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恋姫†演義  作者: おまる
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第三回 「崩御、廃帝、魔王誕生」 -1

第三回は、華琳様も一刀君もほぼ出てきません。

この回は飛ばして、次回から読んでもらってもそんなに影響はないかもしれません。

重要な出来事には違いないので、流れを大事にしたい方は是非お読み下さい。


時の皇帝である霊帝には、現在二人の子があった。

一人は正妻、何皇后との間にもうけた長子、劉弁。

そしてもう一人は側室、王美人との間に生まれた劉協である。

他にも子は生まれていたが、生来身体の弱い者が多く、続けてその命を失っていた。

故に、現在皇子と言える子は二人。


この時代、既に長子相続と言う原則は既に崩れ始めていたが、基本的には正妻との子である劉弁が次代の皇帝となる筈であった。

しかし、ここに一つの問題があった。

この劉弁、軽薄で威厳がなく、その上言語能力にも欠ける有様であったのだ。

対して、劉協は幼いながらも利発で、多くの者に好かれていた。

周囲の者は勿論、霊帝さえもこの劉協に後を継がせたいと望んでいる節があった。


これに焦りを覚えたのは何皇后である。

屠殺業を営む実家で育った市井の人間である彼女は、とりわけ上昇志向が強かった。

気が強く、策謀にも秀でていたことから、数多の対抗馬達を押しのけ、皇后の位置迄到達したのだ。

そんな彼女が、己の子が皇帝となる事を望まずにいられるであろうか。——否。

彼女は、そこで動かぬほど暢気な女ではなかった。

策謀家としての手腕を発揮し、彼女はまず王美人を亡き者とした。

劉協は竇太后に預けられる事となり、霊帝から距離を置かせる事に成功した。

とは言え霊帝の気が変わるわけでもなく、このまま二人の子が成長し、その差が顕著になればまず間違いなく劉協が後継者に指名される。

だが天運をも彼女は味方につけた。



——霊帝の崩御である。























「唐突に陛下がお亡くなり遊ばれた。当然、未だその悲しみは癒えぬ。だが、その間にも世は動く。早急に次代の皇帝を立てねばなるまい」


宦官達を前にそう言葉を発したのは、何皇后の兄、大将軍何進である。

その隣には何皇后。

彼女は黙って悲しみに耐えているようであった。

もっとも、その姿が見せかけに過ぎぬことは、この場にいる者であれば誰もが知る所である。

何進が言葉を続けた。



「候補としては、劉協殿下、劉弁殿下のお二人であろう。だがどちらもまだ幼く、何れにしても我らがお助けせねばなるまい。——陛下も、後継をご指名されておらぬ。で、あればやはり長子である劉弁殿下を立てるのが筋と言うもの」


「待たれよ」



独壇場になりかけた場を制したのは、宦官、蹇碩であった。

鼻白む何進に鋭い視線を送りながら、彼は続けた。



「実は、陛下のご遺言を預かっている」


「何だと……!?」



場がざわめく。

この蹇碩は、霊帝からの信頼が最も厚かった宦官である。

それは、黄巾の乱で功績を挙げた曹孟徳らを始めとした西園八校尉の司令官——上軍校尉に任じられる程であった。

上軍校尉の指揮権は大将軍に勝る。

言わば、この場に置いて最も地位の高い人間であった。



「陛下は、後継に劉協殿下をご指名された」


「何ですって!?」



それにすぐさま反応したのは何皇后である。



「嘘よ!妾は陛下から、そのような言葉を聞いたことがないわ!」


「——当然でしょう。如何に皇后とはいえ、貴方が劉協殿下を目の敵にしていた事は誰もが知る所。そんな貴方に、陛下がお伝えされる筈が無い」


「……確かに、妾は劉協殿下を劉弁殿下と同じようには扱えませんでした。しかし、やはり実の子はかわいいもの。母が子を愛して何が悪いというのです!?……それに、子を余りに愛していただけで、劉協殿下に思うところはありませんわ!」



そう言って泣き崩れる。

——茶番であった。

確実な証拠はなかったものの、劉協の母、王美人に死を強要したのは彼女である事は明白。

あるいは、陛下はこの女に暗殺されたのではないかとまで思う者がいる程である。


泣き続ける彼女を庇いながら、何進が怒気を上げた。



「口を慎め、蹇碩!宦官風情が、何皇后を侮辱するか!」


「私は事実を言った迄」


「何が事実だ。そもそも、陛下のご遺言もお主以外は聞いておらぬのだろう?ならば、それが貴様のでっち上げでないと、どうして言い切れる!」


「なんだと……?」



一触即発の空気が流れる。

この場は完全に、二つの勢力に分たれていた。

遺言を盾に劉協を押す蹇碩派——董太后もこれに加わった。

長子であることを理由に劉弁を押す何進派——無論、妹の何皇后もこれに加わった。

もはや主張は平行線。

こうなれば、やはり物を言うのは背景の軍事力であった。


表面上で見れば、上軍校尉である蹇碩が何進を上回る。

しかし、実情は違った。

後継者争いを予測した蹇碩はあらかじめ、西園八校尉達に協力を求めていた。

だが、その結果が芳しくなかったのだ。



「なんでこのわたくしが宦官なんかの下につかないといけないんですの?寝言は寝て言いなさい、おーほっほっほっほ!」



——と、袁紹。



「これまで私にしてきた仕打ちをもう忘れたのかしら?貴方達の頭は鶏にも劣るようね」



——これは、曹操。


この二人程苛烈な反応ではなかったものの、その他の校尉達も似たような反応であった。

黄巾の乱で名を挙げたのは、清流派の人間が多かった。

彼らは、己が宦官の下に付くことを良しとしなかったのである。



結果、勢力を纏め切れなかった蹇碩は、工作合戦に勝利できなかった。

霊帝崩御より一ヶ月、皇帝の座についたのは劉弁であった。

劉協は陳留王とされ、ここに雌雄は決した。

このような大規模な政争における、敗者の末路は悲惨な物である。

粛正に継ぐ粛正で、蹇碩や竇太后は死していった。


何兄妹の栄華はここに極まる、筈であった。

だが、一度政敵の粛正に区切りがつくと、今度はこの二人の対立が露になっていた。


何進としては、この際に宦官の勢力を一掃してしまいたい。

世論も宦官排斥を叫び、また党錮の禁など弾圧を受け続けていた清流派の官僚達の突き上げもある。

それを利用して、一気に自身の権力強化を狙っていた。


一方、何皇后にとっては宦官は必要な存在であった。

皇帝の妃達は、原則的には後宮に在るべきとされ、政治の表舞台には立てない。

故に、宦官達を操る事でその権力を握りたかった。



まず動いたのは何進である。

これまで、宦官達に排斥されていた清流派の人間を、次々と重職に登用していったのだ。

その中には袁紹・袁術姉妹の名もあった。

敵の敵は味方、の思考である。

曹操も清流派の実力者であったが、彼女の場合は祖父が宦官であったこともあって、登用は見送られた。


清流派の時代が来た、そう喜ぶ彼らであったが——ここにきて、何進の動きが鈍った。

宦官皆殺し、という過激な手段まで叫ぶ彼らに対し、実の母である舞陽君を始めとした一族が、穏便な行動を求めたのである。

権力の掌握は望んでいるが、一族の意向も無視はできない。

板挟みになった彼は、曖昧な態度を取り続けた。


このような態度を許せぬ者が彼の側近にいた。

袁紹、彼女である。



「何将軍、何を怖じ気づいているんですの?そんな姿は美しくありませんわ!直ちに、あの薄気味悪い宦官達をこの世から消し去るべきですわ!」


「しかし、現状では動く機ではないと言わざるを得ぬ。直属軍の創設の為に、諸将を各地に派遣して、募兵して来るよう命じている。彼らが戻る迄は、動きたくとも動けまい」



そう、何も彼が動かぬのは一族の目という理由だけではなかった。

行動を起こすには、純粋な軍事力に欠けていたのだ。

しかし、袁紹はそれを笑い飛ばす。



「おーほっほっほ。そんなもの、地方軍を呼び戻せば済む事じゃありませんの。」


「地方軍か……不可能ではないが、しかし……」


「まだ迷っているんですの!?機会を目前にしながらそれを逃すなど、無能を通り越して醜悪ですわ!ここは華麗に!美しく!迅速に行動すべきですわ!」



こうまで強気で言われると、何進も自然とそれに引っ張られていく。

袁紹の言に乗り、何進はとうとうその重い腰を上げた。

各地の地方軍に使者を送り、洛陽への入城を命じたのである。


——が、しかし。


彼が行動に移るのは余りに遅過ぎた。

相対しているのは、その策謀の手腕で宮廷を牛耳ってきた何皇后である。

その彼女が、相手の隙を逃す筈が無かった。


あくる日、何皇后に呼び出された何進は、彼女のいる長楽宮にて宦官の兵に取り囲まれ、暗殺されてしまったのである。

何進の暗殺に成功した彼らは、皇帝の権力を自由に操れることとなった。

それを利用して、地方軍と合流していた清流派達に、停戦命令の勅命を出したのだった。











「麗羽さまぁ〜。何進のおっさん、暗殺されちゃったみたいだぜ」


「なんですって!?」


「皇后に呼び出されて、後宮にノコノコと出向いてグサリ、だとさ。妹相手に遅れをとって、何やってんだかなぁ」


「そんな……何将軍が……」



珍しく落ち込む様子の麗羽。

流石の彼女も、自分が煽った直後に彼が死んだ事には、多少の責任を感じているらしかった。

しかし落ち込んでいた様子は数秒も続かなかった。

意を決したように顔を上げると、彼女は口を開いた。



「許せませんわ……!醜い宦官どもは、わたくしが何将軍に変わって誅しますわ!」


「麗羽様……ですが、勅命がきてますよ?これって、停戦命令です」



勅命と聞いて、一瞬動きが止まる袁紹。

しかしすぐに再起動を果たすと、彼女は常からの高笑いを響かせた。



「おーほっほ。そんなもの、陛下の意向ではなく、あの宦官達が出したものに決まってますわ。そんなもの、無視!で、よろしいですわ」


「いや、麗羽様、さすがに勅命を無視するのはまずいと思います……」


「宦官達を一掃すれば、そんなもの、なかったことにもできますわ!おーほっほっほ」


「おー姫、やるか!あたいも退屈してたんだ、いっちょやってやるか!」


「えぇ!さぁ斗詩さん。美羽さんや他の将達に伝えてきなさい。全軍、華麗に前進ですわ!」


「私、もうどうなっても知りませんからね……」




















予定していたタイトルを変更しました。

というか、プロット上では第三回と第四回に分かれていたのをくっつけました。

主人公が出ないシーンをあんまりくどくやってもしょうがないかなあ……と思ったので。

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