出発の時
アルヴ暦213年4月2日
シアルグラス〜南門前
ついに、旅立ちの時が来た。あっという間の1ヶ月だったな。まずは、食糧問題をシアルグラスから解決させた。フィンシオン商会である程度直近の飢えを回避した後、東門の農村部を大きく広げ、小麦畑、野菜畑、田圃、果樹園、牧場を創った。作物は前世の野菜をイメージして創ったものだ。
更に予期してなかった幸運もある。イメージして創った食糧全てが、天災や害虫に強かったのである。まぁ絶対そうだと言い切れるほど時間は経ってないが、農家の人たちが驚いてたようだからそうなんだと思う。前世の食べ物がこの世界の食べ物より安全であると思って創ったのが功を奏したようだ。多分連作障害もないんだろうな。そんなこと考えなかったもん。まさにチート。まぁこれから出来てくる作物を実際に見ないことには、何とも言えないが。とりあえず、ライアード王国に早く行き渡るように、父さんを通じて、ライアード王国の内務卿宛に、種や苗、既に出来た食べ物を一緒に送って貰った。
そして、農村部で1番の変革は、農村部の周りにも壁を創ったことだ。今迄は壁の外に畑を作っていたのだ。恐らく暫くの間は拡張の必要がないであろうくらいの広大な範囲に壁面を創った。これで、単純な街の面積だけならどの街にも負けないだろう。
これにより、シアルグラスは食糧不足だけでなく防衛面でも、他領に比べ圧倒的優位に立ったと軍のみんなは言ってたが、俺はただ、食糧を魔物や盗賊達に荒らされたくなかっただけだ。一石二鳥で良かったね。更にはレグス父さんとソナ母さんに倉庫に入れる権限を付与し、城の地下から入れる様にした。倉庫内の食べ物や武器防具類を見て固まってた。最強の籠城部屋だからだ。地下から商会に逃げることも可能と、更には旅してきた主要拠点も繋いでいけば、最悪フィンシオン城を落とされても、死なずに済む。当然配下達は単独で倉庫には入れないが、権限を持つ者と一緒なら出入り可能だ。確かに防衛という意味では、かなりのハイスペックだろう。
商会はマチスに任せてある。ただ商業ギルドに登録するのは、本人の要請で断られたのと、実際必要ないからやめた。倉庫にお金も入れておいてもらえば何時でも共有できるからだ。因みにすでに白金貨にしたら、数百枚はあるだろう。ただ、殆どが大銅貨や銀貨の為貨幣だけで、一部屋分くらいある。両替が面倒だからだ。それに白金貨は使いづらいし。
あと気になるのはカミラだ。奴隷にしてから目覚めていない。正確には一度だけ目を開いたことはあるのだが、会話もないまま、またすぐに寝入ってしまった。今は城の診療室で預かってもらっている。心配だが連れて行くわけにもいかない。
といった様に、多少課題は残しつつも、旅の準備は完璧に出来ていた。
今俺たちは、シアルグラスの新たに創った南門に集まっていた。街の名前を知らない顔見知り達、軍の代表者達、クラウス、シュトラウス、城の執事とメイド達、そして父さん、母さんだ。
「シン、準備はいいか?」
「あぁ、私のシンが行ってしまうわ」
母さんが珍しく泣きそうな顔をしている。
「はい、準備万端ですよ父さん。母さんまた、帰ってきますから」
「本当?絶対よ⁉︎母さんに嘘ついたら、アイスニードル1,000本飲ますわよ?」
⁉︎母さんがまさかの前世でよく子供達の中で使われていたネタを挟んでくるとは、知ってんのか?
「レティシアに着いたら、一旦戻って来ますから。倉庫経由ですが」
コッソリ母さんに耳打ちする。倉庫の事は家族と商会以外には口外しないと父さんと決めたからだ。
「まぁ!そうだったわね!シンはすぐにそ・ん!ング⁉︎……」
母さんが父さんに口を塞がれ、父さんが、シーっ!と注意する。母さんは気付いたようで、親指と人指し指で丸を作る。
「ふぅ。ゴメンなさい。あなた、シン。嬉しくてつい」
「いえ。でも気をつけてくださいね」
ソナ母さんは反省しつつも俺の帰る発言に嬉しそうだった。
「そろそろ出発いたしましょう、シン様」
「わかったよ、ヨシュア。では、レグス父さん、ソナ母さん、行って参ります!」
「息災でな。行って大きくなって帰って来い!」
「ちゃんと、ご飯食べるのよ〜」
「シン様〜いってらっしゃいませ〜!」
「頑張ってください!」
「フィンシオン万歳!シン様万歳!レグス様万歳‼︎」
と色んなところから激励の言葉が飛んできた。俺やルーシア達はみんなに必死で手を振り続けた。俺はこの国に生まれて良かったと改めて思ったのだった。
これから、どんな旅が待ってるかは、わからないが、ルーシアやサーシャ、従士達と乗り越えていけるだろう。
「よし!まず目指すはレティシアだ!」
ーーー
順風満帆で旅立ったシン達一行。しかし、シンは一つ過ちを犯していた。その事が後にシン達の人生で最大の災厄となるのだが、この時は誰も気付く事ができなかった。そう、宇宙創造神ですらも……。




