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イケメン騎士に拾われたけど田舎で暮らす。  作者: 和月
イケメン騎士に拾われたけど田舎で暮らす。
3/9

どういう展開にするか直前まで迷ってましたが...

元の世界への帰還を考えなかったわけではない。

ただ、その手段を入手しようとすれば少なからずリスクを背負うことになるだろうと思った。

そう、フラグの乱立ってヤツだ。

元の世界へ帰る為の手段を見つけるためには、そういう情報の多そうな場所に行くしかない。つまりは王都へ。っとなると、様々な人とうっかり出会ってしまう可能性が高くなる。

お忍びで街へ繰り出していた王族、異世界のことを研究しているマッドサイエンティスト、異世界からの巫女を心待ちにしている神官、単なるチンピラ、高飛車なお嬢様...数え上げるとキリがない。

そういった可能性を完全に否定出来ない、いや、むしろそういう可能性が大であると言える王都など、私にとっては魔の巣窟と同意義だ。

フラグクラッシャーを自負する私にとって、王都へと誘う言葉などフラグが立つ前兆としか思えない。

よって、最初の頃に何度かサイラスに「観光でもどうだ?」と誘われたが、「人混みは苦手なんだ。それに仕事もあるし」と丁重に、怪しまれないようにやんわりとお断りしていた。

こうしてわたしは、元の世界への帰還をスッパリと断念し、異世界で人生を全うすることを決意したのだった。

幸いにも、程良く田舎であるこの村での生活は至極快適で、今後の人生に不安や不満は無い。

ビバ田舎暮らし。私はこの村に骨を埋める所存だ。



「前から気になってたんだけどさ。」

「ん?」

宿屋の仕事がお休みの日。私は友達であるキャシーとお茶なんぞ楽しんでいた。

なんだか言いづらそうに、だけどはっきりと興味をその顔に張り付かせたキャシーは内緒話をするかのようにテーブルに身を乗り出した。

「あのさ。サワはさ...結婚、しないの?」

結婚。男女の婚姻。日本では女子は16歳、男子は18歳から出来る。

こちらの世界では15歳になった時から結婚が可能だ。

「え~...結婚とか、まだ早くない?」

日本では最近晩婚化が進んで婚活なんて言葉をよく耳にしていた。

でも、30代でも未婚なんてザラだし、私も高校大学を卒業して会社に就職して念願の海外旅行を思う存分楽しんで、結婚はそれらに満足したアラサーあたりで構わないかなと思っていた。

そんな現代日本の感覚で言った私の言葉に、キャシーは目を見開いて驚いていた。

「...サワ、あんたこのままだといき遅れるわよ?」

「え?いき、遅れ?」

「そう。田舎だろうが都会だろうが、女は15歳の成人を迎えてから20歳までに嫁ぐもんよ。」

16歳の私が異世界へやって来てから3年が経過している。つまり、わたしは今19歳。

「先に言っとくけどね。20歳過ぎた女なんて同年代の男からは見向きもされないんだからね。」

よくて介護が必要な老人の後妻、悪ければ焦ったところを変な男に掴まって一生愛人扱い。

「?!」

キャシーの言葉は、ガツンと私の頭を揺さぶった。

え?!なにそれ?!そんな現実、聞いてないよ!!

っていうか、異世界の結婚適齢期、早っ!!

「全く...あんたって変なところで非常識なんだから。」

「あ、あはは。」

異世界人ですから、という逃げ句はこの場では使えない。

「このワタシですら去年で結婚決めたっていうのに。...まぁ、この村で相手を探すのはちょっとね。」

「え?!なんで?!駄目なの?」

「駄目っていうか...」

そこから明かされる驚愕の事実。

基本的に、村の若い子たちは幼い頃からなんとなく結婚相手が決まっているのだそうだ。

幼い頃から苦楽を共にし、気心も知れてるし、情も深くなっている。

そんな間に他所から来た人間が割って入ると、いくらおっとりとしたこの村でも少なからず波風が立つだろう。

キャシーの言葉に、本日2度目の絶句。

そういえば、ミゲルさんとライアスさんも幼馴染だって言ってた。

「この村でずっと独り身っていうのは、辛いと思うわよ...」

うん、そうだね。この村の人たちは家族仲良し!が基本。

そんな中で私1人だけが家族を持てず、やがて歳を取り寂しい老後を迎える。下手したら孤独死だ。

そういえば、とキャシーが語りだした内容はもっとエグかった。

大分昔のことだけど、どうしても1人あぶれて結婚出来なかった女性がいたそうだ。

その女性は20歳を過ぎ、30歳を過ぎ...周りの友達がみんなそれぞれ子供を産み家族を作って行く様を目の当たりにして、ついに家に閉じこもったまま出て来なくなったそうだ。

「...」

本日、3度目の絶句。

「だから、ね?あんたもそろそろアイツと真剣に向き合った方がいいわよ?」

キャシーの有難いご忠告は、私の耳を右から左に擦り抜けていった。



それから何日か、私はどんよりと暗い顔をして思い悩んでいた。

結婚―――まさかこんなところで大きな落とし穴があるとは思わなかった。

異世界での習慣にはすっかり慣れたつもりでいたけど、結婚のことはノーマークだった。

ただでさえ「アラサーになってから考えようっと」と思っていた事が急に目の前の問題になって現われたのだ。

私に残された猶予はあと1年もない。

正直、焦りまくっていた。

「...どちらさまですか?」

宿屋での仕事を終えて帰宅して、お風呂で一日の汗を流した後。

コンコンと控えめなノック音に気付いた私は恐る恐るドアに忍び寄った。

私の問いかけに答えたのは意外な人物だった。

「俺だ。」

「サイラス?」

ドアの向こうに立つ人物が誰なのかを声で確信した私はあっさりとドアを開いた。

目の前には思った通りサイラスが立っていた。

「こんな時間にどうしたの?次のお休みはもう少し先だよね?」

「...そうなんだが。」

外はいつのまにか雨が降り出していたらしく、サイラスの髪と外套がすっかり濡れそぼっていた。

「と、とにかく中入って!風邪引いちゃう。」

「あ、あぁ。」

気後れしたように足取りが重いサイラスの腕を引っ張って家の中に引きずり込んで、お風呂を勧める。

サイラスは拒否したが、このままだと確実に風邪を引くからと無理に風呂場に押し込み、ふぅっと息を吐き出す。

サイラスがどうしてこんな時間に私の家を訪れたのか、その理由を聞くのはお風呂の後だ。

それよりも、私はここ最近ずっと思い悩んでいたことの方が重要だった。

あれから色々と考えて、この村で結婚相手を見つけるのはまず不可能だという結論に至った。

ならば、どこで探すのか?

私はあまりこの村から移動出来ない。うっかりフラグが立ってしまう可能性があるからだ。

この3年と少し、全く異世界トリップでのお約束事が起こらないことに安心していたが、今ここで焦って行動に移せば何かが起こってしまいそうで怖い。

っとなると、私が結婚相手を捜す手段はごく限られてしまう。

―――サイラスに紹介してもらうしかない!

その結論に至ったのは、ついさっき。ドアを開けてサイラスの顔を見た瞬間だった。

まさに天啓である。閃いちゃったのである。

私はサイラスがお風呂から上がってくるのを今かと胸躍らせながら待ち構えた。

「風呂、ありがとうな。」

お風呂から上がったサイラスは上気した頬を少し緩ませてそう言った。

くそ、風呂上りの美形の色気パねぇな!とは口には出さず、にっこりと微笑み返す。

「お茶入れたから、どうぞ。」

「すまない。」

いつにかく殊勝な態度のサイラスに首を傾げそうになるが、それよりも今は例の話だ。

テーブルを挟んで向かい合うようにい座り、しばし沈黙する。

シトシトという静かな雨音と、サイラスがお茶をすする音だけの空間で話を切り出したのはサイラスだった。

「実は、来月から1年間、国境近くの砦に派遣されることになった。」

「えぇ?!」

ガタン、と思わず立ち上がりかけた所為で椅子が派手な音を鳴らす。

「ど、どうしてそんなこと急に決まったの?」

はぁっと重い溜息をついた後、サイラスが説明を始めた。

国境の砦には毎年城から騎士が数名派遣されるらしい。まぁ、俗に言う研修みたいなもんだ。

それは大体20歳前後で、騎士となって3年以上5年未満の独身者が選ばれるらしい。

サイラスは今年で騎士6年目。わずかに条件からハズれてはいたが、他に適任者が見つからなかったので選抜されたのだとか。

もしかして、今すぐ結婚したら派遣は無しってことになるのかな?そう思えるくらい、サイラスが次に吐き出した言葉には焦りと後悔の念が伺えた。

「くそっ、こんなことになるならもっと早くに...」

あぁ、わかります。王都でモテモテなサイラスは相手を絞りきれなかったんですよね。

20歳と言えばまだまだ遊びたい盛り。不公平なことに、この世界では男に結婚適齢期はあって無いようなものなのだそうだ。

そりゃあ、女はね。子供産まなきゃいけないからね。若けりゃ若いほうがいいよね。

ケっと心の中でやさぐれつつ、そんな場合ではないと気を取り直す。

来月から1年間、サイラスが居なくなる。ということは、1年間は私の結婚相手を紹介してもらえなくなるということだ。その1年の間に私は20歳を過ぎてしまう...

いかん、これはいかんぞ!!緊急警報発令(エマージェンシー)だ。

私まだまだ若いし~?なんていう考えは最早捨て去った。

相手をじっくり選んでる時間もツテも無い。

―――後から思えば、この時の私は目先のことに捕らわれ過ぎていて我を見失っていた。

「サイラス。1年も遠く離れるなんて、私...」

サイラスは異世界へ来た私に深く追求することなく、衣食住を与えてくれた。

温かい家族みたいな存在を与えてくれた。もちろんサイラスもその中の1人だ。

サイラスは性格がすこぶる良い。多分美形じゃなかったら惚れてる。

サイラスは美形だけど、私がこの世界で唯一心を許せる美形だ。

美形ゆえにいつフラグが立つ切欠になるかわからないから、サイラスは恋愛対象としても結婚相手としても論外だが、彼の知り合いの中にお奨めの人がいるならば充分信用に足る。

兄さん、と心の中で呼んでも構わないだろうか?

そんな頼りになる兄さん的存在のサイラスが勧めてくれる人物なら、私は顔を合わせずとも結婚を即決出来るだろう。

―――重要なことなのでもう一度言っておくが、この時の私は目先のことに捕らわれ過ぎていて我を見失っていた。わたしにとって本当に重要なことは、結婚などではない。フラグ回避なのだということがすっかり頭から抜け落ちていたのだ。

「1年も離れるのなら、その前に私に―――」

「待てサワ。その言葉の続きは俺から―――」

「私に結婚相手紹介してください!!」

何か言おうとしたサイラスの言葉を遮って、一気に用件を言ってからガバっとテーブルスレスレまで頭を下げる。

「―――は?」

なんだか気の抜けたようなサイラスの声が聞こえたが、恥を忍んでのお願いなのだ。

今一気に言わずして何時言う?!

「私、もう19歳だし!いき遅れとか言われたり、孤独な老後を過ごすなんて耐えられないし!どうか平に、平にお願い致しますぅっ!!」

言った!言い切った!

優しいサイラスのことだから、これだけ頼み込んだら「仕方ないな」と結婚相手を見繕って紹介してくれるだろう。

だけど、返って来た言葉は存外に冷たいものだった。

「...サワは俺の同僚と結婚したいのか?」

騎士と結婚したいの?と聞かれてハっと顔を上げる。

違う、そうじゃない。私は―――

「騎士じゃなくて!街で知り合った人とか。欲を言えば小さなお店とか営んでる家庭の次男とかでこの村にお婿さんに来てくれるような...っイエ!そんな贅沢は言いません!」

ドス黒いオーラを背負っているかのようなサイラスにささやかな希望を即座に断念する。

え?もしかしてこの世界って異性に結婚相手を紹介してもらうのはやっちゃいけないことだった?

だってサイラスの様子がハンパなく恐ろしいことになっている。

「そうか...サワは結婚相手は誰でも良いんだな?」

いえ、決してそういうわけでは...とも反論出来ないこのツンドラ雰囲気。

「俺のこの3年間の努力と我慢は一体何だったんだろうな...」

ふっと遠い目をするサイラス。

えっと、努力と我慢って...一体何のことですか?

「えぇっと、もしかしてサイラスって...私のこと―――」

まさかそんな、と思いつつ戸惑いがちな視線を向けると、サイラスはよくわからない濃密な気配を撒き散らしながら目を細めた。

「私のこと心配して今まで独身だったの?あいつが嫁に行くまで俺も結婚しないぜ的な―――ひぃっ?!」

何故か突然ガシっと下顎を大きな手で掴まれた。

「―――まさかそんな結論に達するなんて、な。よほど身を持って思い知りたいらしい。」

そう言ってあっさり私の下顎を解放したサイラスは素早い動作で軽々と私の身体を抱きかかえた。注意書きを加えるならば、重い俵を運ぶときのアレだ。決してお姫様抱っこにはあらず。

さすがにこんな流れになるとサイラスの意図はわかる。俄かに信じがたいが、いつの間にかフラグが立っていた、だと...?!

「ぎゃあ?!ちょ、何?待って!タンマタンマ!」

「...色気が無いってことは初めて会った時から知ってる。」

私の制止なんて耳に届いていない様子でズカズカと寝室に向かうサイラスとのその後の対決の内容は、ここでは語らないことにしようと思う。

何故かって?あんまり詳しいことを思い出したくないからだよ!!

とりあえず私の名誉の為にR指定だけは避けることが出来たと明言しておこうと思う。



サイラスの突然の訪問から1ヵ月後。

当初の予定通り、サイラスは国境の砦に旅立っていった。

これで1年は平穏な日々が送れる。だけど、その後は?

サイラスは最後にこう言っていた。

『俺は3年待った。あと1年くらいなんてことない。』

どこか吹っ切れたような晴れ晴れとした表情のサイラスに私が顔を引きつらせたのは仕方ないと思って欲しい。

サイラスは非常に残念なことながら、本気で私のことが好きなようだ。

そこまで執着するようなところは私には無いと思うのだが、これは所謂異世界トリップ補正というやつだろうか?だとすれば迷惑極まりない話だ。全力で拒否したい。

何にせよ、サイラスが私を好いてくれていることに変わりはない。私だってサイラスが美形でなければ恋心を抱いていただろうと言えるくらいには好きだ。なので、このままこの村に居座り続けたらうっかり絆される可能性も否定出来ない。

私としては、イケメンと結婚し王都に移り住むという何かの序章的な流れには真っ向から立ち向かわせてもらいたい。

なので、今ひっそりとこの村を出る準備をしている最中だ。

ここよりももっと田舎。いっそのこと山奥なんてどうだろうか?

生活が厳しくなってもいい。滅多に他所の人が訪れないような場所でもいい。

嫁ぎ遅れ?上等だこの野郎。自分の命より大切なものなんてこの世には無いよね?!

私はただこの異世界で平凡で平穏な人生を全うしたいのだ。




異世界へ来てから3年と少し。こうして私は見知らぬ場所へと旅立つことになった。

この先何が待ち受けているのかはわからない。護身術ならサイラスに教えてもらったものがあるから、それを存分に役立たせるつもりだ。

もちろん不安もある。だけど、ちょっとだけワクワクもしたりする。



―――あれ?これってフラグじゃない、よね?

※これで終わりにしようと思ってましたが、続き書き始めました。

亀更新になるとは思いますが続きを読んでくださるという方は今後もよろしくお願いします。

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