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黒姫の奴隷勇者  作者: 分福茶釜
黒の王女と屋敷
1/21

主と勇者

『二人の受刑者』


 とある裁判長がAさんとBさんに二十年の禁固刑を言い渡しました。続けて裁判長が言います。

「真面目に刑を受けるなら二回だけお前たちの願いをかなえてもよいぞ?」

 この裁判長の言葉に二人は目を輝かせました。その様子に満足したのか裁判長はうむと頷きます。

「では……最初の十年を過ごすために一つ目の願いをかなえよう、何でも言ってみよ」


 Aさんは言いました。

「ならば私に千冊の本を与えてください」


 Bさんは言いました。

「私は千本のワインボトルが欲しいです」


 裁判長は小さくうなずくとすぐに千冊の本と千本のボトルワインを二人に渡しました。

「では二人とも、十年後にもう一度願いをかなえにくるからな、それまでおとなしくしていろよ?」


「「はーい」」

 二人の返事に満足したのか、裁判長はその場を後にしました。



 十年後……


 再び裁判長は二人の元を訪れました。


「さて……十年たったぞ、二人とも。残り十年を過ごすためにまた願いをかなえよう。何でも言うが良い」


 Aさんは言いました

「では、もう一度千冊の本をください」


 Bさんは言いました。

「コルク抜きをください……」

 もう一カ月になるな……俺は冷たい床に寝転びながらそんなことを考えた。一か月前、勇者として魔王と対峙した俺は、魔王の圧倒的な力の前に敗れた。仲間達は目の前で殺され、俺だけは牢に閉じ込められた。魔王曰く、勇者を飼うのもおもしろいかもしれないとのことだ。……今でも昨日のことのように思い出す。仲間達の断末魔、魔王の俺を見下したような目……無意識に俺は血がでるほど自分の手を握りしめていた。


「絶対に……こんなところ出てやるっ」


 暗く冷たい牢獄の中、俺は誰に言うでもなく小さくつぶやいた。




***




 騒がしい……

 いつの間にか眠っていた俺は外から聞こえてくる騒音で目が覚めた。いつもは嫌というほど静かな牢獄の外が何やら騒がしい。何かを言い争っている声が聞こえる。俺は閉じていた目を、ゆっくりと開けて声の聞こえる方に目を向け、耳に神経を集中させる。


「危険です!!ここは……グワッ!!」


 どさりと何かが倒れる音が外から聞こえてくる。なんだ?……なんかヤバい気がする。ここから早く逃げろと先程から俺の長年の勘と言う奴が騒いでいる。しかし、いくら騒がれても今の状況ではどうしようもないのだが……


 ドガアアアアンッ!!

 そうこうしているうちに、とんでもない破壊音をたてて牢獄の壁が崩れ落ちた。寸での所で崩れ落ちてきた瓦礫を避けることができた俺は、崩れた壁の向こうのぼんやりと見える人影を―――おそらく事の原因になったであろう人物を睨みつけた。


「誰だ……貴様ら」


 壁を崩して入ってきたのは二人。

 一人は、一言で言うのならば黒。一点の穢れもない漆黒の髪に、吸い込まれるような闇色の瞳を持った女である。飾り下のない黒のタイトドレスを着こなし、黒のロンググローブ、黒いブーツで身を包んだ黒ずくめの格好だ。唯一黒くないものは、彼女の頭に付けられた鈍く光り輝く鉛色のティアラ、それが一層彼女の漆黒の髪を一層引き立てている。


「お嬢様、お下がりください。何をしだすか分かりません」


 その彼女の後から、入ってきたのは使用人のような格好をした女。濃紺の髪に燃えるような赤い瞳で無表情にこちらを睨みつけてくる。その瞬間俺の体がぞくりと震える。これは、……魔王と戦った時に感じた威圧感にも匹敵するかもしれない。俺の体から嫌な汗が流れ出てきた。

 この二人は一体何の用でここにやってきたのだろうか……俺は彼女達とゆっくりと距離をとりながら、逃げ道を探す。幸い、彼女達が牢屋を破壊したおかげで逃げ道には困らなそうだ。


 俺がじりじりと下がっているのに気がついたのか、黒髪の女の方がつかつかと俺の方に近づいてくる。


「……っ!!……」


「お嬢様!?」


 あまりにも早く俺の目の前にやってきた彼女に驚愕する。使用人の格好をした女も少しだけ驚いたような声を上げている。なにをするつも…………っ!!


「うっ……ぐあああああっ!!」


 突然、俺の目に強烈な痛みが走る。……この女っ……一体何をした?

 あまりの痛みに、とうとう俺は意識を手放してしまう。最後にちらりと見た彼女の顔はひどく満足そうに俺を見下ろしているように見えた。




***




 「ん……んん!?……んんんんんっ!?ってここどこだあああああああああああ!!!」


 がばりっと俺は起きた。よく見ると俺はふかふかなベットの上で寝かされていた。服も牢屋で着させられていた粗末なものとは変えられている。この肌触り……かなり高級なものだと分かる。一体誰が……こんなことをしたのだろうか……


「目が覚めたようですね」


「誰だっ!?」


 突然かけられた声に、びっくりして振り向けば先程の濃紺の髪の使用人姿の女がいた。……というか、え?……混乱しすぎてこの現状が理解できない。頭を抱えたい俺の心境を知ってか知らずか、濃紺の髪の女性は俺に現状の説明をしだした。


(わたくし)は魔王族に仕えるものでございます。名はエミリア・フォレンドリアム。本日より貴方は、お嬢様の下僕としてここに連れてこられました。お起きになるのでしたら、こちらのお召しものをどうぞ」


 ぽかんとしている俺に服を手渡してくるエミリアと言う女。……は、え?えええ!?


「ちょっ……ちょっとまて!!お嬢様って誰だ?それに貴様……魔王に関係している者なのか!?」


「着替え終わりましたら、この部屋から出てきてくださいね。お嬢様にご挨拶していただきますから……」


エミリアはそう言うと、部屋から出て行く。

どうしろっていうんだよ……渡された服に目を落とす。これまた高級そうな服だ。


「いったいなんなんだよ……」






 お読みくださりありがとうございます。

 この話は不定期更新になると思います。思い付きですから……

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