奴隷の忠誠
アルヴ暦213年2月11日
シアルグラス〜中央広場
7人で歩いて商店へ向かって歩く。
「あ、あの、シン様。発言してもよろしいですか?」
ナタリーが言う。既に発言してるとか野暮な突っ込みはしない。
「ん?どうした、ナタリー?」
「あ、いえ。私達家族を一緒に購入していただきありがとうございます。本来ならバラバラに買われて行くのが当たり前なのに・・・。」
「そんなに気にしなくていい。俺にとっても都合が良かったしな。」
「どういうことでしょう?」
マチスが横から会話に入ってくる。
「フィンシオン商会を作ったはいいが、それを俺が常に関わるのは難しいからな。家族で雇われてくれれば、仕事に集中できるし、裏切られる可能性も減るからな。」
「私達は奴隷なので裏切ることはありえませんよ。首輪で縛られていますから。人に危害を加えようとしたり、主人の命令に逆らうと気絶する魔法がこの首輪に掛けられています。」
あぁ首輪の効果ってそんなん付いてるのか。ロクスリーが教えてくれなかったのは、常識だからか?
「あぁ店に着いたら説明しようと思っていたが、お前達は直ぐに奴隷から解放する予定だよ。」
「「「えっ?」」」
またも、みんな驚く。当然か。
「シン様折角高いお金で買ったのに、何でですか?」
サーシャが、突っかかって来た。近いよサーシャ。顔が。てか、お前も奴隷から解放されてるだろうが。
「いや、勿論買った費用の元は取り替えさせて貰う。金貨300枚・・・白金貨3枚分だったから、マチスとナタリー、マリアで白金貨4枚、ルナは、白金貨2枚で解放する。倍儲ければ十分だろ?」
そう告げると、マチスとナタリーは少しがっかりした様な感じになる。ルナとマリアは、キョトンとしている。まぁ普通に考えたら無理だわな。銀貨5枚が月給の相場だし。マチスとナタリー2人で月に金貨1枚だと400ヶ月。ざっと33年だ。
「シン様の鬼〜。そんなの直ぐに返せるわけないじゃないですか?本当にお館様の子供ですか?」
サーシャが暴言を俺にぶつけてきた。
「え?何言ってんだサーシャ?俺たちが白金貨10枚集めるのにどの位かかった?」
「はっ?え〜・・・5日ですね。」
「「えええぇっ‼︎‼︎⁉︎5日」」
マチスとナタリーが超びっくりしてる。まぁ俺たちも最初はびびったからな。当たり前か。
「そういう事だ。マチス達の給料は、月に金貨5枚だ。売上によっては、更に追加で出してやる。」
「金貨5枚?」「そ、そんなに?」
「し、信じられない・・・」「?」
「ふぇっ?」
マチス、ナタリー、ルナ、マリア、サーシャだ。
「金貨5枚か・・・4人でそれだけいただければ確かに10年くらいで返済できる・・・しかし、そんなに頂いていいのでしょうか?」
「ん?計算がおかしいぞ。あぁ、言い方が悪かったな。マチスで5枚、ナタリーで5枚だ。ルナも5枚、マリアは手伝い程度になるから銀貨3枚で我慢してくれ。」
それを聞いてみんな絶句した。
・・・驚かせ過ぎたかな?
「ハイっ!ハイハイっ‼︎シン様!私フィンシオン商会入りたいです!」
サーシャが父さんを裏切った‼︎
「ダメに決まってるだろう。サーシャは俺たちのお世話係だろう。」
「だって、お給料が今の倍なんて・・・あぅ・・・」
「じゃあお菓子無しでもいいか?」
「ふっ、私がお館様を裏切るとでも?冗談に決まってるじゃないですか。やだなぁシン様。だからお菓子ください。」
この駄メイドめ・・・。まぁ面白かったからいいか。アイテムボックスからシュークリームを出して渡してやる。ついでにルーシアと奴隷達にも渡す。
「やった〜。ありがとうございます。あ〜美味しい!」
サーシャが途端に笑顔になる。
「シン様、美味です。このシュークリームは私も大好きです!」
ルーシアも天使の笑顔を見せてくれた。
奴隷達はなぜか食べない。
「ん?食べていいぞ。」
見た事がない食べ物だからか、みんなシュークリームを見つめるだけだった。
「はぁ、ではいただきます。‼︎な⁉︎何だこれは?」「凄い、甘くて美味しい‼︎」「うまっ!うまっ!」「そんな!こんな甘い食べ物が存在するなんて⁉︎」
マチス、ナタリー、マリア、ルナがそれぞれ感想を述べる。
「美味いだろ?お前達には、こう言った食べ物を作って、売ってもらおうと思っているんだ。」
「た、確かにこれなら皆金を惜しまず食べると思います。しかし、そんなに沢山食材があるのですか?」
「あぁそれは心配しなくていい。調達は俺が全てやる。」
「どうやら私達は凄い人に買われたみたいね。あなた。」
「そうだな。私はこの方の元なら、ずっと奴隷でもいいような気がしてきたよ。」
ナタリーとマチスは、既にシンに買われた事の不安は無くなっていた。そして不安どころか、この小さな少年に着いて行こうと決めた瞬間でもあった。
「シン・・・様。私のご主人様・・・。」
ルナもマチス家族と共にシンに買われた事を感謝していた。感謝が好意に変わりつつあることは、まだ本人でさえも気づいてなかった。
“あの子、危険な香りがする⁉︎”
ルーシアがルナに警戒心を覚え始めたのは、この時からだった・・・。
そんな話をしながらフィンシオン商会の店舗へ、たどり着いた一行であった。




