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イケメン騎士に拾われたけど田舎で暮らす。  作者: 和月
イケメン騎士に拾われたけど田舎で暮らす。
5/9

おまけ:「フラグは最初から立っていた1」

サイラスのターン(過去~現在)

王都から徒歩で丸1日かかる距離にある、言うほど小さくもないが町と呼ぶには聊か小さすぎる村。

それが、サイラスの生まれた村だった。

若い頃は同年代の男たちが皆想いを寄せていたと言われる美人で頭の良いの母と、無口で不器用だが屈強な身体と優しい心根を持つ父との間に生まれたサイラスは、母から譲り受けた美貌と聡明さと、父から譲り受けた人には判り辛い優しさを持ち合わせた子供だった。

日に透けるほど薄い金色の髪に、青空のように澄んだ色の瞳。すっと通った鼻筋と形の良い唇。

サイラスの奇跡的とも言える整った容姿は村人とは思えないほど浮いていた。

それゆえに、同じ年頃の子供からは遠巻きにされがちだった。

決して仲間はずれにされたりいじめられたりするわけでもなく、かといって心の許せる距離まで近づいてきてくれるわけでもなく。

サイラスは物心ついた頃からそのことをずっと不思議に思っていたが、歳を取るたびにそれが当たり前となり、今では父に似て口が達者でない故に人とのほどよい距離感に安堵したりもしていた。

今更、どのようにして村の同じ年頃の者たちと親しくなれというのか。

それはサイラスにとって無理な相談だった。

10歳を過ぎる頃になると、村の娘たちはさらにサイラスから距離を取るようになり、その上遠くから視線を投げかけてくるようになった。サイラスにとっては全く理解の出来ない視線である。

嫌っているわけではないらしく、何故か両親や隣に住む幼馴染を経由して手作りお菓子などをくれるので、首を傾げはするが有難く受け取っていた。

時折幼馴染からは「爆ぜろ!!」と謂れの無い言葉の暴力を受けたが、彼はなんだかんだ言いつつずっとサイラスとつるんでいたから、これもひとつの友情の形なのだろうと受け止めた。

ひとつ年上だったその幼馴染は、15歳の誕生日の日に村から旅立っていった。

『俺にしか出来ないことを捜しに行く!』

そう言って笑顔で手を振って旅立った幼馴染の背中を、サイラスは少し寂しい気持ちで見送った。



サイラスが15歳となり成人として認められた日、生まれ育った村を出て王都を目指すことになった。

村での居心地が悪かったわけではない。

両親が経営している小さな宿の手伝いを続けて、そのうち跡を継いでも良かった。

だが、サイラスは王都で騎士となることを決意した。

物語に出てくる英雄に憧れたわけではなく、都会での暮らしに夢を見たわけでもない。

単に、たまたま村に来ていた叔父の勧めのままそう決めた。

『お前ほど身体が強くて体力もあってその上容姿もいいヤツなら騎士になるのがいいだろう』

容姿のことはともかく、身体の強さと体力に自信のあったサイラスは騎士になるのも良いかと思えた。

騎士となる為に提出する書類に書く保証人の欄は叔父が名前を書いてくれるというし、騎士の試験を受けるまでの1ヶ月の間の剣術指南と衣食住も任せろという万全のお膳立てを、サイラスは有難く受け取ることにした。


村を出て1ヵ月後、サイラスは見事騎士の試験に合格した。

偶然騎士の試験を見に来ていた王女に気にいられ贔屓で試験を通ったという噂が流れたが、それを全く気にしないサイラスの涼しげな態度と彼の文句の付け所のない実力に、噂はやがて消えうせた。

同期の騎士たちからのサイラスの評価は、「スゲェ美形だけどスゲェ地味な性格の器用貧乏」だった。

元々村では必要以上に喋ることなく、家の手伝いを文句ひとつ言わずしていたサイラスだ。

派手な容姿に似合わず、中身はいたって真面目で素朴。

手先が器用で、よく騎士仲間に頼まれて衣服の解れなどを縫って直してやっては感謝されていた。

密かに付けられた渾名(あだな)は騎士団独身寮の影のオカンだ。そしてその渾名をサイラスは生涯知ることはなかった。



騎士となり2年が過ぎた頃。

サイラスは今日も涼しげな顔で田舎から息子夫婦を訪ねてやってきたという老夫婦の道案内という地味な仕事をこなしていた。

地方とは比べ物にならないほどの人の数の中でもサイラスは一際目立つ存在だったが、仕事場と寮を行き来するだけの面白みも刺激も無い生活を送っていた。

唯一の刺激といえば、サイラスが王都へ来たときに一緒の宿屋に泊まっていた縁で今も何かと顔を合わせる機会が多い友人の存在だった。

神官になる為に王都へやってきたというその友人は、黒髪に焦げ茶色の瞳という何の特徴もない容姿だったがその表情はくるくるとよく変わり、口も達者で一言喋り始めるとサイラスはひたすら聞き役に徹するしかなかった。

ハルトがひょっこりと休憩中のサイラスの前に姿を現したのは、2ヶ月のうち1度だけ取れる連休の前日だった。

「やぁ、サイラス。元気そうだね。」

「久しぶりだな。」

前に会ったのが3ヶ月ほど前のような気がするので、週に1度は神殿を抜け出していたハルトにしては間が空いたなというのがサイラスの認識だった。

ハルトは正式な神官となった後居住を神殿内に移していたが、ちょくちょく神殿を抜け出してはサイラスにちょっかいをかけたりしている。

曰く、『神殿って思ってたより退屈な場所でね。自室で祈りを捧げるって言っとけば朝まで邪魔されずにこうして外に抜け出せるってワケ。』

随分とモノグサな神官がいたものだ。

神官の地位は1位から5位まであり、最初は5位から始まる。

ハルトは3位。2年前に神官となった者が2つも位を上げていることにサイラスはそれが異様な出世速度であることに全く気付いていなかった。

「ところでサイラス、明日は暇?」

「いや、明日からは連休だから久しぶりに村へ帰ろうと思っている。」

たとえ暇でもハルトの気まぐれに付き合うつもりはなかった。

ハルトはとにかく好奇心旺盛で、王都で起こる様々な事件に首を突っ込みたがる。

せっかくの休日をハルトに潰されたことは数え切れないくらいある。

「そっか。明日は天気が良いから、ゆっくり徒歩で帰るのも良いかもね。」

ハルトはそう言って懐から小さな石がついたネックレスを取り出した。

そしてそれを小さな布袋に入れると、「はい」とサイラスに差し出した。

「獣避けだよ。有難~い神殿のご加護付き。」

ハルトがそう言うのだから、間違いなく加護がついているのだろう。

ただでもらえるものではない。貴族たちが庶民の数か月分の稼ぎをつぎ込んで買う代物だ。

「お代は要らないよ。強いて言うなら、黙ってこれをもらってくれる事がお代かな。」

気前の良い友人の言葉に、サイラスはおずおずとそれを受け取った。

礼を言うサイラスに、ハルトは満足そうな笑みを浮かべた。

次回、「覚醒」(違)

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