後悔そして行動開始
アルヴ暦213年1月
フィンシオン領テポート村
レティシアから馬車でシアルグラスへ戻るには、10日近くかかる。その道程の中間である5日目に泊まることを決めたテポート村で、俺は非常に後悔する出来事が起こる。
「よ、ようこそいらっしゃいました。フィンシオン辺境伯様。」
そう言って頭を下げて迎えてくれる村長。
「うむ村長、一泊だが世話になるぞ。」
「狭い村で恐縮ですが、ごゆっくりお休みください。」
俺たち家族は村長の家で一泊させてもらう。他に従士が数名いるがそれぞれ別の家で泊まらせてもらうらしい。
俺とルーシアは、村長宅に案内された後、まだ陽が沈んでなかったので、村を散歩することにした。
家屋周辺から畑を見て回る。そこで、ある事に気付く。
「子供がいない?」
「そのようですね。家の中でしょうか。」
陽が沈む前だから、もしかしたらそうかもしれない。だが、それでも1人の姿もないのは違和感を感じた。
そして結局子供に会うことなく村長宅に戻った。
夕食時。
「申し訳ございませんが、食料が乏しくこの様な物しかご用意できません。」
「いや、構わぬ。すまぬな貴重な食料を使ってもらって。では、ありがたくいただこう。」
夕食のメニューは、豆スープ、黒パン、水。以上だ。確かに他の村も似たような物だった。実際シアルグラスでもそんなに大差はない。偶に魔物の肉が出るくらいだ。因み魔物も食べられる魔物がいる。俺も記憶が戻ってからこの食生活にはかなり参っている。だが能力をあまり見せるわけにはいかないと思い我慢していた。
「ところで村長様、先程村を散歩させていただいていたのですが、僕たちと同じくらいの子供がいなかったのですが、何故でしょうか?」
子供特有の素朴な疑問を投げかけてみた。村長は、とても苦しそうな顔をして、レグスを見た。レグスもまた苦い顔で頷く。
「シン様、子供たちはこの食料不足の為、死んでしまいました。勿論全ての子供というわけではなく、生き残っていた子供も食い扶持を減らすのと、食料購入の為に奴隷として奴隷商に売ってしまったのです。」
言いづらそうに村長が教えてくれる。レグスもそれを聞いて悔しそうな顔をしている。
「そ、そんな!それ程までに食料がないのか⁉︎父さん何とかならないのか?」
若干本来の砕けた喋りになってしまったが、気付かず、レグスに問い詰める。
「シン……。仕方ないのだ。これが今の国の現状だ。何処も食料は不足している。こればかりは、直ぐに解決できる問題ではない。」
俺はものすごく後悔した。創造魔法を使えば、食料自体出すことも可能だ。畑だって簡単に作れる。人口から考えれば微々たるものだが、もしかしたら死ななくてもいい子供たちはいただろう。自分の能力がバレるとか、そんなの人の命と比べたら大したことない。何故気付かなかったんだ。そう、此処は前世の日本じゃないんだ。簡単に食料が手に入る事なんてないのに、辺境伯の子供だったからまだ飢えることがなかっただけなのに。自分に腹が立ってきた。
「村長様、すみません……。」
俺は涙を流して、村長に謝っていた。
「い、いえ。そんな。シン様の所為ではありませんよ。お気になさらないでください。」
「違う!俺の所為だ。俺がもっと早く気づいていれば。子供達は死なずに済んだ!奴隷になることも!俺の甘さが、みんなを不幸にしんだ!」
「え?シン?どういう事だ?それにその喋り方は……。」
慌てるレグス。それを横目に俺は村長の家の空いている場所に創造魔法を使う。手が光を放ち、光が収まった時、みんなが驚愕した。それもそのはず。大量の小麦、果物、肉などの食料がギッシリと積まれていたのだ。
「な、何だ⁉︎今のは魔法なのか?シン!」
「し、食料がこんなに⁉︎小麦だけでこの村の数ヶ月分くらいはありますぞ⁉︎信じられません……。」
「父さん、母さん。今まで黙っていてすみませんでした。俺のユニークスキルである創造魔法はこの様に自分が一度でも見た事があるものなら何でも創り出すことができます。だからこの能力を使えばもっと早くみんなを救えたはずなんだ。でも、それを俺はしなかった。だから俺の所為なんだ。」
両親と村長が固まっている。脳がついてきてないようだ。
「シン……。」
漸くレグスが話し始める。
「お前が、何かを隠しているだろう事は、薄々気づいていた。まぁ3歳の時からステータスが異常だったから、ない方がおかしいとな。だがやはり食料不足はお前の所為ではないよ。これは、ハッキリ言える。お前の魔法だけでこの国の人間は簡単には救えない。確かに少しは助かるだろう。だが最終的にはそこに住むもの達で解決しなければいけないのだ。そうだろう?お前がずっと食料を出し続けることは出来ないのだから。」
レグスは俺の頭を撫でながら、そう語る。
「はい。でも……。それでも、もっと早く動いていれば……。」
「そうだな。お前は俺の子だ。貴族の子だ。貴族には、当然そこに住むもの達を助ける義務がある。そこをお前は既に理解しているは本当に嬉しい。だか、お前はまだ5歳だ。5歳のお前を誰が責めると思う?まだまだこれからだ。これからシンがみんなを救う為に力を貸してくれればいいのだ。わかるな?」
「はい……。」
「じゃあこの話は終わりだな。村長。この食料はこの村のみんなで食べて欲しい。」
「よ、よろしいのですか?」
「あぁ、その代わりしっかり畑を耕して、乗り切ってくれ。」
「はい!かしこまりました。フィンシオン辺境伯様、シン様、ありがとうございます。」
また、頭を下げる村長。俺はまだ納得はしてないが、一旦この話は終わった。
村長は周りの家に声をかけ食料を配布し始めた。レグスからの村への宿泊の御礼という事にした。明らかに馬車の積載量を超えていたが、誰もそこには触れなかった。
次の日
早朝に目が覚めたシンは外で背伸びをして、身体を覚醒させてけだるさを取る。軽く体操をしていると、村長とルーシアも起きてきた。
「おはよう。村長様。ルーシア。」
「「おはようございます。シン様。」」
挨拶を交わし目の前にある畑を眺めながら、シンは村長に話しかけた。
「村長様。この畑には今何か植えていますか?」
「いえ、冬場ば植えても育つ食物がないので何もありませんよ。」
「では、少し試させてもらってもいいですか?」
「え?は、はい。どうぞ。」
シンは1つ試したいことがあった。それは前世の作物が創造魔法で出せるかだ。できたら、食料不足問題はかなり解決に近づくからだ。
頭のなかでイメージを固めてから創造魔法を畑に向けて放つ。畑全体が光を放ち、その後には、一面に緑が広がった。どうやら成功したようだ、しかも既に作物が実ったバージョンらしい。本当にこの魔法はチートだ。
「し、シン様?この作物は?」
「これは、ジャ……ポテトといいます。この土に埋まっている部分が食べられます。因みにこの芽の部分は毒がありますが取り除けば問題ありません。また、ある程度芽が出てきたらもう一度植えると、また沢山実を付けます。さらに、あまり季節に拘らずに作れますので、これが順調に増やせれば食料不足を抑えることが出来ると思います。」
ジャガイモではなくポテトにした。理由はこの村がテポート村だから。将来この村の特産になれば、覚えやすいと思ってだ。
「……こ、こんなに素敵な贈り物を下さるとは……このソルト今後も辺境伯様の為に誠心誠意お仕えいたしますぞ。」
村長さんソルトって名前なのか……ん?そういえば。
「村長さん、塩ってありますか?」
「いえ、ご存知の通り塩は貴重品ですので、ほとんどありません。ごく少量でしたらご用意出来ますが、お持ちしましょうか?」
「あ、違います。欲しいのではなく、ポテトも食べるのに塩があった方がいいと思って。あと油はどうですか?」
「油ですか、魔物の肉から出た油でしたら壺に幾つかありますが。どのくらい使うのでしょう?」
そう言って壺の所に案内される。壺が2、3個置いてあり、中にはたっぷり油が入っていた。少し臭う。
「このくらいあれば取り敢えず充分ですね。お借りしてもいいですか?」
「もちろんです。ご自由にお使いください。」
外で簡易的な竃を土魔法で創り、村長さんから鍋を2つ借りて、竃に火を入れる。1つの鍋には水を入れ、もう1つには油を入れる。水が沸騰するまでに、ポテトの芽を取り除き、水で洗っていく。暫くすると沸騰したので、沸騰した水の方にはそのまま、皮付きの状態でポテトを放り込む。
油はもう少しかかりそうだ。その前に塩の準備だ。竃作成で魔力が減ってたので、ルーシアに村長宅横に土壁で囲いと屋根を作ってもらう。村長が興味津々で見ている。
囲いの中に、本日2度目の創造魔法で大量の塩を創り出す。
「こ、これは?ま、まさか塩ですか?こんなにたくさん、しかもこんなに白い塩を初めて見ました。」
まぁ、前世の塩をイメージしたから当然だ。
湯がいていた、ポテトは既にいい感じだ。取り出して更に盛る。そのまま。
そろそろ油も温度が上がってきたので、皮を剥いてざく切りにしたポテトを投入する。色がついてきた所で油から取り出す。油を切り、そこに塩を振り掛ける。
「さて、出来ましたのでみんなで食べましょう。ルーシア、呼んできてくれ。」
「はい。」
そう言ってルーシアはトコトコと村長宅へ入り、2人を呼んできた。出てきた2人は当然目を見開いて驚いている。畑一面の作物と、大量の塩にだ。
「さあ、みんなで食べましょう。こちらの方丸ごとの方は皮を剥いて塩をかけて食べてください。ざく切りしてあるのはそのまま食べれますよ。」
そして味見をする。所謂、粉ふきいもの方は、ポテトそのままの素朴な味だったが、久々に食べたので美味かった。そしてフライドポテトだが、臭いがすこしあったが、病みつきになる味だった。美味い。
「こ、これは!美味い。このような食べ物、そして食べ方があるとは!」
「あらあら、美味しいわねぇ」
「……‼︎な、なんという事だ。こんなにも美味しい作物があるとは……。」
レグス、ソナ、ソルトの順に感想を述べた。
「村長様、先程ご説明しましたが、このポテトは比較的簡単に作成できます。夏場は小麦等の作成でよいと思いますが、秋から冬は、このポテトを作られると、よいかと思います。」
「シン様、何から何までありがとうございます。あの……。大変申し上げにくいのですがよろしいでしょうか?」
「はい?なんでしょう。」
「シン様に創り出していただいたポテトと塩を、幾つか商人に売って、奴隷となった子供を買い戻したいのですが、許可をいただけないでしょうか。誠に勝手な言い分であることは重々承知しておりますが……。」
「買い戻すことが出来るのですか⁉︎では、遠慮なく使ってください。僕もそうしてもらいたいです。それに、ここにある物は既にこの村の物ですよ。」
「あ、ありがとうございます。このご恩は一生、いやこの村が存在する限り後世に渡って忘れることのないようにいたします。」
「大袈裟ですよ。」
「いや、シンよ。少なくとも1つの村で食料不足を解決したのだ。これは凄いことだぞ!」
「辺境伯様の仰る通りです。シン様はご自分がなされた事の凄さをもう少し認識された方がよいですよ。」
「……ご忠告感謝します。」
少し照れた感じで返事をするシンに対して周りの人たちも顔が綻ぶ。
こうして、村全体を飢饉から救ったシンは、自分の力を遠慮なく使っていく事を決意し、テポート村を後にした。一行が村を出る時には、村人全員が見送ってくれたのは言うまでもない。
シアルグラスまでの残り4つの街や村でも同様に作物を提供して、食料不足を解決していった。
このシンの行動により、フィンシオン辺境伯の内政能力の高さは、フィンシオン領内だけでなく、ライアード王国全体に伝わり始めるのだった。




