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最強目指して主人公補正を手に入れた俺は、囚人候補生という呪いにかけられていた!?

作者: YossiDragon

 唐突だが、俺はとことん平凡だと思う。

 俺のスペック……とある高校に通う高校二年生。名前は『野良部(のらべ) 多生(たお)』。言わずもがな、好きな食べ物はごはんや麺類。好きなおかずは女子――もとい、肉じゃが。好きなお吸い物は、ジャガイモの味噌汁。家族構成は母親と父親と姉と妹と俺の五人家族。家は二階建ての一軒家。少し特殊な事といえば、母親と姉と妹は、血が繋がっていないことだろうか? 特技は、どこでも寝れる事と、ラノベの早読み。一週間で百冊は読める自信がある。

 が、試したことはない。後、少々アニメ好きでもある。見ているジャンルは、ラノベを元ネタとしたもののみ。字が大半のラノベが、アニメになるとどうなるのかが気になって見たのがきっかけだ。

 そして、そんな俺は現在昼休みの時間を有意義に過ごしていた。と言っても、窓際の一番後ろ――俗に言う「主人公席」なる場所に座って窓越しに外の景色を眺めているだけだが。

 校舎は三階建てで、俺のクラスは二階にある。

 ここから見える景色はそこそこいい。ここ一帯の土地を持つ人が所有する山が、一望できるのだ。しかも、夕日が沈む時なんかたまらないほどロマンチックだったりする。

 確か、あの森には滝があると聞いたことがある。

 そんな時、俺の耳にふと近くの席の生徒の会話が聞こえてきた。ふと聴く耳を立ててみれば、それは俺が窓から眺めていた山にまつわる話だった。


「ねぇねぇ、知ってる? あの山の噂……」


「ああ、聞いたことあるよ? 確か、あの滝の裏にあるっていう、洞窟だよね?」


「そうそう! その洞窟の奥に、あるらしいよ?」


「何があるんだ?」


「ええっ、知らないの?」


 会話している二人の女子生徒に、一人の男子生徒が現れる。その生徒が噂について知らない事を知ると、女子生徒の一人が驚愕の声をあげた。

 ううん、俺も気になるな。よし、このまま聞いてみよう。

 ほんのちょっとした好奇心から、俺は会話を聴き続ける事にした。


「主人公補正……って言葉、知ってる?」


「ん? ああ、なんか聞いたことあるな。なんか、チートみてぇな力があるんだろ? 確か、死ななかったり、モテたり、強かったりっていう……」


 少し曖昧な感じで答えるその男子生徒に、俺はううむと考え込んだ。

 確かに、最近のラノベは主人公補正多いよな。でも、あれ結構羨ましいんだよな。そんな力が手に入ったらと思うと、ついつい妄想しちまう。

 と、俺が妄想に入り込もうとしかけた途端、女子生徒の一人が気になる言葉を口にした。


「もしも、その力が手に入るとしたら……どうする?」


「ええっ!?」


「え?」


「あ、ごめん」


 女子生徒の衝撃発言に、俺は思わず驚愕の声をあげてしまった。その声に振り返る三人に、俺は軽く謝って席に座り外を見る。

 すると、少し間を空けて再び三人が会話を始めた。


「そんなの、ありえるのか?」


 そうだ、そんな事ありえるわけがない。


「それがそうでもないらしいよ? なんかね? 洞窟の奥に小さな祠があって、そこで儀式をすると手に入るらしいの」


 ほうほう、儀式か。でも、どうやるんだ?


「ふぅん、曖昧だね。でも、主人公補正なんか使わないでも魅力的な人っているよね」


「そうなんだよね、でも……それも噂によれば主人公補正で手に入れた力なんじゃないか、って」


「マジかよ! それセコくね? だったら俺も手に入れてぇよ!」


 俺も俺も!

 思わずモノローグで賛同するが、無論三人には聞こえていない。にしても、そうか。だとすればうらやまけしからん! それは是非とも俺も手に入れなければッ!!

 そう目標を定めた俺は、さっそく明日行ってみようと思う。しかも、ラッキーな事に明日は土曜日で学校は休み。特に予定なんてない俺には、もってこいだ。

 噂になってるくらいだから、相当訪れてる人はいるはずだ。情報収集は必要かもしれない。

 今からそんな計画を企てていると、だんだんニヤけてしまう。


「やだ、野良部くんが急にニヤけだしたよ?」


「どうせ、野良部の事だからラノベでも読んでんだろ? 字ばっかりの何がいいんだか。やっぱマンガだろ」


 ふんっ、何とでも言え。俺はラノベが好きなんだ。これと言って明確な理由があるわけではないものの、何故か惹きつけられてしまうんだよ。やっぱ、表紙の絵のせいかな? いやでも、挿絵も――おっと、話が逸れてしまった。今はそれよりも、噂が本当かどうか確認する事が先だ。




――×××――




 次の日の朝。俺は目覚めた。天気は晴れ。絶好のピクニック――もとい、調査日和だ。これはもう、神様が俺に主人公補正を手に入れなさいというお告げをなさっているとしか思えない。

 そう勝手に都合良い事を考えた俺は、朝食を軽く済ませて荷物を準備し出掛けた。

 家族に少々怪しまれたものの、そこは普通に切り抜けた。




 山へとやってきた。目的は無論決まっている。手に入れるためだ、主人公補正の力をッ!!

 そのために俺はこの山に来たんだ。少々足場は悪いが、一応山登りする人もいるので足場自体は存在している。この奥には安らぎの滝が存在し、そこから流れてくる川のせせらぎが心を癒してくれる。天然水なので、透明度は凄くいい。ゴミなどもない。相当管理は行き届いているようだ。でも、そうなると噂を聴きつけた調査の人達はいないのか? 普通なら調査の痕跡なんかも残されていそうだが、それもない。

 近くに人気(ひとけ)はない。

 別に夜でもないのに急に不安になってくる。

 と、その時、バサバサッという音がして俺は体をビクつかせた。

 たかが鳥だろうに、何をビクついているんだ、情けない。

 そう自分を叱咤して前進を再開。




 しばらくして、俺はようやく辿り着いた……安らぎの滝に。噂によれば、この滝壺の裏に洞窟があってそこの祠で儀式を行えば、主人公補正の力が手に入ると言っていた。

 これが本当かどうか、確認しなければ!

 何もなかった場合の落胆が少々心配だが、どうせ暇を持て余すのもあれだったし、その時はその時だ。

 もしもの場合を軽く考えて、俺は滝壺に近づく。そこそこ高い位置から落ちる滝は、勢いも強くて水しぶきが尋常じゃない。これは、レインコートを持ってきておいて正解だったな。

 用意周到な自分に少々うっとりという、ナルシストを味わった所で、意を決する。

 これから入るんだ。この滝の裏にある洞窟に!

 息を飲んで歩みを進める。耳にはドドドッ! という滝の音しかしない。

 そして、ついにその滝に打たれる。

 なるほど、これが滝で行われる修行の時に味わう痛みか。しかも、結構冷たい。レインコートを持ってきていなければ、さぞかしズブ濡れになっていた事だろう。

 目を開けるのも少し辛い。だが、少し目を開けて見ると、確かに確認した。洞窟の入り口らしき大きめの横穴。しかし、中は暗い。

 調査に来た人がいるならば、その痕跡としてライトくらい設置していきそうなもんだが。

 やはり、少しおかしい。何かあるのか、この洞窟……。

 俺は、リュックの中から懐中電灯を取り出し、洞窟の奥を照らし出した。最奥は見えない。となると、少し距離はあるようだ。


「よし、行くか」


 リュックを背負い直し、先へ進む。時折左右を照らすが、痕跡は無し。洞窟の中は少し薄ら寒い。霊的な何かがいるんじゃなかろうか? いやでも、聖なる何かがあるとすれば、それもありえそうだし……。

 ラノベとかでも、そういうのあるよな。なんかこう、感じる的な。


「ん?」


 そこで俺は気づいた。洞窟の大きさが小さくなりだしているのだ。奥に進めば進むほど、狭くなっている。このまま奥まで行って、その結果最奥に行くには小人にならなければ行けません! なんてオチじゃないだろうな? だから調査の人も呆れて痕跡残さなかったとか。

 なんか大いにありえそうで逆に困る。だって、そうなると俺のやってきた事は全て徒労に終わるからだ。

 だが、俺の最悪の予想は当たらなかった。

 懐中電灯が照らす風景。俺の目の前には、祠がある。そう、辿り着いたのだ洞窟の最奥に。

 見た目は祠というよりお墓っぽいが、祠に見えなくもない。現に、何かを(まつ)っているようにお札とかも貼られてるし。


「ええと、儀式だっけ? でも、いざ儀式って言われても何をすれば……。一応、儀式といえばお供え物が定番だからお供え持って来たけど」


 独りごちりながらリュックから取り出したのは、カツ丼。

 え? 何でカツ丼かって? いやぁ、昨日の晩御飯がコレだったんで。

 無論、腐ってはない――と思う。それにほら、食べ物って腐りかけが一番美味いって言うじゃん! だから大丈夫だって!!

 と、一人でそんな言い訳をしつつ祠に置く。


「あ、ちゃんとお箸もつけとかないとな」


 いらぬ心配かもしれないが、一応置いておく。

 それから俺は、ゴツゴツした地面の上にゴザを敷き、その上に正座をし、崇め奉るようにハハァと土下座に似たような行動を行う。これがあっているかは分からない。

 しかし、相手を敬う気持ちがあれば何か反応があるかもしれない。

 が、反応なし。


「そういや、この祠随分汚いな」


 汚れが気になった俺は、ポケットからハンカチを取り出して軽くホコリやら葉っぱを落とす。


パサッ!


 同時、俺は何か落ちたのを見逃さなかった。それは、一見お札に見える。


「……何だコレ? ま、いいか。どうせ破れかけてるし汚いし……」


 という、軽い気持ちから俺はこれを放る。

 その後も、俺は滝から汲んできた水でせっせと祠を掃除。

 数時間が経過してようやく祠はピッカピカになった。うん、満足。

 結果的には、お札を全て剥がしてしまう結果になったが、お札が貼ってあった所にも汚れがあったし、いいよな?


「落書きもしっかり落ちたな」


 何だかよく分からない落書きが祠に書いてあったのだが、それも消した。赤い文字で、まるで血で描かれているようで不気味だったので消したかったのだ。


「あ、すっかり儀式を忘れてた。どうしよ、このままじゃ俺……祠を掃除しにきたボランティアじゃん」


 今頃当初の目的を思い出した俺は、儀式の事について悩み続けた。変な踊りもやったが効果なし。

 ラノベから得た呪文を唱えもしたが、洞窟から反響した自分の声が聞こえて恥ずかしくなっただけだった。穴があったら入りたい……あ、ここ穴か。

 と、その時だった。


【ニョホホホホホホホホ!】


 何やらおかしな笑い声だが、どこから聞こえてくるのか分からない。

 すると、祠の真上がぼやけだし、そこに何かが形成される。

 そうして淡い光を放ちながら姿を現したのは、巫女装束を身に纏う幼い子供だった。


(わらわ)を目覚めさせてくれた事、感謝するぞ人間よ】


 うわ、喋り方完璧ラノベで見た事あるよ。何かのコスプレかな?


「あの、君は誰?」


【馬鹿者っ!】


「え」


【偉大なるこの妾に向かって「君」とは、何たる無礼者……。妾に供物を捧げ、清めてくれた上に崇高な踊りを見せたから出てきてみれば……】


 ん? 供物に清めに踊り? それって……。

 思い当たる節があった俺は、ふと疑問に思った事を訊ねる。


「それってもしかして、祠の事?」


【祠? 何を言うておる。これは墓じゃ。妾のな……。ここは光も何も届かん。漂うのは冷気と闇のみ。あるのは静寂。光は一切ありはせん。そんな妾に、お主は面白い物を持ってきた。まっこと、雅であったぞ? お主の奇妙な宴も興味が湧いた。また見せて欲しいものじゃ】


 なるほど、これがロリババアというものなのか?

 てか、俺のあの踊りがそんなに興味深いのか? 貶してるようにしか聞こえないぞ。


「そ、それはよかった。ところであの……あれが墓ってどういうこと?」


 そりゃそうだろ、俺が掃除したのは祠ではなく墓だったということだ。


【妾は死んだのじゃ。もう何千、何万年も前にのぅ。じゃが、妾の無念は晴れずこうして魂として残っておる。所謂霊じゃな。そして妾は、ずっと待っておった。妾の力を授けるに相応しい器をな……それがお主だったというわけじゃ】


 一体こいつは何を言っているんだ? 妾の力を授ける……? ん、力? それってまさか……。


「まさか、それって……主人公補正のことか!?」


 思わず俺は、歓喜して声を張り上げる。


【うぅ、うるさいのぅ。そうじゃ、それじゃよ。この力は妾では持て余してしまうのじゃ。だから、誰かに与えたかったのじゃが、なかなか見つからんでのぅ】


「それは可哀想に!」


 俺は、心にもない事を口にする。


【おお、分かってくれるか! やはりお主は妾の見込んだ(おのこ)じゃ】


「じゃあ、くれるのか!?」


【うむ、お主に与えよう! 妾のこの力を!!】


 こうして俺は得る事が出来た。主人公補正の力を!!

 よし、これで今から俺も主人公補正のついた主人公だ!!

 俺は歓喜した。そりゃそうだろ。誰もが望む最強チート能力を、平凡な俺ごときが手に入れたんだぞ? やはり、クラスのやつが噂してたのは本当の事だったんだ。


【……此奴(こやつ)ならば、今までの奴よりは大丈夫じゃろう】


「ん? 何か言った?」


 この時俺は気づいていなかった。この巫女装束を身に纏ったロリババアが、どうしてこんな墓にいるのか。そして、無念だった理由、墓に貼られたお札、書いてあった謎の落書き。

 その全ての理由に、俺はやがて気付く事になる……。




――×××――




「ほら、起きなさい! いつまで寝てるの、タオ?」


「う~ん、後十分」


「お決まりのセリフはいいから、さっさと起きるっ! さもないと、叩き起こすからね?」


「わ、分かった分かった起きるから!!」


 慌てて飛び起きる俺。でないと、俺の命が危ないからだ。

 現在の時刻は十二時。確かにそろそろ起きないとせっかくの日曜日を無駄にするな。

 ふと周囲を見渡すと、腰に手を添えた制服姿の少女。

 彼女は俺の一つ上の姉で『野良部(のらべ) (あおい)』。俺と同じ高校に通う、高校三年生だ。運動部に所属しているため、日曜日も朝練にでかけることがある。どうやら、今日の部活は午前中で終わったようだ。

 平凡な俺と異なり、顔立ちがとても整っておりプロポーションも抜群の美少女。まぁ、その理由は彼女が俺と血が繋がっていないから。所謂義理の姉弟というやつだ。

 そんな俺が姉に軽く脅されただけで飛び起きたのには、理由がある。先程も言った通り、俺の命が危ない。これは、そのままの意味で、起きない場合は、蒼姉さんの会得しているあらゆる武術でこてんぱんにされるからだ。姉さんの力は尋常じゃない。現に、彼女の所属する部活の部員は、簡単に倒されてしまう。男であろうとだ。

 と、そこで俺はふと姉さんの体を見て思った。

 俺が知る主人公補正の中には、有名な物でこんなのがある。



・相手の胸に触れたり揉んでも、事故で許されてしまう。



 これだ。本来ならぶん殴られるか何かあるはずなのに、最近の主人公はこういうのが多い。

 主人公補正を手に入れた俺ならば、これが可能なのでは?

 と、俺はふと姉さんの顔を見据える。


「ん、何?」


 少し訝しむ姉さんだが、警戒心は皆無。ようし、物は試しだ。

 俺はよいしょとベッドから立ち上がると同時、わざとよろめいて姉さんの方に倒れ掛かる。


「きゃっ」


 髪の毛をポニーテールに結い、少しクールな雰囲気の蒼姉さんから漏れる声に、俺は思わず歓喜する。

 そして――。


 むにゅっ。


 その豊満な胸を鷲掴みにした。

 あぁ、すごい。手からはみ出るこの質量。本来なら触れることさえ出来ないこの未知の物体に、俺は今触れている。

 これほどまでに嬉しい事があろうか? ああ、ホント、あのロリババアには感謝しないと――。


 ドグォッ!!


「ふごッ!?」


 あれ? おかしい、顔面がとてつもなく痛い。いや、そんなはずがない。だって俺は、今頃胸を揉みしだいていて、姉さんに……。




『きゃっ、ちょっと何やってるのよタオ!』


『ごめん、姉さん。ちょっとふらついちゃって……』


『もぅ、気を付けないとダメよ?』




 こんなのを期待していたのに、一体全体どういうことだ? 主人公補正が効いてない? いや、そんなはずは……。


「ちょっと、いきなり何すんの!? サイッテー! もう知らないからっ!!」


 バンッ!


 そう言って蒼姉さんは出て行った。

 一体何がいけなかったんだ。好感度の問題? ルートをミスった? いや、そもそもこの現実世界(リアル)()いて、そんなもの存在しない。だとすれば、主人公補正が効いてないということか?

 だが、確かに一昨日俺はロリババアから力を授かったんだ。いや、大して見た目は変わってないし漲る何かも感じないけど。まさか、約束を(たが)えた? うんにゃ、それも考えにくい。だって、あいつ自身も所有してる力をうざがってたし。

 結局俺は、顔を腫らした状態で昼食を済ませた。

 今日は日曜日だが、何だかいい心地がしない。

 そうだ、こうなったら癒しを求めよう!




 俺は現在、リビングにいる。表向きはテレビを見ている事になっているが、実際俺の視線はテレビ画面には向けられていない。ではどこか? それは、花園だ。

 シミ一つない綺麗な足。その間に存在する純白のそれは、俺の眼を癒す。まさに、オアシス。

 ちょっと視線を上にやれば、読書に夢中の少女の姿。

 彼女の名前は『野良部(のらべ) (みどり)』。俺の一つ下の妹だ。ちょっと童顔で、眼はくりっとしていて可愛い。俺の通う高校の一年生でもある。

 そんな碧もまた、俺とは血が繋がっていない。そして、義理の妹のパンツを見て目の保養をしている俺は、なんとも悪いやつだ。

 だがしかし、主人公補正の力があればそれも可能なのだ!



・女子のパンツを見ても、ついうっかり見えちゃったで誤魔化せる。



 この力、素晴らしいとは思わんかね? フッフッフ、まさに眼福眼福! 蒼姉さんの場合はなんか失敗したけど、開始から二分経ってもバレてる気配ないし、大丈夫っぽいよね!

 と、俺が鼻の下伸ばしていると、声がかけられる。


「お兄ちゃん、何見てるの?」


「え? あ、いや……」


 碧に声をかけられて、俺は思わず視線をそらす。しかし、碧は疑いの目を止めない。ま、まさか……バレた?

 最悪の事態を予想する俺。


「今、見てたでしょ私のパンツ」


「な、何の事かな?」


 少し棒読みで俺は答える。が、碧は更なる問いを投げかける。


「何色?」


「白! ――あ」


「お兄ちゃんの……えっちぃぃぃっ!!」


バシンッ!!


 痛い、やっぱりだ。やっぱりおかしい。

 本来なら――。




『今、見てたでしょ私のパンツ』


『な、何の事かな?』


『もう、そんなに見たいならそう言ってくれればいいのに』


『え?』


『ふふっ、お兄ちゃんの……えっち♪』




 こんなのを期待してたんだが。……謎だ。


「サイテーだよ、お兄ちゃん!」


「いや、だって……碧がミニスカなのに、ソファに足を立てるから見えただけで……」


「私のせい? ヒドイよ、大っ嫌い!!」


 何故、こうなる。

 俺は、リビングから出て行く義理の妹の後ろ姿を、ようやく引いてきたはずが再び出来てしまった腫れを押さえながら見届けた。




――×××――




「どういうことだよ、それ!!」


【だから言うておろう? これは、呪いじゃ】


 俺は昨日の祠――もとい、墓のある洞窟へ赴いていた。そこには、あのロリババアもいた。

 さっきから俺が声を荒げているのには訳がある。

 理由は、彼女が俺に与えたのが能力ではなく、呪いだからだ。それも、『主人公補正』という名前ではなく、『囚人候補生』という全くの別物。

 その力は、行う行為全てが最悪の結果をもたらすというものだった。

 つまり、胸を揉めば殴られ、パンツを見れば殴られという事だ。だが、これはまだまだ序の口らしい。呪いが定着すると、こんなものでは済まないらしい。

 最終段階に行くと、警察沙汰になりお縄を頂戴となるそうだ。

 つまり、俺の人生がBADENDということになる。


「何で、そんなものを俺に与えたんだよ!!」


【ニョホホホ、お主が自分で望んだのじゃろぅ?】


「俺が望んだのは主人公補正だ!」


【じゃからちゃんと囚人候補生をあげたであろう?】


 そう、つまりあの時俺が要望した力は、向こうの勘違いだったのだ。噂自体間違っていたのだ。あれは、主人公補正の力が手に入るのではなく、囚人候補生の力が手に入るという事だったのだ。

 完全に騙された。


「どうやったら解けるんだ、この呪い!」


 俺は焦燥感に駆られてロリババアを問い(ただ)す。

 が――。


【解けはせぬ。この呪いは妾の無念のようなもの……お主ごときにそう易々と解かれてはたまらぬわ】


 そう言ってロリババアは、俺に向かって何かを投げつけた。危うく怪我する所だった俺は、慌ててそれをキャッチして相手を睨み付ける。


「危ねぇだろが!!」


【ふんっ、妾を苦しめた罰じゃ!!】


「何ッ!?」


 言いがかりだと俺は相手をさらに睨む。しかし、ロリババアは逆に俺を睨み返してきた。


【お主、あのけったいな供物に毒を盛りおったな!!】


「毒?」


 訳が分からない。あれはただのカツ丼だ。


【そうじゃ、完食した時には手遅れじゃった。突然妾の腹が、ぎゅるるるる! と唸り声を上げ始めたのじゃ!! その後はもう――ああああああああああああああっ!! 考えるだけで怖気が走るのじゃっ!!】


 その言い分でようやく理解した。どうやらあのカツ丼、腐っていたらしい。

 腐ってやがる……遅すぎたんだ。


「それは悪い事したな――って、いい気味じゃねぇか! お前こそ、俺になんてもん与えてくれんだ!! おかげさまで、俺は家族崩壊しそうなんだぞ!?」


 実は、姉の件も妹の件も全て両親に話された。その後の叱られっぷりったらない。溢れる涙を零さないようにするのが大変だった。


【ハッ! お主の苦しみなど知った事か! とにかく、お主に与えられた呪いは解けぬ!! 諦めて牢屋に入れられるんじゃな、ニョホホホホホホ!!】


 最終的には完全に呪いの事をほっぽり出して消えてしまう始末。なんという身勝手なロリババアだ、()せぬ。

 とにかく、なんとかしないと。そうだ、何もしなければいいんだ――って、それニートじゃねぇか!!

 俺は大きくため息をついて帰路についた。

 路地を歩く俺を、夕日が照らす。茜色の空はとてもロマンチックなのだが、俺の気分は晴れない。

 ただただため息が漏れるだけ。

 家に帰った俺は、思案した。これからどうすればいいのだと。

 囚人候補生という呪い。最初は殴られる叱られるで済む。しかし、段階を踏んでいくと警察沙汰になり、最終的には豚箱。おおぅ、想像しただけで身の毛がよだつ。




――×××――




 一か月後、俺は冷たい床に座っていた。四方を壁に囲まれた場所。目の前には鉄格子。周囲には、ベッドとトイレ。

 そう、俺は豚箱に入れられていた。

 この一か月内に俺は、女子の着替え中に教室に突入したり、階段を上っている女子のパンツを見てしまったり、階段から転げ落ちた時に女子を巻き込んで相手に怪我をさせたり、不良に絡まれている女子生徒を助けようとしてボコ殴りの入院送りになり、風呂場へ向かった際に姉の裸を見てしまって制裁を受け、妹がトイレの鍵をかけ忘れて俺が怒られ、しばらく留守にしていた幼馴染が帰ってきて俺を呼び出したかと思えば、関わらないでと言われ……挙句の果てには子供達と遊んでいて何を勘違いされたのか、警察の方に御用となった。

 そんなこんなで俺は、ここにいる。

 あいつの言っていたことは現実になった。最悪だ。いっそのこと、死んだ方がマシだ。

 ここには大好きなラノベもない。ラノベを元ネタにしたアニメもない。

 と、その時、あのロリババアの声が聞こえた。


【お主に、チャンスを……くれてやろう】


声がする方を向けば、ロリババアの声がした場所に巫女装束を身に纏った幼女が姿を現す。

 チャンス? もしかしてそれは、機会ということか? やり直せるのか?


【お主ならば、この呪いを覆せるやもしれぬと思ってな。この呪いは、解呪出来れば願いに変わるのじゃ】


 何だ、それは? 解呪? 呪いを解けば、願いに……?

 それならやってやる、必ず俺は……呪いを解いて主人公補正を手に入れてやるッ!!

 こうして俺は、ロリババアの言葉を信じて呪いを解く事を決意するのだった……。

というわけで、決意で終了した今回の短編。本来主人公は補正のおかげで様々な苦難を乗り越えたりするはずなのに、この主人公は呪いで補正効かず。とうとうお縄に。そんな可哀想な主人公の呪いが解けるかは、作者の気分次第。

最近、補正という言葉を見かけるので書いてみました。そこそこ需要あれば連載してみます。

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