二度目の人生
序章が終わり、ここからが1章となります。
フィンシオン城を→シアルグラス城に変更。
アルヴ歴207年9月、一つの命が誕生した。
ユーミル大陸ライアード王国フィンシオン辺境伯領。
領都シアルグラス城内。
「お館様〜!お館様〜どちらにいらっしゃいますか⁉︎」
独りのメイドの声が城内に響き渡る。
メイドばドタバタと走り回り人を探していた。部屋という部屋を回るが見つからない。この城広過ぎだと独りごちながらも、メイドは走り回る。城内にある訓練所で漸く目当ての人物を見つけた。
「どうした?サーシャ?珍しく慌てて?」
サーシャと呼ばれたメイドは、息を切らせながら、その人物の前まで駆け寄って行く。
「はぁ...はぁ...ふぅ...失礼しました。お館様!ソナ様の陣痛が始まりました!恐らく本日中にお生まれになるかと!」
そう告げた途端、お館様と呼ばれた男の目が見開く。男はメイドの両肩を掴み、自身の初めての子供誕生の朗報を破顔させながら叫ぶ。
このお館様と呼ばれた男は、この地域の辺境伯その人である。
名前はレグス・フィンシオン、年齢は27歳と地球で言えばまだ若いが、この世界の貴族の常識で照らすと、この歳まで子供が出来ないことは珍しく、大変片身の狭い思いをしていたのだった。
「ま、誠かサーシャ!俺の子が遂に産まれるのか⁉︎」
「お、お館様、痛いです。それよりも早くソナ様の元へお越しください。」
「あぁ、すまん。力が入ってしまったな。よしソナの所へ向かおう!既に産まれてるかもしれんしな!」
慌てて走っていくレグス。
「イヤイヤ、そんな直ぐには産まれませんよ……」
メイドは小声で呟いた。
「ソナ!大丈夫か!」
バタンっ!と大きく部屋の扉を開けて入ってきたレグス。ソナの周りには、メイドや助産婦などが付いていたが、急な来訪に全員ビクリと驚き、扉から入ってきた張本人に視線を移した。
「あ、あなた。そんなに慌てて入って来られるから皆びっくりしているじゃないですか。落ち着いてくださいませ。私は大丈夫ですよ。何度か陣痛がありましたが一旦落ち着きました。この間隔が短くなってきたらいよいよ私達の念願の子供に逢えるのですね」
ソナは、急に入ってきたレグスを嗜める。
周りもその光景を笑顔で見守った。
「あぁ、皆すまん。話をサーシャから聞いてから落ち着けなくてな。改めて産まれるまで皆、協力を頼む。出産に関しては、俺は何もできないからな」
そう言って、少し落ち着いて来たのか、レグスはソナの横に座りソナの手を握る。
「ソナ、あと少しで俺たちの子供が産まれるんだ。あと少し頑張ってくれ」
「はい。もちろんですよ。あなたは、心配しないで、待っていてください」
「うむ、では隣の部屋で待ってるから。任せたぞ、ソナ」
そう言って、軽くソナと口付けをしてから、隣の部屋に行く。
数時間経った。
隣の部屋で座りもせずにウロウロと歩き回る男が一人いた。
「お館様、落ち着いてください。もうすぐお生まれになられますから」
執事の男性がそう言って男を宥める。
「しかしな、サントン。先程からもうすぐと何度も言ってるじゃないか。もしかしたらソナに何かあったんじゃないか?様子見に行くか?」
「ダメです。出産の場に男は立ち入ってはいけません。もうすぐです。我慢してくださいませ」
そのやり取りを何度か行って更に時間は経過し、日付けが変わろうかという夜更けに、大きな初声が響き渡った。
「おぎゃーー、おぎゃーー」
「おぉ‼︎産まれたか⁉︎俺の子供……」
「お館様!おめでとうございます」
暫くすると扉が開き、中から布に包まれた赤児をメイド長ベリーズが大事そうにレグスの前まで抱いて来る。
「お館様、おめでとうございます。男の子でございます」
「おぉ、男か!ソナよ良くやったぞ!」
メイド長から、赤児を受け渡され、初めての子供誕生に破顔させながら、我が子を見つめる。
「お館様、是非ソナ様にお近くで労いのお言葉をお掛けください」
入室しても大丈夫の様なので、我が子を抱きながら部屋に入り、ソナの横に座る。
「ソナ!よく頑張ってくれたな!ありがとう」
「いえ、我が子の為ですから。こんな痛みくらい苦ではありませんよ。それよりもあなた、我が子に名前を付けてくださいませ。私達の初めての子供です」
「うむ。そうだな。名前、名前……。シン。シンという名前はどうだろう?」
「シン...。良い名前ですね。ふふっ。あなたは今日からシン、私達2人の子ですよ。よろしくね、シン」
こうして、転生者シンの第2の人生が始まったのだった。
アルヴ歴207年12月
ユーミル大陸ライアード王国フィンシオン辺境伯領内レティシア。
主に天人族が暮らす街に、一つの命が誕生した。
ルーシア・ファラントの誕生である。
シンの数秒後に転生したルーシアだったが、下界では、3ヶ月のずれが生じていた。
この2人の再会にはもう少し時間を要するのであった。




