兵士との衝突
アルヴ暦213年2月12日
シアルグラス〜屋台前
俺たちは屋台前にやって来た。おかしい。周り人が俺たちを見るなり目をキラキラさせている。中には俺たちを拝むお年寄りまで……。一体何なんだ。
屋台前まで来て看板を外すと、周りから溜息が聞こえてきた。
「えっ?えっ?な!何ですか?この溜息」
サーシャが困惑した感じで言うが俺にもわからない。
取り敢えず無視して、新しい看板を立て掛ける。[ポップコーン屋は中央広場近くの店舗に移転します。]と記載している。
すると、その看板を見た周りの人達から歓声が上がった。
「良かった!閉店するんじゃないんだ。移転だってよ!」
「ありがたや〜。まだあの食べ物が食べれるんだねぇ」
「昨日は軍人まで来ちゃったからてっきり閉鎖させられるもんとばかり思ってたしな!」
ん?何のことだ?軍人?昨日来た?気になる俺はそのおじさんに話しかけた。
「あの、すみません。今お話ししていた、軍人って何のことです?」
「あら?お前さん知らなかったのか?昨日もここでポップコーンを売ってくれると思っていた俺たちは屋台前で並んで待っていたんだ。そんな奴らがドンドン集まるんだけど、一向にお前さん達が来てくれないだろう?みんなここでずっと待ってたらさ、軍の兵士達が来て、俺たちを家に帰るよう命令して来たんだよ。俺たちはただポップコーンが食いたかっただけなのに、暴動と間違えたらしくてな、先導したのは誰かと探していたんで、もしかしたらお前さん達が捕まるか、屋台出店を禁止されるんじゃないかって心配してたんだよ」
「そうだったんですか。ご迷惑をお掛けしてすみません。今度からは、店舗で買えるようにますし、ポップコーン以外も販売する予定です」
「そりゃありがたいな。あのポップコーンは美味しい上に安いからな。この食料不足の時に本当に助かるよ」
「ありがとうございます。店舗でお待ちしております」
……。
…………ヤバい。今更ながら昨日の父さんが忙しかった原因に気付く。俺のせいだった!軍まで出動させる騒ぎを起こした犯人が辺境伯の息子とは、非常にまずい。今日も兵士が来たら大変だ!早々に店舗に向かおう。
〜フィンシオン商会店舗
何事もなく店舗までやって来た……はずもない。当然移転先の店舗に早く行こうと、屋台前にいた人はみんな付いてきた。大名行列か?ってくらいの住民が俺たちの後ろに付いてくるんだもん。そりゃ、今日も兵士が来るに決まってる。
「そこの者達!止まれ!何のつもりだ⁉︎」
兵士が大声で引き止める。勘弁してくれ……。サーシャがあわあわしている。ここは冷静に対応するしかないな。
「何のつもりとは?僕達はただこのお店に来ただけですよ。後ろの方達は、お店のお客様です」
「お前はまだ子供だろうっ!店を持ってるはずないだろう!カードを見せろ!」
この兵士は何故子供の俺にこんなにキツくあたるんだ?子供だろうという決めつけとか、教育がなってないなぁ。てか、俺のこと知ったらどうなるんだろうと思いながらカードを出そうと思ってたらサーシャが切れてた。
「ちょっとあなた!一兵士の分際でこのお方になんて口の聞き方をしてるんですか?この方がどなたかご存知ないんですか?」
「は?何処かの貴族のボンボンなのか?それなら俺だって、ハモンド男爵の息子だぞ」
うん。駄目だこいつ。男爵家の名前出したことの重さにすら気づかない程度の男か。
「もういいよ、サーシャ。面倒出し。ほら、カードです。商業ギルドにも登録済ですよ」
男がカードを見るなり、商業ギルドにフィンシオン商会と記載があるのに気づいたようだ。
「フィンシオン商会だと!勝手に辺境伯様の御家名を付けるとは何事だ!極刑に値するぞ!」
怒鳴りつけ、剣を抜く兵士。騒つく住民。流石にフィンシオン商会の名前は、インパクトがあるらしいな。しかし、本当に馬鹿だなこいつ。カードちゃんと見ろよ!剣まで抜きやがった!サーシャが今にも跳びかかりそうだ。ルーシアは……げっ!あの顔は相当怒ってるな。魔法ぶっ放しそうだ。早めに抑えよう。俺が怖いわ。
「あの。自分の名前使うと奴隷になるのですか?」
「あーん!自分の名前だと!嘘吐くな!ガキが!」
あ、なんか俺もイライラして来ましたよ、流石に。馬鹿兵士はまだ気付く事なく暴言を吐いた。
「いえ、カードの名前をちゃんと見てください。カードの名前は変えれないのはご存知ですよね」
「当たり前だ!カードの名前だと⁉︎……シン・フィンシオン……。確かに辺境伯様と同じ家名だな。だが同じだからとその家名を使うのは間違いだ」
え?まだダメ?馬鹿を通り越して天才か?だがそれを聞いた周りの人達が気づいたようだ。
「シン・フィンシオン様!辺境伯御子息の御名前だぞ!俺たちに食べ物をくれてたのは、辺境伯の御子息だったんだ!」
誰かがそう叫んだ途端。周りからウォーっと歓声が上がった。
「は?え?シン・フィンシオン様?辺境伯の御子息?……‼︎」
あ、やっと気づいたっぽい。さぁどうする?既に顔色は青白い。鼻水出てるし。脚もガクガクしている。ガクブルです。
「はい、そうですね。僕の父はレグス・フィンシオン辺境伯です」
「‼︎‼︎⁉︎……ぉ、ぉ、お許しくださいませ、シンしゃま!た、た、たいへんなご無礼を、お許しください」
なんか気持ちいいぞ!自分の力ではないが、このハモンド男爵の愚息を超凹ませる快感。黄門様が印籠見せるあれと同じだな。
「ふぉっふぉっふぉっ。別に構いませんよ。それより僕達はこれから、皆さんに食べ物を販売しなければいけませんから、帰ってもらえますか?」
「は、はぃ〜。かしこまりました。失礼しました〜」
脱兎の如く去っていくハモンド男爵の愚息。彼にはもう会いたくないなぁ。
なんか無駄な時間を過ごした気がする……。店舗に入ると、奴隷達が直ぐに出てきた。




