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黒姫の奴隷勇者  作者: 分福茶釜
黒の王女と屋敷
6/21

不穏と勇者

『カマキリ』

 交尾後、雌は産卵のための養分を得るために、雄を食べると言われている。

 しかし、交尾後に雄のカマキリが食べられる割合は全体の三分の一であり、全体の半分にも満たない。食べられる雄はどんくさい奴なのだろう。

 ここは、現魔王第二王女が治める旧エルナブル公国領に存在する、セルファの森。第二王女の屋敷からさして遠くないところに位置する小さな森林帯である。

 そこに二つの人影があった。

 一つは、大の男を5人重ねたほど大きくごつごつと岩の様な体を持っていた。いや、岩のよう、ではない……人の形をした岩だった。もう一つはその巨大な何者かの肩に腰かけた小さな一人の少女。かわいらしい顔をしているが、そこに表情は無く全ての感情を閉ざしているかのように見える。彼女は何の感情も映さぬ金の瞳を持ち、瞳と同じ金の髪を後ろで二つにまとめて垂らしている。そんな彼女は時折手に持ったボロボロの気味の悪い人形の頭をなでながら、ぽつりとつぶやいた。


「……黒の王女」




***




 俺はなんだ? そう勇者だ。しかし情けないことに魔王を倒すことは愚か、仲間の仇討ちをすることもできず、今では魔王の娘に隷属契約を結ばれて良いように扱き使われている。それを考えると、はらわたが煮えくりかえる思いなのだが当の魔王の娘と接していると、この感情が消火される炎のようにだんだんと消えていってしまう。……まずい、完全に王女のペースにはまってしまっているようだ。


 だが、いかに足掻いたところで今の俺には何もできない。出来ることと言えば溜息くらいか……

 そんなことを考えながら俺は溜息を吐いて、無駄に広い廊下を歩いていると今最も会いたくない人物に出会ってしまった。そう、いつものように全身黒ずくめの王女さまだ。


「はぁ……」


「……何だ?」


 顔を見て溜息を吐いた俺が気に入らなかったのか、彼女は眉をひそめる。


「いや……何でもないけど」


 誤魔化した俺の言葉を聞いて彼女はさらに不機嫌そうに眉を吊り上げる。この目……絶対信用してないな。


「な、なんでもないって言ってるだろうが!!」


「……ならばそろそろその言葉使いをなんとかしろ」


「はぁ!?」


 彼女の言葉に今度は俺が眉間にしわを寄せる。


「仮にも主である私に対してその言葉使いは無いだろう?」


「俺はお前を主と認めてないけどな!!」


「認める認めないは問題ではない。契約は済んでおるのだから私は貴様の主なのだ」


 俺の言葉に珍しく彼女が反論してきた。いつものように軽く流されるだろうと思っていたが……よほど俺の発言が不満だったのだろうか。


「その契約だってお前が勝手にやったんだろっ」


「……だからどうした?経緯など関係ない」


「関係なくねーよ!? 関係大有りだろーが!!」


 と、俺が叫んだときにバタンっと大きな音を立てて屋敷の玄関が閉まる音がする。


「あれ? 今玄関が閉まる音しなかったか?」


「………………」


「エミリアか?」


「……いや、それは無い。エミリアは私が街に行かせたばかりだ。戻ってくるにしても早すぎる」


「じゃ、じゃあ開いてたドアが風かなんかで閉まったとか?」


「…………」


 彼女は俺の問いには答えずに顎に手を添えて何かを考えるようなそぶりを見せる。が、すぐにまた、食器が割れるような大きな音がした。彼女はその音を聞くなり厨房の様な広さを誇る台所へと足を進める。仕方がないから俺も彼女について行くしかない……




***




「……ひどいな」


 棚から食器という食器が床に落ち、ばらばらに割れている光景を目の当たりにして俺は無意識にそう呟いた。明らかに何者かの手によって食器は割られている。……じゃあ一体そいつは誰だ?先程のドアの音、そしてこの食器を割ったのはきっとそいつである。多分魔物か何かなのだろう……しかし、今までの魔物とは明らかに違う。

 今までの魔物は、襲ってきたとはいえ直接この屋敷を襲ったわけではない。近くの森。街、そして西の湖。……だが今回はどうだ? 明らかに屋敷に侵入し、荒している。今までとは違い明確な意思がうかがえる。狙いはズバリこの屋敷の住人……


「……エミリアがおらぬこの状況では我々が圧倒的に不利だ。しばらくは部屋に籠り相手の出方をうかがったほうがよいな」


「そうだな……でもエミリアが帰って来た時はどうするんだ?知らせないと危ないだろ?」


「ふふん、エミリアは大丈夫だ」


「なんで?……敵の正体も分からないんだぞ? 言いきれないだろう」


「要らぬ気を回すな……貴様は自分の心配だけをしていればよい」


 ? よくわからないが……大丈夫ならいいのだろう。どうせエミリアも魔物なんだろうし。

 辺りを見渡すが、やはり犯人らしきものはいない。当たり前か……しかし音を聞いてからそんなに時間を開けたわけではないのに、まるで初めから誰もいなかったかのような静けさ……よほど素早い動きができるらしい。

 部屋を一周見回して俺は近くに転がっていた食器の破片を何とはなしに拾おうとした。……のであるが、突然自分の背後に殺気を感じる。


「なっ!!いつの間に」


 素早く後ろを振り向くと、奇妙な形をしたカマキリの様な生き物が俺に向かって巨大な鎌を振り上げていた。あまりにも突然のことで俺は魔法を使うことも忘れ呆然とその振り上げられた鎌を見つめることしかできなかった。

 

 刹那、俺の視界は黒で覆われる。






 お読みくださりありがとうございます。

 区切りが良いので短いですがとりあえず今回はここまで。

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