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剣と魔法と世界と箒  作者: 久乃 銑泉
第壱部・陸章 刻終異旅・ながきに わたる このたびは
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第伍拾参話 急転追尾・おわれる わけに あてもなし

 いつにも増して短いけれど、キリが悪かったんです。あと、急に登場人物増えてるので台詞の対応注意。

 この世界に、月はひとつ。昼は双子の太陽が大地を照らすが、夜の月明かりに関して世界間に差は無い。よって追跡者がほの暗さに潜むのも、また同じく。

「…ふむ。双羽」

「ん。だね」

 横を歩く白衣も気付いたようである。

 人通りに紛れて後ろに2人、左にずれて1人。街灯に照らされたメインストリートだが、隠れる場所など少なくない。夜になってそこそこの人通り、というのも追跡者に味方する。妙に距離を置いているのも隠蔽に有利な要素だ。

 だが、気付いた。全員把握しているわけではないかもしれない。それでも気付いた以上、今主導権を握るのはこちらだ。少なくとも、こちらが気付いたことに相手が気付くまでは。

「(…どうする?)」

「(うーん…選択肢は、みっつ、かな。このまま宿へ帰る、頑張って撒く、別の場所に誘導してご対面)」

「(一つ目は、無いな。撒いてみるか?)」

 幸い、静寂と言うほど静かな道ではない。歩く速度に気をつけつつ、ぎりぎり互いに聞こえる声量でもって話し合う。未だ追跡者に目立った動きは無いが、振り向かないようにしている以上詳細は分からない。

 まあ実のところ、跡をつけられるのは初めての経験でもないのだ。野党の類は大抵偵察代わりに旅人をしばらく見張る。今現在比較的落ち着いた対応をとれているのは、彼らのおかげと言えなくも無い。

「(でもさ、もし宿屋の方にもあの人たちの仲間が行ってたら…)」

「(なるほど、そもそも拠点の発見が目的でない場合だな。こちらの隙なり何なりを窺っている、と。そう仮定するならば、相手を合流させるのは悪手か)」

「(だね。ってことでオススメは三番)」

「(向かう先は?)」

「(昼間さ、おっきな劇場あったでしょ?)」

「(なるほど。広くて人の居ない場所、だな)」

 今ある情報から、向かう先を定める。少し東へ入る宿への道から、メインストリート沿いの巨大劇場へと。安息の場所から、対峙の場へと。

 宿屋へ行くならば曲がるであろう角を直進したとき、追う者の動きに僅かの反応があった。予想はそう外れていなかったらしい。

「(だいじょぶかなー…)」

「どうした?」

「ん、何でもないよー」

 一瞬脳裏によぎるのは、黒衣の少女。自分たちが戻らないとすれば、追跡者の一味は宿の方でも行動を起こすだろう。敵対すると断言はできないが、友好的な手段に出るとも思えない。

「(…ま、だいじょぶかな)」

「だから何なのだ」

 ただし残念なことに、宿には姉がいる。姉がいるのだ、双羽の。

 一瞬の心配は、即座に冥福の祈りへとすり替わるのであった。


……


 宿への道を逸れる目標2人。気付かれたのか。確かに自分たちは追跡のプロでも何でもない。だが、それは同じく追われる者にも言えること。しかも、こちらが仕掛けている追跡は普通のものではないのだが。

「って感じだけど…どうするの? まだ追う?」

「当たり前よ。テミニア、勝手に監視解いたら承知しないから」

「はぁ。そんなことしないって」

 どうにも怒りっぽいリーダーを盗み見、テミニアは密かにため息をついた。むろんそんなことで追跡の手を緩めたりはしない。

 なんせ彼女こそ、この追跡劇の主軸。自分たちは後方遠くを行き、直接の追跡は彼女の操る真っ白な鷹に一任しているのだ。行動を共にする2人に戦闘力でこそ劣るが、スカウト的な能力に関しては抜きん出ている。

「しかしなぁ、これじゃあ合流しての襲撃、って作戦は無しだぞ。どーすんの」

「っ、メンドクサいわね。…テミニア、向こうに連絡! そっちだけで仕掛けろ、って!」

「はーい。ええと、攻撃合図は…ツバメだっけ。…いってらっしゃい!」

 予めの取り決めに従って“真っ白なツバメ”を生み出し、飛ばす。広い街だが、向こうに同行させてあるヤモリを目印に辿り着くことだろう。

「合図送ったわよー。…ん?」

「おう、どした?」

 そこで、彼女の鷹が動きを止めた。追跡対象者の真上を飛ぶようにしていた訳だが、それが止まったということは。

「止まった。うーんと、こっちね」

「そっちは確か…」

「…劇場、ね。今の時間は何もしてないはず」

 不可解な行き先に疑問を感じつつも、急ぎその場所へ。大通りから少し中へ入り、受付の居ないゲートと鎖を潜る。その先の大きなステージに、居た。

「うーん、やっぱり3人だけかな?」

「そんな気はするがな、油断はするな」

 長髪の少年と、白衣の青年。昼間は閉じられているであろう、天幕の隙間から射し込む光。それは、人物の把握を可能とするだけの光量をもたらす。

「追われてるって気付いて、待ち構えてたわけね。気にくわないわ、その剛胆さと、判断力。ちょっと痛い目見てくれない?」

「あー始まっちまった、リーダーの八つ当たり」

「会って早々、な。自己紹介の暇すら無いとは、またセッカチなことで」

 一応現在両陣営に分かれてはいるが、正直言い分としては向こうに分がある。目的のための手段の一致さえ無ければ、テミニアとしてこんなことしたくない。

 今ここにいる5人の内、衝突を望む者は1人だけだろう。

「さて、特に話すことある? 無いわよね? いくわよ」

「やー、ちょっと待ってよ。まずは自己紹か…」

「知るか。死ね」

 相手の言などまるきり無視した、リーダーの一撃。目にも留まらぬ速度の円盤4つが、ステージを狙う。

 まだ距離が開いている、という油断。そういう類の気の隙間を突く不意の攻撃。しかし、その意図を満たすことはなく。

「ふーん。…先に手を出したの、そっちだからね?」

「全く。最悪一歩手前の想定通り、か。喜べんな」

 無傷の敵を睨むリーダー横目に、テミニアの今日何度目か分からぬ溜め息が霧散した。

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