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アルヴァース・クリエイト 〜異世界適当創世記〜  作者: 神在月
2章 冒険者ギルドと商業ギルド
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幕間 他商会の動き〈後編〉

 ーレイダーsideー


 商業ギルドへやって来た。俺はギルドでフィンシオン商会の評判を聞こうと思ったのだ。恐らくは街民からの支持はあるだろうが、他の商会からはすこぶる評判が悪いと踏んでいた。


「いらっしゃいませ。本日はどの様な御用でしょうか?」


 受付嬢が聞いてくる。


「フィンシオン商会の評判を聞きたいのですが、各商会から苦情などは入ってないですか?」


 受付嬢がピクリと眉を動かす。これは、当たりかな?と思ったが少しばかり様子がおかしい。ん?何か怒ってる?


「フィンシオン商会が何か?特に商業ギルドへ苦情は出ておりませんが?」


「へ?本当に?アレだけ安価な商品を売っているのに、他の商会や店舗から苦情がないなんて信じられないんですが……」


 まさか、フィンシオン辺境伯の関係だから誰も何も言えないのか?権力に屈してるのか?それは同業者としては情けないとしか言えないが……。


「あなたは、かなり遠い街からいらしたのですね?だからフィンシオン商会が行っていることの全容は掴めてないのでしょう。何でしたらしっかり説明させていただきますが?」


 本気で怒ってるなこの人。それより是非聞きたいな。


「き、聞かせていただけるのでしたら是非お願いします。確かに私は遠くから来ましたので、この街の状況について行けていないのです。教えてください!」


「かしこまりました。では、あちらの商談席で少しお待ちください。」


 そういって受付嬢は後ろに引っ込んでいった。俺は商談席へ移動し、受付嬢を待つ。


 暫く待つ……。あれ?何だろう?周りからいい匂いがする。


「お待たせいたしました。こちらをどうぞ」


 受付嬢は席に来るなり、俺の目の前に食べ物と飲み物を出してきた。こんなサービス商業ギルドでなかったと思うが。まぁ差し出されたものを拒否するのも失礼だしいただこう。


 食べ物は甘い匂いがするが、元は黒パンの様に見える。上に赤いソースと黄色いソースがそれぞれかかっているが……‼︎柔らかっ!甘っ!うまっ!何だこれ?この赤いソースは甘酸っぱいが絶妙にこのパンにあっている。そして、この黄色いソースはまさか蜂蜜か?超の付く高級品じゃないか⁉︎食べて良かったのか?


 慌ててしまい喉に詰まる。飲み物もいただく・・・これは⁉︎ほんのりと果物のような芳醇な香りが口に広がる。いい匂いだ。少し渋みを感じるが後味が何とも言えず心地が良い。そして甘いこの食べ物と合っている。


「こ、この食べ物と飲み物は一体?」


「食べ物の方は、唯の黒パンに卵とミルクと砂糖を混ぜたものに浸して柔らかくした後、焼いたものです。フレンチトーストと言うそうです。ソースは街中にもありますが自生しているトロス〔イチゴ擬き〕の実を潰して砂糖と一緒に煮たものです。もう一つの蜂蜜は商人の方なのでおわかりですね?」


「ま、まさか⁉︎これがあの硬くてパサパサの黒パンだって?信じられない。それにトロスの実も唯の小さくて酸っぱいだけで皆食べもしなかったものではないか!こんなに変わるものなのか?ではこの飲み物は?」


「これはシアルグラスの東門付近に自生しているジリンという植物の葉を煎じてお湯の中に入れたものです」


「じ、ジリン〔ダージリン擬き〕の葉を?それこそフィンシオン領であれば何処でも手に入りそうなものではないですか?それがこんなに美味しいものになるのですか・・・?しかし、何故これを私に?」


「あなたは、先程フィンシオン商会の全容を知りたいと言ったではないですか。これは、フィンシオン商会から提供された情報を元に私達が作ったものです。と言っても、砂糖と蜂蜜はシン様にご提供いただきましたが、それ以外は私達で調達から調理まで行いました」


「……そんな!情報提供ですって?それを商業ギルドに売ったっていうのですか?」


「いえ、お金は支払っていません。全て無償です。調達の方法も調理の仕方も、砂糖と蜂蜜もです。そしてこの情報は、シアルグラスで食糧を扱っている全ての商会、商人へ無償で伝えて欲しいとの要請をフィンシオン商会から依頼という形で商業ギルドが受けおいました。これ以外にも何種類かレシピと言う名称でフィンシオン商会から預かっています。あなた様も食糧の取り扱いがあるようですので、無償でお伝えさせていただきます」



 そう言って、書類を数枚渡される。それにはフレンチトーストのように、今ある黒パンや豆スープの豆を美味しく食べる方法と、ククア〔ニワトリ擬き〕の飼育方法、その卵の調理方法、ホルスタ〔ウシ擬き〕の飼育方法、そのミルクを使った調理方法、肉の調理方法、後はシアルグラス周辺に自生している食べられる植物の調達方法と栽培方法が記載されていた。俺は奴隷商なんだが……いいのか?


「こ、これだけの情報を本当に無償で⁉︎」


「そうです。シン様はこの街の人達が飢えない方法をご提供くださいました。ただ、当然ですが、自生している植物には限りがあります。ですからそれらを増やすことも、商業ギルドに依頼されました。増やすことの出来る土地も東に広大な畑を提供してくれたのです。対価はそれらが育つまでの食糧供給をフィンシオン商会が行うことです。ホットドッグやポップコーンだけでなく小麦や塩、砂糖なども販売出来るはずなのにあまりしていないのは、他の商店でそれらを取り扱わせる為なのです。商会に渡す為の商品もシン様から商業ギルドが預かっています」


 最早理解の範疇を遥かに超えた内容だった。

 商人でありながら、1番稼げる所を別の商会に任すって⁉︎ありえない。ありえないがそれがシン様か。辺境伯の子供で5歳だからお金に一切執着がないのだろう。民を救うことを優先出来る人なのだ。やっとシン様という人がわかったような気がする。いや、全然わかってないな。会いたい。会って話をしてみたい。商人としてこんなに人に憧れたのは初めてだ。


「今後はフィンシオン商会だけでなくどの商店でも、人が来るようになるでしょう。そして、街民達がお金を稼ぐことの出来る依頼まで作ってくださったのです」


「それって、畑の拡張ですか?」


「はい、その通りです。畑だけではありませんが。お金がない民も働けば食べられるようになります。しかも農地拡張の手伝いの依頼中は無償で食事を提供しろとのことです。給金も1日大銅貨5枚という待遇のされ方です」


 もう驚かないぞ。そうか、優遇すればみんな農地拡張の依頼を受けるだろう。1日でも早く農地拡張が出来れば来年以降は安定した食糧供給が自分達で出来るってことか。


「先程畑だけではないと言われましたが?」


「はい、果樹園、田圃、牧場などがあります。そして、商業ギルドではないですが冒険者ギルドにも依頼を出すそうです」


「冒険者ギルドで?街の外で何かさせるのですか?」


「近隣の村までの道路の作成と野営施設の建設だそうです。道路は、道を平らく舗装していく事で、馬の負担を減らして移動時間を短縮するのが目的のようです。野営施設は、少しでも魔物の被害を抑える為の物だそうです。将来はそこに村でも出来ればいいなと仰ってました」


 旅人や行商人の事まで考えてるのか……。もうお腹いっぱいだ。


「わかりました。フィンシオン商会を少しでも疑って申し訳なかったです。話を聞けて良かったです。ありがとうございます」



「あら?もう良いのですか?まだ全容をお話しできていませんが」



「大丈夫です。出来れば本人に会いたいですので、探して本人と話をしてみます。」


 俺は心の中で決めていた。レイダー商会を閉会してでもフィンシオン商会に入りたいと。


 いつか必ず会ってみせる!

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