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剣と魔法と世界と箒  作者: 久乃 銑泉
第壱部・弐章 交々者事・いろんな ものこと ありまして
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第捌話 霧奥小屋・ぬまのこや

 昼少し前の16の刻(およそ10時半)、本来であればふたつの太陽が燦々と大地を照らすこの時刻。薄く広がる靄の底を、2人の旅人が進んでいた。太陽光は何重にも遮られ、僅かな薄明かりのみが申し訳ばかりに視界を白く染める。

 この靄、なにも異常気象などではない。エサンから東部へ広がる広大な湿原地帯、特にここ北部の沼地では日常茶飯事の光景である。悪い足場にこの視界不良を加え、このあたり一帯は特に旅人に人気の無いルートなのだ。

「ま、僕には足場云々とか関係無いけどねー」

「…何言ってるの…?」

 急に横で謎の台詞をのたまい始めた連れには、冷たい視線を送っておいた。ただでさえ歩き辛いこの道、すぐ隣で空飛ばれた日にゃ、こんな視線のひとつやふたつぶつけたくもなる。

「えーと…あ、そーだカナちゃん、その小屋まであとどれくらい?」

「もうすぐそこ」

 小屋、とはこの寄り道の目的地だ。元々夕依が立ち寄る予定だった場所でもある。

 …実際のところ、小屋というのは通称だ。その実、外見以外は“小屋”なんてものでは決してない。そもそも、アレを建造物と定義していいのかどうか。

 と、そんなどーでもいいこと考える内に、目的地が見えてくる。

「ここよ」

「…えーっと、ここ? 小屋なんて見えないんだけど…」

「…ユアシセテスウラヌウノツンハテジニアツヨト」

 きょろきょろと周囲を見回す双羽を無視し、夕依は小声で一息に呪文を呟いた。

 その言葉に呼応するかのように、ごく一部の靄がすっと晴れる。視界が少し広がり、焦げ茶色の小屋が姿を現した。…どう見てもこの程度の靄で隠れ切るほど大人しい色合いでない、なんてツッコミは無粋である。なんたってこれは“魔法”なのだから。

「うわぁ…すっごいね…」

「これで驚いてたら、中に入って心臓止まるわよ」

 先も言った通り、これが小屋なのはほぼ外見のみ。本当に凄いのは中身なのだ。

 万が一迷わないよう、もう一度経路を脳内に構築し直す。これで良し、と頷き、ちんまりとした扉を押し開けようとしたあたりで双羽に呼び止められた。

「あのさ、さっきもごもご言ってたのって、何?」

「…呪文よ。普通の魔法使うのに必要なもの」

「そーいえば言ってたね、僕たちの魔法は呪文無しで使えるのが強みだ、って」

 同時にそれは、その魔法を使うのが来訪者であるという事をもしっかりと示してしまう。

 この世界において、本来呪文を必要としない魔法など存在しない。ここでは日常の隅々にまで浸透している魔法だが、そんな日常生活レベルのものでさえ一言二言は何かしら唱えるのだ。

 基本的に魔法の威力と呪文の長さは比例するため、戦闘魔法などはそこそこの長さになってしまう。魔法道具の場合は直接使うよりマシだが、まあ比例関係に関しては変わらない。無言の魔法行使は、この世界の常識からすれば異常な出来事と言える。

「…んー、それじゃ、カナちゃんって普通の魔法も使えたんだね」

「今のは魔法道具。あの雷の指輪と似たようなものだから…」

「ほへー」

 どちらかと言えば、この小屋自体ひとつの大きな魔法道具だ。靄による隠蔽は機能のひとつに過ぎない。

 とりあえずは双羽の疑問も終了したので、小屋へと足を踏み入れる。扉の奥は光の射さない真っ暗闇だ。微かに踏むべき地面の存在だけは認識できる程度。

「…ま、真っ暗…」

 なんだか双羽の声が震えている気がする。恐怖かと一瞬考えたが、巨大ムカデに突っ込んだ人間が暗闇なんぞを怖がるとは思えない。気のせいだろう。

「すぐ明るくなるわよ…ほら」

 さらに一歩進めば、す、っと視界が色を持つ。いつの間にやら、周囲には巨大な石柱が整列していた。古代ギリシャの神殿、と聞いて一般人がまず思い浮かべそうな、そんな光景である。見える範囲ずっと石柱というのは、流石に規模が大きすぎる気もするが。

「…何さ、これ」

「半分は幻で、半分は袋小路になってるの。…迷わないように、ついてきて」

 柱を数えながら真っ直ぐに進み、23本目の柱の手前を左へ曲がる。その先にもさらに同じような柱列が続いているが、次はすぐに右の柱の間へ。抜けた先は、ゴツゴツとした岩肌の洞窟だった。

 思わず後ろを振り返り、どう見ても洞窟の出口にしか見えない光景に首を傾げる双羽。

「…気にしてたら始まんないね」

 彼も、ようやっとこの場所の鉄則を理解したようだ。背景の変遷ごときに一々反応していればキリが無い。

「次はこっちよ」

 更に進んで3つ目の横穴へ潜り込み、次の多分岐を右の2番目へ。続くアスファルトのトンネルを真っ直ぐ抜け、出てきた巨大な木のウロから裏側へと進む。目の前に現れた火山地帯の火口を大きく迂回し、遙か下に青白い氷河の流れを望む吊り橋を渡ればそこはどこぞのお堂であった。

「次は、縁側に沿って左に…」

「カナちゃん、こんな道よく覚えてるねー」

「……」

 まあ、彼女はこの場所を作った張本人なのだから知っているとかそんなのはどうでもいい話。双羽の疑問には答えず歩を進める。

 左へ曲がった後はすぐ突き当たりのお堂に入り、階段を下りてから…

「カナちゃん危ない!」

「…!」

 先の道を考えていたためだろう、少し反応が遅れる。とっさに飛び降りた木の床に、丸太のような腕が突き刺さっていた。

「ウガアァァ!!」

 幸いその腕の主はすぐにでもこちらを襲うつもりは無いらしく、様子見とばかりこちらを睨みつける。その間に地面を転がった夕依は体勢を立て直すことに成功した。

「…カナちゃん。このゴリラもどき、何?」

「…よく分かったわね。ゴリラもどきよ」

 立ち上がった夕依の隣へ、双羽が飛び降りてきた。相対する土気色のゴリラっぽい何かは、引き抜いた腕を振り回している。威嚇のつもりだろうか。

「これ、無視して行ってもいいのかな?」

「ウグゥゥゥ…」

「…後ろから、殴り飛ばされてもいいのなら…別に」

「よし、倒そっか」

「ウグ、ガァァッ!」

 す、っと箒を前に出す双羽。やっと動く気になったのか、ゴリラもどきも地面へ飛び降りてきた。が、そんなもの待つ必要はない。

「呪術・金縛り」

 着地寸前で体を固められたゴリラもどきは、バランスを崩してすっ転んでしまう。それでも流石に力が強く、すぐ夕依の魔法を払いのけた。

「せぇいっ!」

「ウガァぶッ!?」

 直後、双羽の箒がその頭を地面へ縫いつける。のっけから頭部狙いの串刺しとはまた恐ろしい一撃だが、残念この怪物の弱点は別にあるのだ。

「…双羽、背中の窪みよ」

「りょーかい!」

「ガアッ!」

 箒を小さくすることで引き抜く双羽。その足を払うように右腕が振り抜かれるが、既に双羽は箒と共にその頭上。それでも素早く反応し、右手に降り立った双羽を次は長い左腕が押しつぶした。

 …そして、そのままの姿勢でゴリラもどきはバラバラと崩れ落ちる。ついさっきまで怪物だった土塊を、双羽がこつんと蹴り飛ばした。

「…悪夢・どっぺるゲンガー…」

 魔法によって、右手に着地してそのまま叩き潰された双羽、の幻を見せたわけだ。おかげでゴリラもどきはその弱点を無防備にさらすこととなった。そこを双羽が箒でフルスイングしたのである。

「いっちょあがりー、っと!」

 箒をしまい、双羽がこちらへてててっと駆けてきた。それを横目で確認しつつ、夕依はとある疑問に首を傾げる。

 あの土の怪物、魔土偶というのだが、この小屋に元々置いてあったものだ。そこはいい。ただ彼女の記憶が正しければ、あれは動作の可能な状態の持続に時間制限のある品。一度の起動では3日しか動かず、止まる度誰かが起動させ直す必要があった。そして夕依の知る限り、少なくとも一年と半分前の時点で、小屋は無人だった…ハズだ。

 つまり、ここ3日以内に何者かがこの場所へと忍び込んだ可能性が高い。しかもあんなものを起動させているという事は、そこそここの小屋に詳しい人物か。ということは、今もここに滞在していると考えた方が良いだろう。

 …一瞬その侵入者として最も確率の高い人物を思い浮かべ、夕依は軽く頭を振った。この先にいるのが“彼”だなんて、考えたくもない。

「カナちゃーん、早く行こー」

 思考に没頭し、双羽を待たせてしまったようだ。

 一度縁側へ上り、先のお堂へと歩を進める。目的地へと近づきながらも、この異空間への警戒を強める夕依であった。


……


 小屋の最奥に位置する研究室兼物置、その中でも特に堆く積まれた本の山に、白衣を纏った長身の男が腰掛けていた。簡単な発火装置から取り出した即席炙り肉を右手に、絶賛早めの昼食中だ。

 …と、侵入者発見の警報が鳴った。大切なランチタイムの中断に眉を寄せつつも、彼は横手の棚に立て掛けてあったガラス板をのぞき込む。普段すっきり透明なソレには、丁度巡回させてていた魔土偶が侵入者たちを奇襲する様子が映し出されていた。

 ここに置いてある物の中には、なかなかに貴重な品も数多く交ざっている。そのため、普段から警戒用に魔土偶を巡回させているのだ。

 …それにしても、あの体勢からあの攻撃を避けきるとは。手前の黒マント、中々戦い慣れているようだ。まあ、あそこですぐ追撃にいけない魔土偶の頭の弱さには頭を抱えるところだが。

 対して奥の少年、こちらはなんだか色々と測り辛い感じがする。どっからどー見ても弱そうなのに、いざ相対すると足元掬われそうな、そんな雰囲気。…こればかりは、実際に向き合ってみないと何とも言えないだろう。

「ククク、お手並み拝見、といかせてもらおうか」

 念のため、今侵入者を襲撃している腕部強化型以外の魔土偶を全てこの部屋へと召集する。今自由に動かせるのはアレ含め7体だ。一瞬部屋の前に残り6体並べておいてやろうかとも思った。が、仮に腕部強化型を突破してくるような相手ならば、そんなもの威嚇にすらならないだろう。単純な戦闘力ではあのゴリラもどきが最も優秀なのだ。

「…む。思ったより早かったな…」

 そうこうするうちに腕部強化型は頭と弱点を粉砕され、ただの粘土塊になっていた。いくら小手調べといえ、予想よりも大分と早い。こうなると、他の魔土偶は戦力外と見た方が良さそうだ。

 そう判断した白衣の男は、手元の魔土偶を全て“休止モード”に切り替えた。手のひらサイズの土人形となったそれを、隣の物置へと放り込んでおく。無駄に物資を消耗させるのは愚策以外の何ものでもない。

「そういえば、まだ昼食を終えていなかったな」

 もう少しすれば、あの侵入者たちによって食事時間なんぞどこかへ消え失せることだろう。そうなっては困ると最後の炙り肉を口へ丸ごと放り込み、飲料水で流し込む。

「…むぐ。う、がほっ、ごほっ!!」

 …急に飲み込みすぎたらしい。盛大にむせたのを水で無理矢理押し止め、なんとかかんとか呼吸を取り戻したあたりで部屋の戸が勢いよく開けられた。なんだか、最大限無駄な時間の使い方をしてしまった気がしなくもない。

「…誰?」

 視線の合った黒マントが、開口一番警戒オーラ全開の一言を発する。

「ふむ、それは住処へいきなり不法侵入されたこちらの言うべき台詞だと思うのだがどうだ」

「それもそだね」

「そうだろう」

「……」

 何故かこちらに同調した箒の少年とアイコンタクトを交わし、頷き合う。彼とは気が合いそうだ。

「なんで、無言で意気投合してるのよ…」

「出会いは大切にすべき、そうだろう。…それより、そのまま立ち話というのも何だ。適当なところに座るといい」

 見た目こそ幼い2人だが、その実、腕部強化型魔土偶をモノの数秒で破壊してのける猛者たちだ。でき得ることなら話し合いか何かで穏便に済ませたいところ。

 先に襲撃しておいてと言うかもしれないが、こればかりはしょうがないことだ。そこはもしゴネられてもなんとか納得してもらわなければいけない。

「何か用事があって来たのだろう。まずは話を聞こう」

「誰が見知らぬ人間に…」

「わわ、このボール何!? すっごく綺麗だよ!」

「……」

 むやみやたらとピリピリしている黒マントに対し、好奇心満載で部屋に飛び込んでくる少年。少しは他人を警戒しろと言いたいところだが、まあこのタイミングにおいては非常に助かるわけで。

「…うむ、その玉は位置把握センサーといってな。別の玉を登録すると、それのある方向と距離を…」

 渋々とばかり足を踏み入れた黒マントを横目に見つつ、少年にこの部屋の道具についての解説をする。どうも様子からして少年は付き添いらしいので、用件は黒マントが口を開いてくれるまで一時保留だ。

「これはー?」

「うむ、“ひとつ押すとそのほか全部が震える石”という魔法道具だ。名前は長いが効果はそのままだな」

「それじゃ、このドク…」

「…白河しらかわは、どこ?」

 突然、黒マントが口を挟んでくる。だがまあ元々無視するつもりも無いため、しっかりと答えておこう。

「白河というのが白河 貴斗たかとのことならば、知らんな。まあその人物自体は知っているが」

「それはそうよね…それじゃ、あなたは誰? …どうして、ここにいるの?」

 やっと話が進みそうだ。少年と魔法道具の話をするのも良いのだが、零下の視線に晒され続けるのは精神衛生上得策でない。

「俺の名は、大田宮おおたみや 華月かつき。名前で分かるだろうが、来訪者だ。…で、こちらとしては次の質問に答えるのもやぶさかではないのだが、その前にそちらも名乗るのが礼儀ではないか?」

 こちらだけ名乗ったままというのもなんだか不公平だ。それに、いつまでも“少年”や“黒マント”と呼び続けるのも何だろう。別に今から喧嘩すると決まったわけではないのだから。

「…私は、金峰 夕依よ。こっちの、騒がしいのは…把臥之 双羽。…付き添いみたいなものだから、気にしないで」

「まあ、だろうな。…さて、2つ目の質問への回答だが。まあ俺は端的に言えば居候というやつだな」

「…居候? 白河とは…」

「まあ待て、質問はひとつづつ。それが礼儀というものだろう?」

 さっきから妙に白河について食いついてくる。そもそもここに入れたことからして、あの変態の関係者だろうか。…にしては真人間のようだが。

 あと、ずっと話に付いてこれずふてくされている少年が見ていて面白い。

「…俺が召喚されたのは、ちょうど8ヶ月ほど前だ。正確な期間は分からんがな。で、しばらくは右も左も分からずさまよっていたワケだが、すぐに空腹で行き倒れた。そこを白河に助けられたのだよ」

 まあどうせヤツのことだ。小屋の出入りの邪魔になるとかそんな理由だったのだろう。

「白河が、ここにいた…」

「まあ、ふと立ち寄っただけだったらしいが、な。すぐまたどこかへ出掛けて行ったのだが、そのとき俺をここに置いていったわけだ。誰もいないよりはマシ、とか何とか言っていたが」

「…そう」

 とりあえず、向こうの疑問は解決したらしい。それならば、次はこちらの番だ。

「さて、次はそちらの目的を話してもらおうか。俺に会いに来たわけでは無かろう。こそ泥などの類でもないようだしな」

「…目的は、似たようなものよ。ここに置いてある…そうね。私物を、回収に来たの。…昔、ここにいたから」

「ふむ、なるほど」

 実のところ、華月にとってここに置いてある物はそれほど大切でもなかったりする。どちらかというとこの隠れ家自体を気に入っていただけで、魔土偶による警備はそのついで。仮に強力な侵入者でも来たときは、迷わずここの品々を差し出していたことだろう。

 つまるとこ、夕依の目的はこちらの利害と何ら相違無いという事だ。回収目的が私物だというのであればなおさらである。多少そうでない物を持って行かれたところで懐は痛まない。

「うむ、それならば問題無いな。好きなだけ持って行くといい」

「好きなだけ、って…」

 少しの呆れを滲ませつつも、棚にある魔法道具を選別し始める夕依。なんとか安息の地の平穏は守られたようだ、と肩を下ろす華月は、しかし重要なことを忘れていた。

 …“いつも騒がしいヤツが静かなとき、ロクな事はない”。スマートに生き抜くために覚えるべきこの世の定理、その一端である。

「…む、何の音だ」

 突然、隣の部屋から何かを叩きつけるような音が響いてきた。まるで数体の魔土偶が暴れている音にも聞こえるがそんなバカな。

「…何、この音」

「いや、少々思い当たる節が無いことは無いのだが…。…うん? そう言えば…あの把臥之とかいう少年はどこだ?」

 嫌な予感がする。

 見回す華月の視界の端に、ガラス製のドクロを持ってひっくり返る双羽の姿が映った。…嫌な予感がする。

「…まさかとは思うが、貴様…」

「ん、なーに?」

「そのドクロ型と視線を合わせたまま、棚の上から飛び降りたりはしなかっただろうな…?」

「あれ、なんで知ってるの?」

「ぬぐぉぉ…」

 …まさか、あのドクロの作動条件“目をしっかり合わせたまま自分の身長以上の落差を飛び降りる”を室内で実現するヤツがいるとは。世の中はなかなか広い…ではなくて。

「…で、双羽君の、その変な遊び…何か、問題でも?」

「ああ、大有りだ、大問題だ。あのドクロはだな…所有者に強力な不運をひとつだけ呼び込む魔法道具なのだが」

「不運…」

「ちなみに、今の行動で発動条件は満たされている」

「そう言えば…あの音、魔土偶よね…」

「察しがいいな。まあ、そういうことだ」

 あのとき華月は、魔土偶をすぐ再稼働可能な休止モードで隣部屋へ放り込んだ。何故に完全停止させなかったのかというあたり悔やまれるが、まあ今更言ってもしょうがないこと。

「え、っと…僕、何かした?」

 相変わらず付いてこれてない双羽は、今回に限り軽い殺意の対象だ。誰のせいだと思っている。

「とりあえず把臥之とやら、箒を出しておけ。…来るぞ」

 轟音と共に、部屋のドアが吹き飛ばされる。ドアにしてみれば身に覚えのない理不尽な暴力だろう。だがこちらにとって問題なのは、壁に空いた穴より暗く輝く6対の目。

 今回ドクロのもたらした不運、魔土偶の暴走だ。全部一気に来たのは予想外だったが。まあ、今さら多少の予想外では動じない。

「あ、さっきの粘土マン」

「…貴様の蒔いた種だ。死ぬ気で何とかしろ」

「はーい」

 さ、っとそれぞれの構えをとる3人。少々奇妙な即席メンバー、ただし兵力としては十分だ。

 …相手の出方を窺いつつ、なんでこんなことになったのかと内心頭を抱える華月であった。


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