカウントにフレンド登録されていた。アカウント名は「山本彩葉(やまもといろは)」、アイコンはどうやら友達と撮ったプリクラのようだった。

「これなに~?」

「ん~わたしの裏垢?かな」

彼女に「裏垢」と言われて僕はその場で硬直した。これが俗に言うJK裏垢というやつなのかと、そしてそれを自分は手に入れてしまったのかと、僕は右手に持ったスマートフォンをタッチして、「山本彩葉」にフレンドを返した。

「この垢仲のいいフレンドさんにも教えてないんだよ?でも燕さんには教えてもいいかなあ、って」

そう言うと彼女は照れくさそうに笑った。


 結局彼女との初めての「通話」は彼女の寝落ちをもって幕を閉じた。僕は通話の途切れたすかいぽのマイページを見ながら、うんうんと唸っていた。もちろん考えていたのは「JADE」―「彩葉」のことだ。彼女はいったいどういうつもりなのだろうか。全く知らない男を朝起こしたり、すかいぽで裏垢を教えたり、その行動は完全に地雷女のそれだ。それでも僕は彼女のことが気になった。会ったこともないし、顔も知らない女の子、声しか知らないのに僕はなぜ彼女が気になるのか、この気持ちは恋慕なんだろうか。とりとめのない思いが一気に僕に押し寄せてきた。僕はその思いをかき消すように自室にベッドに寝転がった。とりあえずまだわからないことが多すぎるし、結論を出すにはまだ早い。そう考えながら僕は翌朝の「目覚まし」を待った。

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