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恋姫†演義  作者: おまる
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第二回 「王佐の才と黄巾の乱」-3

桂花×一刀ファンの方ごめんなさい。最初に謝っておきます。

廬椊が罷免され、混沌と化していく黄巾の乱。

その最前線がより北部へと移っていった為、華琳と一刀は手を出す事を控えた。

前回の戦で充分な功を挙げたと判断している。

多くの地方官僚が戦わずして黄巾軍から逃亡していた中、己の手勢のみで打って出て、官軍を率いる朱儁の窮地を救ったのだ。

充分に際立つ戦果であろう。


その判断は正しく、華琳は黄巾討伐の功績で済南国相となった。

相としての職についた華琳は唖然とした。

予想はしていたものの、あまりに贈賄汚職に塗れていたからだった。

華琳は一刀に対し、その全容を把握するよう指示していた。

未だ信用できる人員が少なく、そのため一刀は寝る間も惜しんで自身で動かねばならなかった。

彼らがそのように慌ただしく動いていたまさにその時であった。



——時代の傑物とされる一人の少女が現れたのは。








「荀文若ですって…?麗羽のところから出奔してきたのかしら……すぐに通しなさい」



荀文若。曹操が我が子房とまで呼び、重用した腹心中の腹心。王佐の才とも称される彼の知は、三国志の並み居る英傑の中でも際立ったものだ。

孔明、周瑜と並ぶ知の三英傑と言って過言ではあるまい。

名家に生まれ、容姿に優れ、類稀な知を有する。

晩年は不遇であったものの、一刀のイメージでは完璧超人といって良かった。

それが荀文若だ。


だが……と、一刀は改めて目の前の"少女"を見た。

そう、少女、少女だ。

いや、並み居る英傑が揃いも揃って女性であるこの世界だ。

事前に耳にしていた情報からも、荀文若が女性であることは一刀も知っていた。

だから、女性であることは良しとしよう。

しかし……


(いったい何歳なんだよ……)


そう、その容姿は幼い少女のものにしか見えなかったのだ。

無論史実と比べても意味がない事はわかっている。

曹操にしても、史実で言えば今のような年齢は有り得ない。

この世界は、元の世界と比べ、世に出る年齢が概して低い。

また、様々な出来事が起こる間隔が短い。"まるで物語のように。"


とはいえ、それを考慮していても、この衝撃は大きい。

彼のイメージする荀文若像は、颯爽とした才女で、大人の女性であったから。




「——本初殿は自身が大器である事を示そうと、様々な名士の人物の言を取り入れます。ですがその判断は余人には理解し難い彼女の基準によって行われます。彼女は人物を使う機微を知りません。幅広く手を出しておきながら、詰めが甘く、肝心な部分が疎かになりがちです。策略好きながら、しかるべき時に決断ができません。そのような人物が、天下の大難を救い、覇者の事業を取り治めることができましょうか」


「私もあの子の事はよく知っているから、まぁ理解は出来るわ。それで、麗羽から離れる事になった、と」


「はい。——袁本初は大器に非ず。この混沌としていく世界を治められるのは、曹孟徳様、貴方だと思っています」




一刀がイメージのギャップに悩む間も、華琳と荀文若の問答は続いている。

間違いなく、彼女は仲間となるのだろう。

秋蘭を初めとする助けはあったものの、基本的に政戦両略を一手に引き受けていた一刀。

その負担が軽くなるであろうことを想像すれば、自然と頬が緩む。

なにせ、この時代の人間は一刀から見てストイックに過ぎる。

無論、父の厳しい教育によって一刀も自制は己が物としていた。

だがこの時代の人間の清貧さは、根本的な部分で彼とは違いがあるように感じる。

様々な遊戯に満ちていた元の世界を知る一刀とは異なり。

この時代はそもそも娯楽の種類自体が少なく、それを楽しむ時間も限られている。

また、日々生きることが容易なものではなく、余暇を楽しむ程の余裕がある者は限られていた。

一刀の自制とこの世界の者達のそれは、言わば人工的と天然的との違いと言えた。


一刀がその差を痛感したのは仕官後である。

少年時代は良かった。

無論、前世とは大きな違いがあったが、基本的に子供は学ぶ事が仕事である。

読書は元々彼の趣味であったし、武道も考え方によってはスポーツとも思えた。

それなりに熱を入れつつ、楽しむ余裕があった。


しかし、仕事となれば別だ。

文官の不足により多くの事務処理を彼自身が行う事となっていたが、単なる作業であるそれは苦痛でしかなかった。

献策にしても、彼の言に多くの責任が伴う事を理解していれば、自然と重圧となった。

更に、今取り組んでいる事は賄賂汚職の摘発である。

成果が上がった所で気持ちのよい種類の仕事ではなく、それが一刀の気を滅入らせていた。

故に、その負担を分かち合える仲間が増えるというのは、一刀にとって大きな喜びであった。

しかもその相手はあの荀文若だ。

この時代においても、その知は傑出しているのだろう。

華琳と接しているときのように、会話自体が非常に面白いと感じられる人物だろういう期待もあった。


——あった、のだが。



「司馬仲達。あんたなんかには負けないわよ」



その心を挫くくらいの、明確な敵意が感じられて一刀はため息を吐いた。





華琳と荀文若は、初対面であった筈だ。

だが、文若も一刀と同じように、華琳に対して感じるものがあったのだろう。

真名の交換を済ませた事もある。

華琳に対する忠誠心は既に揺らがないものになっているように見える。

一刀と同じように。


いや、あるいは一刀以上かもしれない。

その様子は心酔している、といっても過言ではないものだった。

その華琳が、一刀を股肱之臣として扱っているのが気に食わないのだろう。

夏姉妹も同じであるが、こちらは将としての役割が強く、文若とは被らない。

これから参謀として曹操に目をかけられたい文若から見れば、先にその立場にいる一刀は目の上のたん瘤である。

ましてや、その一刀の元で働くよう命じられたのである。

これは華琳が現段階では、彼女を一刀よりも下に見てるという風にもとれた。

それにえらく誇りを刺激されたようで、ことあるごとに彼女は一刀に食って掛かっていた。

生来の男嫌い、という側面も大きな理由としてはあったようだったが。



「斜行戦術と言ったかしら?確かにあれは見事ではあったけれども、私が軍師ならあれに負けないくらいのものを献策できるわ」


「えぇ、きっとあなたなら。お互いに切磋琢磨していきましょう」


「なんであんたなんかと!大体、そのすかした物言いが気に食わないのよ。……見てなさい、いつまでも舐められている私じゃないんだから」


「別に舐めているわけではありませんが……。本心ですよ?」



そう、本心だ。

流石にここまで非友好的な態度を見せられて、仲良く振る舞う必要性を一刀は感じていなかった。

かといってお互い華琳の部下であるから、表立って反目するわけにもいかない。

当たり障りなく、かつ若干の皮肉を混ぜて。

そして微かに混ざったその皮肉を汲み取れぬ程、彼女は鈍い人間ではなかった。



「精々今のうちに上から見てなさいよ。……すぐに、あんたが必要なくなるくらいの働きを見せてやるんだから!この私が、華琳様の腹心になるんだから!!」



その瞳から華琳への心酔振りが知れた。

そしてそれに隠れた熱情も。



「……ははは、そうですか」



一刀は理解した。

何故ここまで相手を許容出来ないか。

同じなのだ。

この荀文若と己は。

華琳に対して、主君としての忠誠心と同時にある種の感情を持っている。


——恋敵。


何もその感情を成就しようとは微塵にも思っていない一刀ではあるが、他者のものになるのを笑って見過ごせる程大人ではなかった。

一刀はその激情を内に封しながら、笑みを浮かべて言った。



「お手並み、拝見させて頂きます」



それが更に、文若を不快にさせると知りながら。


だがお互いが相手をどう思っていたとしても、二人は優秀であった。

また、不仲を理由に仕事を疎かにするような人間でもなかった為、荀文若を得た事で一刀の仕事は更に捗り、官の汚職は駆逐されていった。

免職となった官は八割にも及ぶ。

如何に済南の政が腐敗していたかを物語っている。

ただ、これが済南に限る事ではなく、おそらく全土が同じような状況であろうと一刀は見ていたが。


次に華琳が手をつけたのは宗教に関してであった。

民衆に悪影響を与える宗教を放置していては、黄巾の乱の二の舞となるであろう。

その判断には一刀も文若も揃って賛意を示し、邪教の排除を徹底した。

祠があれば取り壊し、集会があれば取り締まる。

一切の例外を認めぬその厳格さ、苛烈さは華琳の気性を表している、と一刀は思う。

この姿勢は好ましくもあるが、同時に問題も生み出す。

評価してくれる味方も作るが、また多くの敵も作ってしまうということだ。


つまりは彼女が洛陽北部尉を務めていた時と同じである。

宦官や外戚達の反感を買ってしまったのだ。







「さて、このように集るのは久しぶりかしら」



そう華琳が口にした為、一刀は自然と周りを見た。

夏姉妹、荀文若、そして自分。

現在の華琳の腹心のうち、主要な人員と言えた。


それぞれが華琳と会う事はよくあった。

夏姉妹は兵の調練を始めとした軍事に関する話を華琳としていた。

一刀と文若は、政に関する報告や相談は頻繁に行っていた。

また一刀や文若が兵の調練に参加する事もあった。


だが、このように五人が揃ったのは確かに久しぶりであった。

それが必要な程に、大きな事が起こったのであろうか。




「私に、東郡の太守の話が来たわ」


「流石は華琳様!おめでとうございます!!」



真っ先に反応したのは文若であった。



「華琳様、おめでとうございます!——で、秋蘭。大守になると何が変わるんだ?」


「いや、姉者はそこまで考えなくて良いぞ」



いつものやり取りをする夏姉妹。

対して一刀は、黙ってその場に座していた。

その様子を見た華琳は、悪戯を行うかのように笑みを浮かべながら、口を開いた。



「あら一刀。あなたは祝ってはくれないの?」



その華琳の言葉に反応し、ぎろりと睨みつけてくる文若。

その口からやかましい言葉が漏れてくる前に、一刀は口を開いた。



「いえ、そんなことは。ただ私には華琳様の考えが読めるだけで」


「——そう。言ってみなさい、一刀」


「東郡太守の座。お受けにならないつもりでしょう?」



その言葉に、夏姉妹も文若も唖然とする。

文若は何かに気付いたようにはっとすると、すぐに悔しそうな表情をした。

華琳は相変わらず笑みを崩さない。



「何故私がこの任を断ると思ったの?」


「単にその時期ではないと。宦官達の目を考えれば、華琳様はそう判断されるのではないかと思いました」



何も華琳の心の内を読んだわけではない。

"歴史知識"を利用したちょっとした知ったかぶりであった。

"史実"においても、曹操は一旦大守の座を辞している。

その時の状況と大して変わらず宦官達に睨まれている今の状況を鑑みれば、華琳も同じ判断を下すだろう、という考えだった。

元の世界の知識をこのようなしょうもない点数稼ぎのようなものに使う事に思うところがないわけではなかった。

だが一刀も必死であった。

これまでと違い、文若という"知"の分野のライバルが出てきた事で、一刀も華琳の関心を買おうとする。

性格的に、誰にも嫌われぬように八方美人の態度を取る一刀だったが、華琳に対する執着がそれを変えようとしていた。



「流石ね、一刀。その通りよ。私は今回、この話を断るつもりだわ」



前世に関する事を誰にも話した事はない為、他の人間から見れば慧眼を有するように映るだろう。

文若のこちらを睨むような表情を見れば、察せられる。


一刀と荀文若の、健全とは言い難いこの関係。

これが将来に暗い影を落とさぬとは限らない。

一刀は知っている。

"史実"において、蜜月の関係であった荀彧と曹操の間に亀裂が入り、最終的に荀彧は自殺してしまう事を。

今の荀彧の華琳への傾倒ぶりや、華琳の器の大きさを見ればそのような事は有り得ないと思われる。

だから、もし史実のような道を荀彧が辿るとしたら。

それは案外、自分が鍵となるのではないだろうか。


好きな種類の人間ではないが、自殺してしまうような悲惨な末路を辿らせたいとまでは思わない。

だが一刀は、浮かんだその考えを振り払う事が、どうしてもできなかった。















荀彧の出会いの場面も大きく変えました。

兵糧をわざと少なくする荀彧は、作者的にどうしても受け入れられませんでした。


さて、次話で第二回は終了です。

次は視点が変わって、黄巾の乱の結末を描きたいと思います。

いよいよ本作のラスボス的キャラが登場します。

魔改造振りが皆さんに受け入れられるかが恐ろしいですが…

まぁ、ほぼオリ主の一刀君出している時点で今更な話ですね!

それでは次話でお会いしましょう。

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