未来創造部はこちらです
「おい、見ろよこれ!」
勢いよく部室の扉を開けて、部長が新聞を大きく広げながら走ってくる。
あーあ、あれじゃ空気抵抗大きくて早く走れないよ。
それに前が見えない。全く危ないったらありゃしない。
「危ないわよ、部長」
カチリと陶器の重なる音と、小さなため息が聞こえる。
アフタヌーンティをしていた由利香は不機嫌そうに部長を窘め、ティーカップをソーサーに置いた。
そんな彼女に見向きもせず、目を輝かせて部長は机の上に新聞を叩きつける。
でかでかと見出しに書いてある文字が、全員の興味をひいたようだ。
ごくり、とどこからか唾を飲み込む音が聞こえた。
「タイムマシーンが、開発されるらしい!理論的にも十分稼働可能だそうだ!
これで、この『未来創造部』も軌道にのるな!」
そう、ここは未来創造部の部室である。
部員は5人。先生たちからは邪魔者扱いされている無認可の部活である。
……つまり、ただの仲の良い人たちの集まりなわけだが。
そんな俺たちをまとめ、放課後に空き教室を確保したのがコイツ、部長である。
天真爛漫で傲慢で積極的な彼に、引きずられるように入ったのが俺ら。
まあ、それも悪くないんじゃないかと今は思えるようになり、彼女のようにお茶を楽しめるまでになった。
なんだかんだで染まっているんだ。
「へえ、庶民向けのタイムマシンもゆっくり開発を始めるらしいぞ。
部長が乗れる日も近いかもしれないな」
小見出しに書いてある文字をなぞって声に出せば、部長は歓喜の声をあげて飛び跳ねた。
そりゃあ文字通り跳んだ。そして由利香に埃がたつからと一喝される。いつものパターンだ。
「これで徳川家康に会える日も近い!」
顔を真っ赤にして徳川家康の素晴らしさを力説する部長は、歴史好きでもある。
特に好きなのが前述にも出てきた徳川家康だ。
「日ノ本を天下統一したから」というのが理由らしい。
部長らしい、素晴らしく単純明快な解答だ。
「トクガワイエヤス?そんなのに部長は興味あるノ?」
「その為にタイムマシーンに乗るノー?」
不思議そうに同時に首をかしげるのは、2週間前に部長に引っ張られて連れてこられた双子だ。
文末のイントネーションが面白いから。らしい。
そんな理由で連れて来られたにもかかわらず、彼らはニコニコと笑ったままだった。
由香里は最初警戒していたが、彼らのホワホワした雰囲気と双子ならではの息の合った仕草に毒気を抜かれたらしい。
すぐに2人は馴染んでいった。そりゃあもう怖いくらいに。
「タイムマシーンって、そういうものだろ?
会いたい人に会う。見たいものを見る。違うのか?」
「まさか!違うはずないヨー!」
「部長らしくていいと思うヨ!」
「お前らは話が分かるなー!」
ぐりぐりと部長に頭を撫でられ、かき回され、キャーと叫びながら彼らは部屋を走り回る。
由香里が叫ぶ声も彼らには届かない。おそらく彼女の声を飛び越えているのだろう。
しばらく追いかけっこをして、満足したのか部長は荒い呼吸を整えるように無造作に置いてあった椅子へと座った。
それが合図になったのか、双子は椅子を探してやっと部屋が静かになった。
ボサボサになった髪の毛を整えることなく、俺の横に1人座る。
「疲れター暑イー」
「そりゃ、あんだけ走り回ればな」
「窓開けてヨー」
「残念。もう全開だ」
うええ、と心底絶望したような顔をした双子を見てしまった由香里が噴き出す。
口元に手を当ててプルプルと肩を震わせている姿はとても愛らしい。
おもわず目元と頬が緩むのがわかる。
「うわーだらしない顔!」
「うるせー。彼女みて可愛いと思って何が悪いんだ」
「え?もう彼女だったノ?」
唖然とした顔で双子が一斉に椅子から立ち上がる。
部長も由香里も俺も訳が分からずに視線を合わせた。
てか、“もう”ってことは俺が由香里を好きだったことがばれてんのか。
2週間しか一緒にいないのに。目敏いことだ。
「じゃあ、何かプレゼントとかあげたノー?」
にやにやと探るような目で見てくる双子と、その視線が気にならないのか、由香里は首元からチェーンを取り出して、見やすいように胸元まで上げた。
部長からヒュー、と下手な口笛が飛んでくる。
「ペンダントを貰ったわ。彼の気持ちが入ってるの。
ふふふ、世界で一つのものよ」
「全く、由香里がこんな奴の彼女なんてもったいないよなー。
……ってやべ、もう5時過ぎてるじゃん。帰ろうぜ」
この教室に一つだけおいてある小さな目覚まし時計の短針が5を少し過ぎている。
部長は年の離れた妹の迎えに、保育園に行く時間だ。
余韻に浸らせてよ!とぷりぷり怒る彼女を尻目に、部長はカバンの中へ持ち物を放り込んで行く。
俺らも腰を上げると、由香里がティーカップを片づけに教室を出て目の前の水道まで行った。
彼女が片づけている間に俺らは教室内を少しだけ掃除する。
いくら空き教室だからって、今日みたいに暴れれば汚れる。
明日ここを訪れるときに汚いとテンションが下がる!と部長は初めてここを使った時から、俺らに掃除を義務付けている。
それが終われば自由解散がいつもの流れだ。
部長は走って昇降口へ向かうし、俺は由香里を家まで送り、双子は気づいたら帰っている。
この程度でいいか、とホウキを用具入れにしまうと、後ろから肩を叩かれた。
双子はアイコンタクトで何かを交わした後、近くにいた方が俺の耳元に唇を近づけた。
どうやら俺に用事があるらしい。
学校近くの噴水公園で、待っているから来い、と。
言う事だけ簡潔に伝えると、双子は同じタイミングで後ろ手を振りながら教室を出て行った。
……なんなんだ。
ちょっとだけ続きます




